藤野英人『さらば、GG資本主義~投資家が日本の未来を信じている理由~』〜読書リレー(147)〜

 

 

高齢化社会の弊害について経済の観点から捉えた本です。藤野英人氏は前回も取り上げたように、レオス・キャピタル・ワークス創始者の一人にして代表取締役社長という人物です。その彼が自身の投信で見てきた日本社会の現状について捉えた一冊となっています。

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GGとは、その頃から「じじい」というものをもじったものであり、また「Golden Generation」と著者は説明しています。(もっとも、この言葉の定義については本書ではきちんとされておらず、東洋経済の記事で見つけました笑)

日本を滅ぼす「GG資本主義」という病気 | 投資 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

 

著者が引用したデータに基づけば、60 代以上が社長をしている会社よりも、 30 代、 40 代が社長となっている会社は、売上高の伸び率も、株価の上昇率も高いというのです。しかし、高齢化社会によって今後ますます多くの企業の社長が、高齢化していくといいます。

 

それだけであればまだ良いのですが、そうした世代がどうしても保守的になってしまい、新しいビジネスの機会の目がなくなってしまうということも懸念しています。さらに悪いことに、高齢化によって、そうした世代が、世代交代されることなくトップに居座り続けることになる。そうなってしまうと、良い循環というものは起きません。

 

そうしたリスクを取らないことを最優先とする思想がGG資本主義の主軸になっているというのですが、それがよくあわられていたのが、1990年代から2000年代にかけての銀行業界の投資のスタンスです。当時の不良債権処理などの金融危機の最中、銀行は少しでもリスクがありそうなベンチャーや中堅中小企業への融資を抑え、大企業や一部の超優良な中小企業にだけは競うように低金利を提示するというような、大企業一辺倒のスタンスを取ってきました。そうしたために、リスク回避志向が今までも続いているといいます。

 

これを打破するために、著者は「虎になれ」といいます。この文脈でいきなり虎になれと言われると?となりますが、著者自身の言葉を借りれば、「群れに頼らず単独で行動し、スキルを磨いて獲物を手に入れていく。」「忖度したりされたりするのではなくて、「オーナー・シップ(当事者意識)」を持ち、自分の心の声に従い、人生は自分のもの、自分で切り開いていくんだという強さ」を持っていることだといいます。そして、この虎のなり方は大きく分けてつぎの三つがあるといいます。

 

1.東京などの都市部で起業し、活躍する「ベンチャーの虎」

2.地方を引っ張るリーダーである「ヤンキーの虎」

3.会社の中で存在感を発揮する「社員の虎」

 

特に3.は、会社員でありながら、組織の意向を慮るよりも、自分の意思に従い働くというスタンスです。このスタンスがこれから重要になってくると述べています。

 

そして、こうしたマインドを持つ人が増えていくことにより、どんどん日本社会の種々の課題が解決されていく、そういったことを著者は願っています。

 

著者自身は、高齢化社会自体を批判しているわけではないとひたすらに強調しています。そして、問題の本質を、「古い思想を押し通そうとする人たちが社会の中にいて、若い世代の自由を奪っていること」としています。なぜなら、この構図が生み出すのは世代間の対立であり、分断であると懸念しているからです。

 

私は比較的若い世代の部類に属しますが、多くの若い世代がすでに上の世代に対して分断を感じているように思われます。そうした動きを加速させるのが高齢化社会であるとすると、著者が描いたシナリオが実現しない限り、ますます世代間の分断が広がっていくことは避けられないでしょう。そうした中で処方箋を描いたのがこの本なのかなと思います。

 

では、では 

 

尾原和啓『どこでも誰とでも働ける――12の会社で学んだ“これから”の仕事と転職のルール』〜読書リレー(146)〜

 

 日本の既存の働き方の考え方が崩れつつある中、「どこでも誰とでも働ける」という言葉をキーワードに、12社を渡り歩いた著者が仕事論についてまとめた本です。

 

著者によると、社会やビジネスが一層インターネットでつながる中で、ますますプロフェッショナルとしての働き方が求められるといいます。プロフェッショナルとは、その語源を辿ると、自分が何者であるか、何ができて何ができないかを、自分の責任で「プロフェス(公言)」することだといいます。すなわち、プロフェッショナルになるためには、以下の3つの行動が必要だといいます。

 

1.自律して成果を出すこと

2.成果を相手にしっかり説明すること

3.相手が自分の成果を評価してくれること

 

そしてこの、プロフェッショナルになるための考え方について、様々な職場での経験を生かしながら述べています。ここに関しては特に一貫した主張はなく、要素要素でこういう考え方をしなさい、というようなエッセンスが詰まっているような本です。しかし、著者が過去に在籍してきたそれぞれの会社のカルチャーの良いとこどりみたいな形で、様々なマインドセットの仕方が紹介されているので、ビジネスパーソンとしては非常に役に立つ本なんじゃないかなと思います。

 

例えば、純粋想起を目指すというもの。純粋想起とは、「何々といえば、〇〇!」というように、一つのキーワードが出てきた場合、別の何かをすぐさま想起することを表していますが、この言葉も、プロフェッショナルの考え方に結び付くといいます。すなわち、自分が何者であるかを常にアウトプットし、相手に純粋想起してもらえるように慣れば、プロフェッショナルとして仕事がどんどん増えていく、といいます。そうした中で、著者も、ソーシャルの中ではつねに自己紹介をアウトプットし続けることが大事だと述べています。

 

これと共通して、自分からギブすることこそが大事だと著者は述べています。自分が持っている情報をオープンにすることで、まわりから自分はこういう存在だというアイデンティティの認知にもつながりますし、こうした情報を提供してくれるという点で、信頼関係の構築にもつながります。

 

このブログも当然そうしたアウトプットを前提に考えているので、この情報提供が何らかの化学反応を起こしてくれるんじゃないか?と思いつつ記事を投稿する今日この頃です。

 

では、では

2018年4-6月振り返り②〜面白かった本まとめ〜

 

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過去記事の続き。後半はさらに忙しさが増し新書くらいの軽い読み物しか読めなかった。しかも、途中からポピュリズムにはまり政治学一辺倒に…。ビジネスの勉強をするべきなのに、どんどん脇道にそれっていってしまうという笑 まあ、これから否が応でもビジネスの勉強をして行かざるを得ないので、頭の体操にはちょうどいいんじゃないかなと言い訳をしてみる。

 

⑥前田亮一『今を生き抜くための70年代オカルト』

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 今では珍しくなったオカルトについてまとめた本。社会学的な要素が詰まっていて、面白い。この本を読むと、コミュニケーションの仕方が変わってきているのではと思ってしまう。

 

 ⑦吉田徹『ポピュリズムを考える』

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 ポピュリズムについて興味をもち、最初に読んだ本。民主主義に必要なプロセスのうちの一つとして、比較的肯定的に捉えていたのが印象的。

 

⑧中野剛志『日本の没落』

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タイトルと内容が異なる本。 でも、シュペングラーの『西洋の没落』を現代の視点からとらえ直したという観点では、とても勉強になった。

 

 ⑨庄司克宏『欧州ポピュリズム

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EUにとってポピュリズムは構造上避けられないものだということを浮き彫りにした一冊。 

 

 ⑩福田直子『デジタル・ポピュリズム 操作される世論と民主主義』

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 ある意味衝撃的だった一冊。クリック農場は驚き以外ない。

 

では、では

2018年4-6月振り返り〜面白かった本まとめ〜

 こちらのブログに引っ越してきて半年が経ちました。この半年の中で164の記事を書き、約110冊の本を紹介してきました。読んだ本としては、208冊。まだまだ巷の読書かと比べると自慢できるような数でもありませんが、それなりに読み進めることができたと思います。

 

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ただし、4-6月の読んだ本は87冊と、1Qに比べて若干のペースダウン。去年も春先にかけて急に読書量が急にトーンダウンしてきたことがあったので、春から夏にかけては、読書を妨げる何らかの力が働いているのではと思ってしまいます。

 

加えて、1Qと比べると、新書の比率が多くなっており、良い本の遭遇率はそこまで多くはなかったのが印象です。面白い本に出会うと、結構ブログ執筆の手も進むのですが、最近はブログ書くのが辛かった笑

 

とはいっても、それなりに面白い本はいくつかあったので、まとめたいと思います。まず5冊。

 

①岡島悦子『抜擢される人の人脈力』

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キャリアにとって大きくプラスとなる「抜擢」を戦略的に勝ち取る方法を考えている本で、ビジネスパーソンにとっては非常に実践的。タグ付けは日頃から実践したいところ。

 

 

②木村亮示『BCGの特訓』 

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 人材育成について書いた本。人材育成のPDCAにおいて「失敗させる余裕を持つ」という考え方を勉強しただけでこの本の価値は十分ある。

 

③ライアンエイヴェント『デジタルエコノミーはいかにして道を誤るか』

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デジタルエコノミーがもたらすジレンマを描いた本。巷で言われている「生産性向上」に疑念の目をもたらす本です。

 

④中原圭介『日本の国難』 

 

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 賃金・雇用・企業の三つの観点から、日本の今後について描いた本。

 

⑤呉座勇一『一揆の原理』 

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一番好きなタイプの歴史書。中世の一揆を、現在の社会運動の観点で改めてとらえ直した一冊。

 

後半の5冊は明日更新したいと思います。

 

では、では

GMAT Verbal独学記② 〜ネットの活用法〜

GMATを勉強するにあたって困るのが、日本語で得られる情報の少なさかと思います。GMATを受験する日本人が少ないというのも大きな原因としてあげられますが、英語で受ける試験ということもあり、どうしても英語で提供される情報が多くなってしまいます。留学経験者やネイティブ話者であればそのような形での勉強も問題ありませんが、日本人出願者としてはいささか困ってしまうと思います。

 

その時に個人的に活用したのが、以下のウェブサイトです。

CR攻略方法 | GMATを予備校不要・独学で対策できる勉強法

SC攻略方法 | GMATを予備校不要・独学で対策できる勉強法

ウェブサイトで無料で入手できる情報の中では、一番有益なんじゃないかってくらい充実しています。特に日本人受験者が対策に手こずるCRとSCについて、詳細な解説を加えてくれているので、非常にわかりやすくなっています。

 

私は、問題などを解く前に、まずこの二つをしっかりと読み込み、加えてManhattanで足りない部分をカバー。慣れてきたらManhattanを辞書がわりにして問題を解く、ということを行なっていました。

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このウェブサイトは、日本人出願者のための「対策のとっかかりをつくる」という観点で考えておいた方が良いと思います。なぜなら、Manhattanの方がカバーしている内容は多く、加えて的中率もManhattanの方が高いと思うからです。「いきなり英語で勉強を進めるのはちょっと…」という人には、この手順で行なっていった方が効率的に勉強を進められるかもしれません。

 

では、では

近藤大介『未来の中国年表 超高齢大国でこれから起こること』〜読書リレー(145)〜

 

未来の中国年表 超高齢大国でこれから起こること (講談社現代新書)
 

 

1年前に日本の人口減を表した『未来の年表』という本が有名になりました。人口動態は他の統計と比較しても予測がしやすく、人口減の具体的なイメージを与えたこの本は少なからず多くの日本人にインパクトを与えたかと思います。

 

それにあやかったのか(?)、中国版『未来の年表』にトライしたのがこの本だと思います。講談社の北京事務所にも駐在の経験がある編集者であり、中国に精通した著者が、現在公開されている人口の情報をベースに、中国の状況を浮き彫りにした本です。ただし、『未来の年表』で取り上げられている、かなり具体的な未来予測とは異なり、この未来の中国年表は、どちらかというと今にフォーカスを当て、かつ対象も社会にとどまらず、ビジネスや政治といったエリアまで広げているため、中国現状の解説本として捉えた方が良いと思います。

 

ただし、内容としては非常に充実しており、かつ現状の中国をしっかりと捉えているため、中国を理解する上ではちょうど良い本かと思います。私も現在上海にいますが、現地の人々の感覚もカバーされており、間違いはないと思います。

 

そうした中で浮き彫りになってくるのが、日本とは異なる中国の未来の姿です。確かに、中国も今後高齢化社会に向けて突き進んで行きますが、人口減については高齢化と比べるとさほど問題として取り上げられていないような気がします。日本の場合は、どちらかというと人口減や生産人口の減少によって公共サービスなどの様々な弊害が発生する一方、経済も停滞していくというシナリオであり、高齢化よりも「縮小」していくことに危機感を感じている人の方が多いかと思います。一方、中国の場合は今後も経済の成長が見込まれるため、縮小という考えがなく、むしろ右肩上がりの未来を描いているような印象を受けます。もちろん様々な課題は存在していますが、それらを悲観的に捉えない考えがあるような気がします。

 

個人的には、この本を読み、比較対象としてますます日本の未来が不安になってくる、そんな印象を受けてしまいました。

 

では、では

福田直子『デジタル・ポピュリズム 操作される世論と民主主義』〜読書リレー(144)〜

 デジタルの進化がポピュリズムに与える影響について考えた、また違った視点の一冊です。

 

以前このブログでも、過去何回かに渡って、ポピュリズムにフォーカスをして読書を進めてきました。例えば、吉田徹氏は『ポピュリズムを考える』の中で、ポピュリズムは民主主義にビルトインされたものであり、メリットデメリットを把握したうえで、課題をクリアすれば、一見開くと捉えられがちなポピュリズムによって民主主義を救うことができると主張します。

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また、庄司克宏氏は『欧州ポピュリズム』の中で、とりわけEUの政治体制が、ポピュリズムを生み出しやすいと指摘。欧州はこれからも、このEUを崩しかねない力を持つポピュリズムに対応していかなければならないとしています。

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このように、様々な評価がされているポピュリズムですが、この本ではポピュリズムそのものというよりかは、ポピュリズムを生み出すもの、すなわち世論について取り上げ、それがデジタル革命によって操作されやすい状況になっていることを主張しています。つまり、上述した二つの政治体制的な要因だけでなく、テクノロジーによる社会の変化が、ポピュリズムをさらに促すことになったというのです。

 

 

それは、ソーシャルメディアの発達と時期を一緒にしていることも見逃せません。この本でも取り上げられていますが、ソーシャルメディアによって現在一日に発信されるデータは、2002年の1年に発信されたデータの量に相当すると言います。いってみれば数年前の365倍のデータが、インターネット上で飛び交っているということになります。

 

この圧倒的なデータ量の増加をベースに出てきた考え方がビッグデータ分析です。過去のデータから消費者の購買行動を分析し、広告やマーケティングに活用していくという試みで、すでにビジネスでも採用がされていると言われています。

 

そして、これが政治に活用されるとどうなるのか。ビジネスにおいてがマーケティングが「消費者の行動を分析し、いかに購買意欲を高めてもらうのか」という点に行き着いたのと同様に、「選挙者の行動を分析し、いかに得票率を高めるか」という風になるわけです。いわゆる世論操作になります。

 

この結果が2016年のアメリカ大統領選だったと著者は主張します。トランプ陣営が行ったことは、まず、ビッグデータにある会社が開発した有権者の「心理分析」を加えることで有権者をそれぞれのグループに分けます。次に、小グループごとに向けて開発した「個別広告」を、特定の地域でテレビ、電子メールやソーシャルメディアを通じて投入します。これによって、従来よりも効率的かつ効果的に、有権者の支持を得やすくなることができます。これを本書では、マイクロターゲット広告と表現しています。

 

このマイクロターゲット広告では、真偽含めた様々な情報が飛び交います。今でもソーシャルメディアでは、「フェイクニュース」というものがでてきていますが、そうした意図的なソーシャルメディア上の情報操作が公然と行われるのです。

 

個人的に衝撃的だったのが、クリック農場という言葉です。これは、発展途上国の「労働者」が、特定の記事やポストに対して、「いいね!」ボタンを大量におしたり、ツイッターのフォロワーを大量に増やしたりする作業を行う場所のことを表しており、クリック1000個分というような形で売買がなされているというのです。バングラデシュの首都ダッカは、この「偽『いいね!』ボタン」の受注で繁盛し、全体の30%から40%の偽「いいね!」ボタンを生産しているといいます。これが意図的に行われると、ソーシャルメディアの情報は操作され、特定の集団にとって有利に進めることができることになります。

 

こうした手段が可能になってしまうと、もう何が民意なのかわからなくなってきます。投票による選出が従来のやり方ですが、そもそもそこで投票されたものが操作されているわけです。また著者も、投票という行為自体、エモーショナルな行動であるという指摘し、民意が反映されているのか疑問だと言います。

 

ただし、じゃあどのように民意を選ぶべきなのかの代替案については本書でも述べられていませんし、とても難しい問いだと思います。となると、しばらくは我々は、この人為的なポピュリズムとつきあっていかなければならないのかと考えてしまいました。

 

では、では