読書リレー(52) 人間の深淵にある考えー後藤明「世界神話学入門」

一つ、人類の初まりの考えについて思いを馳せても良いのかもしれませんね。

 

 

最新の研究成果とともに、現在の世界の神話学の進展についてまとめた本です。「入門」とありますが、かなり深い内容まで切り込んでおり、それでいてわかりやすい良書です。

 

個人的にとても面白いと思ったのが、神話学と生物学の融合。DNA研究を通じて過去の人類の移動と、それぞれの地域における異なる神話のストーリーの類似性とには、相関関係があることを発見した、という点がとても興味深いです。よくよく考えてみれば、神話というのは口頭伝承がメイン。人類の移動に伴いそうした神話も移動していきます。こうした二つの異なる学問が、こうしてつながっていくという点に、知的好奇心をくすぐらされずに入られません。

 

著者によると、神話には大きく分けて二つのパターンがあるようです。日本の神話が属しているのが新層ローラシア型神話というもので、世界は0から作られて、そこから英雄を中心として、世界を統治して行くというストーリーが形成されている、という点に特徴を有します。

 

このストーリーはどの人々にとっても親しみやすいため、現代の映画、例えば「スターウォーズ」や「ロードオブザリング」にも採用されていたそうです。特に前者について、監督であったジョージ・ルーカスは、スターウォーズのストーリーを作る際に、世界の英雄に関連する神話を研究し共通性を見出したジョーゼフ・キャンベル著「千の顔を持つ英雄」を読んで参考にしたそうです。

 

 

 

 

一方で、古層ゴンドワナ型神話というのは、断片的なストーリーで、世界はあらかじめ作られたものとして存在し、あらゆるもの(月や太陽までも)が平等なものとして認識された、調和的なものだそうです。名前の通り、ローラシア神話よりも、さらに古いものとして位置付けられています。これこそが、人類の深淵の考え、ということになるというのです。

 

新層ローラシア型神話は、結局のところは進化思想であり右肩上がりの思考であり、さらには自民族中心主義につながりかねない危険性を孕んでいます。一方で、ゴンドワナ型神話は、調和や共存など、われわれは自分たちだけの永遠の成長など求めてはならないことを教えてくれると言います。今こそ我々の古い考え方に遡って、人類がそもそも持っていた深淵の想いを改めて評価することも必要ではないかと感じさせてくれます。

 

では、では