読書リレー(58) 塩野誠、佐々木紀彦「ポスト平成のキャリア戦略 (NewsPicks Book)」

 

ポスト平成のキャリア戦略 (NewsPicks Book)

ポスト平成のキャリア戦略 (NewsPicks Book)

 

 引っ越ししてから第一号のブログ発信です。まずは昨日読んだこの本から。

 

現在40代であり、Newspicksを中心として日本の言論界を下支えする二人が、日本人ビジネスパーソンに今後必要とされるであろうキャリア戦略について、対談方式で書かれています。内容的には色々と示唆がありますが、「ちょっと知識がある人たちが、飲み会で真面目に議論したらこんな感じ」というような文章で、論点が飛んだり飛躍があったりします。それを踏まえても、キャリアに関して正負ともども様々な示唆を与えてくれる本です。

 

キャリア戦略を考える時、「今日本がどのような状況に立たされているか?」という観点は大事かと思います。この本では、その点に重きが置かれており、過去と違って今はこうだ、だからこれからはこのようなキャリアが求められるという、いわゆる内発的な形で議論が進められていきます。例えば、終身雇用・年功序列というのは、今後はどんどんなくなっていくといい、組織ではなく個としていかに戦うことができるか、そのためにどのような個のスキルを高めていくか、という側面で議論がなされていきます。

 

もう一つの例としてあげられているのが、経済成長に関する考え方です。従来は高度成長期があり、「右肩上がりの経済成長」だった。だから社会的観念や制度も、この経済成長を前提とした仕組みになっていた。しかしこれからは、人口減社会に伴い、こうしたメカニズムが崩れていくだろうと。そして、人口減・経済停滞の中でのキャリア戦略が求められるのだろうと、言ったことが述べられています。

 

この本にかけているなと思うのが、日本の内的事情に止まらず、世界を含めたマクロ的な観点でキャリアを考えるべきなのでは、という点です。今後日本を含めた先進国は、は未曾有の人口減に伴い、相対的な国際的なプレゼンスが低くなっていきます。一方で、多くの途上国がいわゆる「中進国の罠」を脱却し、国際的なプレゼンスを高めていく、という現象が同時発生的に進行します。これによって起こるのが、従来の一極集中型のグローバリゼーションではなく、多極化するグローバリゼーションです。この点については、「マッキンゼーが予測する未来」でも、近未来を支配する4つの力のうちの一つとしてあげていますが、例えばこれが日本の実社会になると、以前は日本メーカーの競合他社は往々にして欧米系か、中国・台湾・韓国といったアジア系に限定されていますが、今後はロシア市場をアフリカ系企業と競合しながら進出していく、というようなケースが起こり得るわけです。

マッキンゼーが予測する未来―――近未来のビジネスは、4つの力に支配されている

マッキンゼーが予測する未来―――近未来のビジネスは、4つの力に支配されている

 

こうなると、人材としての競争力が、一辺倒で考えにくいところがあります。特に厄介なのが、念入りなマーケティングを通じて「一点集中」の産業・経済戦略を採る国家の増加です。金融センターとして世界的な地位を確立した香港やシンガポールはご周知のとおりですが、すでに他のパターンも見受けられます。例えば、IT企業を数多く誘致し一躍ハイテク産業のトップに躍り出たイスラエル、行政レベルで電子取引を活用し世界的に注目されたエストニアなど、国家主導の一点集中による人材戦略が増えていくことが予想されます。こうした人材は、政府からの厚いバックアップを受け、大きな投資を受けて育ちます。そうなると、たとえ日本でトップの人材だったとしても、そうした一点集中型国家から輩出された人材とは比べ物にならない、というケースが発生してしまう可能性が高いわけです。例えば、日本企業でIT系の人材が欲しいとなった場合、日本の大学を卒業したスキルの未熟な日本人を雇うよりも、そうした一点集中国家からきた日本に興味のある人材を非正規で雇う方が、圧倒的に効率が高くなる、ということも起こりうるわけです。日本の人材は、そうした現実に直面しなければなりません。

 

未来型国家エストニアの挑戦  電子政府がひらく世界 (NextPublishing)

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知立国家 イスラエル (文春新書)

知立国家 イスラエル (文春新書)

 

 

本書では、主にターゲットを、「日本の将来を考えることができる人材」としていますが、日本の全てのビジネスパーソンがこうではありません。この方々は自身でメディア発信ができるぐらい成功された方ですから、そうした観点は必要なのかもしれません。しかし、そうではない「サイレントマジョリティ」の側に立つと、見えるものも違ってくるんじゃないかなーと思ってしまったのが、この本を読んだ純粋な感想です。

 

では、では