ルディー和子『合理的なのに愚かな戦略』〜読書リレー(66)〜

合理的に考えていると思っていても、実はそうではない。

 

合理的なのに愚かな戦略

合理的なのに愚かな戦略

 

 

日本企業を中心に、企業戦略について様々な角度からまとめた本です。非常に具体例が多く盛り込まれており、また多くが日本企業の過去の事例を取り上げていることから、仔細に見ていけばとても勉強になる一冊です。

 

この本に一貫する内容というのは、企業戦略は良いと思っていても往々にして失敗するんですよという、ある意味では不安を煽るような内容です。これだけ見るとなんだか反発してしまいたくなりますが、実際の失敗事例をこれでもかと取り上げているため、読んでいる人たちまで反省してしまうほどのインパクトがあります。笑

 

特に、大企業における意思決定の失敗について、「過去の経験に基づく過信」を取り上げています。曰く、日本の大企業の経営層は一流大学を卒業した優秀な人が揃っている。彼らは日々勉強をし、ビジネス書も大量に読み込んでいるが、なぜか適切な経営戦略を立てられない。それは、自分では気づかないうちに、感情や過去のパターン認識に影響を受けているためだと言います。エリートだからこそ、自分に無意識の領域があることなど信じることができません。自分の認知プロセスにバイアスがかかっていることなど絶対にあり得ないと考えてしまいます。実は、それが間違いのもとになっている、というのが著者の主張です。

 

これは、人間の内面をフォーカスしている最近の経済学の発展動向とリンクしています。従来は、経済学上での人間の定義は、「情報が完全に公開されている市場においては、人間は自分の効用を最大化するように行動する」という上で経済理論が成り立っていきました。しかし近年、そうした経済理論では説明できない事象が発生して来て、そもそもの経済学の定義に疑問を投げかけるような研究が注目を浴びて来ています。これと同じことが、経営の世界でも言えそうです。

 

かつて山口周氏は自著の中で、経営に必要なロジカルシンキングについては、それだけでは差別化ができないから美意識を鍛えるべきだと唱えていました。一方ここで考察したことは、ロジカルシンキング以前の前提に立ち返る必要性です。意思決定・ロジカルシンキングにおけるバイアスのかかり方について、あらためて考えていく必要があるようです。

 

では、では