広井良典『ポスト資本主義ー科学・人間・社会の未来』〜読書リレー(79)〜

 資本主義の次について考えさせてくれる、そんな一冊です。

 新書というものは、もともと定義的には「入門書」という位置付けなのですが、時々筆者があまりにも気合を入れているがために入門のレベルにはおさまらない、そんな本があります。この本も、まさにその特徴を持っていて、分量は少ないながらも、非常に奥深い考察が含まれており、とても興味深い内容になっています。

 

この本では、行きすぎた資本主義について警鐘を鳴らすとともに、未来に向けてあるべき経済のあり方について述べています。特に冒頭の資本主義に関する歴史的考察は特筆すべき内容であり、とても興味深い考察が含まれています。

 

この本によれば、資本主義とは、拡大と収束を繰り返してきたのだといいます。具体的には、狩猟社会から農耕社会へ、農耕社会から産業社会への変遷というのはこれにあたります。新しい生産の概念が生み出されるごとに、人間の生産活動のπが増えて行ったのです。逆に言えば、生産活動のπが増えない状態においては、人間はその内面的意識を充足させる方向にすすめていったといいます。

 

著者によれば、現代社会はまさに次の生産活動の拡大に歩みを進めているのではないかと考察を進めています。具体的には、AIやITの進展により、空間的、時間的な制限を超えた形で、人間は自身の生産活動を広げられるのではないか、そんな予測をしています。シンギュラリティの到達するときこそが、その生産性が爆発するタイミングなのではないか、というのです。

 

これいがいにも、生産活動を広げる方法として、地球外への移住、不老不死というふっつのキーワードをあげていますが、どちらも今ホットな分野として注目されるに至っています。

 

著者の主張は、どちらかといえば、そうした闇雲な生産活動の拡大に勤めるのではなく、地域コミュニティの発展など、単線的な拡大路線からの脱却を提唱しています。この本でも、どちらというと論考の半分以上はそちらに比重が置かれているのですが、私としては、依然どのようにすれば人間の営みをさらに拡大できるかという方向に興味があります。ここからどのような未来があるのか、大いに期待させてくれる一冊でした。

 

では、では