羽生善治『人工知能の核心』〜読書リレー(80)〜

  将棋棋士である羽生善治による、人工知能を考える一冊。

人工知能の核心 (NHK出版新書 511)

人工知能の核心 (NHK出版新書 511)

 

将棋を含む、チェスや囲碁などゲームでは、人工知能の対決が話題になっています。特に最近の例では、囲碁の世界で、Googleが開発したアルファ碁という人工知能が、囲碁の世界チャンピオンであるイ・セドル氏と対局、5局中4局勝利したことで大きな話題となりました。すでに将棋やチェスでは人間が人工知能に負けると言う事例が発生していましたが、囲碁の場合はこれが初めてだったわけです。

 

棋士の側からすると、人工知能に負けると言うことは感情的にも並々ならぬ思いかもしれません。しかし著者である羽生氏は、一つの集積回路(ICチップ)に実装される素子の数は18ヶ月ごとに倍増するというムーアの法則をベースに、「いつかは人工知能が勝つ日がくるかもしれない」とあらかじめ予測をしていた人物でもあります。

 

特に興味深いのが、著者の考える人間と人工知能の違い、と言う点です。著者によれば、人間にはある種の「美意識」があって、これが一つの判断材料になっている、と言うのです。将棋の世界でも、合理的だけれども、あまり美しくはない手と言うものもあれば、逆に美しい手、と言うものがあるそうです。他の例で言えば、何かをするときに筋が通っているという考え方がありますが、あれも一部合理性を超えた価値判断基準が存在しているのです。

 

そして、さらに面白いことに、この美意識というのは時間の変化によって変化するといいます。人工知能の場合、現時点では時間軸に沿った考えをすることはできないのですが、人間の場合は、過去の経験を違うものの見方に活用することができます。

 

本書でも取り上げていますが、茂木健一郎氏含む多くの専門家によれば、今後人間の人口と同じくらい、人工知能を搭載したロボットが活用される未来が予測されています。そうした中で、懸念されうるべきは、人工知能をどう活用していくのかという倫理的・哲学的な問題だといいます。しかし、上記にあるような、人工知能にない人間の勝ちというのが揺らがないのであれば、それに基づいた人工知能の活用を見出せなくもないのではないか、と考えてしまいます。

 

では、では