富田 昭次『サービスはホテルに学べ』〜読書リレー(109)〜

最近、インバウンド需要の創出から、おもてなし即ちサービス業がもたらす価値について興味があり、 色々と本を読み漁っているところです。外国から日本にもっと観光客がきてもらうために、おもてなしを一つの固有の価値として捉え、それを売り物として考えていくべきだと思うのですが、一方で、そうした日本のおもてなしは、本当に日本固有のものかと考えてしまったわけです。

 

それは、今私が中国という、日本を離れた立場にいるから感じてしまう問題意識なのかもしれません。実際にこのブログでも紹介した通り、中国のサービスも日本のサービスに負けず劣らずのところがあり、日本人が賞賛するところの「おもてなし」が、果たして固有のものであるのか、考えづらい点が多く出てきたからです。

 

そうした中で、Kindle Unlimitedでちょうどいい感じの本があったので、読んで見て見ました。

サービスはホテルに学べ (光文社新書)

サービスはホテルに学べ (光文社新書)

 

ホテル・旅行執筆家である富田氏の、日本のホテルについてまとめた本です。ホテルで行われているサービスが、どのような考えから生まれてきたのかという点から議論をスタートし、いわゆる老舗と言われるホテルがどのようにサービスを維持してきたのかや、各ホテルマンにスポットライトを当て、どのようにサービスを考えてきたのか、と言ったトピックについて綴られています。内容が多岐にわたっており、新書らしく「広く浅く」な内容ですが、私のようなビギナーには、取っ掛かりとしてはちょうど良いサイズの本となりました。

 

本書の中でも、私の問題意識に関連するトピックは出てきました。著者によると、日本人の間の、「日本人にはおもてなしの心が備わっている」という意識の根底の一つには、「日本には旅館文化の歴史がある」という考えがあったといいます。しかしながらこの旅館文化というのは、比較的歴史は浅く、江戸時代から始まったものとされているようです。

 

ただ、本書を読み解いていくと、日本のこうしたおもてなしは、この旅館とは別の文脈からきているように見受けられます。1860年の横浜ホテル開業から始まった日本のホテル産業が、こうしたおもてなしを牽引してきたと考えられなくはないと言えます。実際に、当時のホテルの接客マニュアルを見てみると、ホテルマンは民間外交官であり、ホテルマン自身がそのことを強く意識すべきだ」というような記載が見られるというのです。外からきた人をおもてなしする文化というのは、こうしたホテル、即ち外来のものと考えられなくはないのです。こう考えていくと、日本固有と考えていた日本のおもてなしというものが、あまり歴史に根ざしたものではないのでは?と思えなくもないです。

 

 

これはある意味では日本人にとって良い発想の転換なのかもしれません。即ち自分たちが日本固有のものだと思っていたものが実はそうではなかった、ということを上記はあわらしているのです。こうした議論がなされる際、どうしても日本人は経路依存的で、「過去の伝統がこうだったから、今こうしているのだ」という主張が説得力を持ちがちです。過去の栄光にすがり、そこに日本の固有性があるということをベースにする形式が多いですが、上記はこうした主張のパターンを良い意味で崩してくれる可能性を有しています。だからこそ、過去に縛られず常に変革を遂げながら、日本らしい「おもてなし」を考えていけるような空間を残しているような気がします。

 

もう少し、このおもてなしという言葉について考えていきたいと思います。

 

では、では