高森明勅『天皇「生前退位」の真実』〜読書リレー(114)〜

 

天皇「生前退位」の真実 (幻冬舎新書)

天皇「生前退位」の真実 (幻冬舎新書)

 

 

Kindle日替わりセールで対象となっていたので即ポチ。前回このブログでも紹介しましたが、 生前退位により俄然興味が湧いた日本の天皇。前回の「皇室外交」では、皇室というある意味政治から離れた、だが国事として国のために行動されることにより、皇室が日本の外交に貢献されてきた(ただし、表向きは外交はしていらっしゃらない、というスタンスなのですが)という点が明らかにされています。

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この本では外交の側面もさることながら、そもそも天皇陛下がおっしゃった「生前退位」というものが、何を意味しているのか、というところから始まり、現在の皇室の位置付けとこれからの課題について詳細に述べられています。新書らしく広く浅くをカバーしておりますので、私のような門外漢には非常に勉強になる内容であり、日本人としてこれぐらいは知っておくべきだろうという内容をこの本を通じて勉強できるかと思います。

 

この本でいくつか面白い点があったので、その本の内容の紹介と共に考えをまとめていきたいと思います。

 

興味深い点① 生前退位はジレンマ?天皇陛下が自ら「生前退位」をご説明なさった理由

 

そもそも、私は天皇陛下がビデオレターという形で「生前退位」に関する意向をご自身の言葉で説明されていたところが、よくわからなかったのです。普通であれば、こうした公の場で言わずとも、関係各所に事前に連絡をしたのちに、生前退位の準備を整えた上で、もしくはすでに生前退位までの具体的なスケジュールを確定した上で発表すべき内容だと思うのです。それをなぜ、意向という形でご説明なさったのか。

 

この本を読んで、その答えがわかりました。これは周知の事実かもしれませんが、もともと従来の制度では生前退位は認められていませんでした。皇室の取り決まりを定める「皇室典範」にその記載があるのですが、天皇陛下の意向である生前退位を実現するには、こ皇室典範を改正することが必要でした。

 

しかし、この改正に、天皇陛下が関与することはできません。天皇陛下を含む皇室は、「国政に関する権能を有しない」とされます。すなわち、自身のあり方を定める決まりを、自分ではない国民(ここでは、国民の代表とされる政府)によって、制度を改正して生前退位を可能にしてもらうしかないのです。

 

これを著者はジレンマという言葉で表現していますが、確かに何か不思議な気がします。自分のことを自分で決めることができない、皇室はそのような状態にあるのです。ここからみていくと、今の皇室の位置付けというところに考えを馳せざるを得ません。

 

興味深い点② 「象徴」という言葉に隠された意図と、天皇陛下のこの言葉に対する向き合い方

 

上記問題点をベースに、本書では皇室をめぐる様々な議論を説明していますが、特に興味深かったのが、この「象徴」をめぐる議論です。

 

象徴という言葉は、おそらく日本人の誰もが義務教育で学習する内容で、当たり前のことかと思われるかもしれません。戦後日本国憲法の中で、天皇は日本国民の象徴とされ、実際の政治の世界からは離れ、国事行為を行うという点に制限されました。

 

こうした「象徴としての天皇」は、言葉上では、戦前の大日本帝国憲法における天皇の位置付けからすると、格下げされたような印象を受けます。これはもちろん、先の大戦を受けた影響が色濃く残って入るのですが、これによりある議論が生まれたと著者は述べます。それはすなわち、「象徴」をネガティブに捉える風潮です。

 

著者によれば、「戦後の憲法学の通説が、もっぱら「象徴たるにすぎない」「象徴たる役割をもつことを強調することにあるというよりも……以外の役割をもたないことを強調」などと一方的にマイナス評価に終始してきた」と言います。そしてこれは、日本国憲法を通じて象徴天皇の構想をまとめたGHQの思惑以上に、ネガティブに捉えられていると言います。

 

しかし一方で、では現在の「象徴天皇」が、そこまで悪いのかといえば、そうではありません。むしろ著者は本書の中で、この象徴天皇のあり方こそが、日本における皇室を、ひいては日本という文化を今の今まで継承してきた理由なのだと主張します。

 

これはどういうことか。まず、日本の皇室は世界的にみて例を見ないほど「古い」君主だと言います。現在、世界には二十八の君主国があると言いますが、それらの比較的古い君主においても、起源は1700年代、1800年代だと言います。一方、皇室の血統は大和朝廷が成立した三世紀頃まではさかのぼると見られています。ここからもわかる通り、各国王家の年代と比べると、日本の皇室は世界でも飛び抜けて古い、最古の君主の家柄を戴く国だというのです。

 

ここまで日本が皇室を存続できた理由として、「天皇に強大な権力がなかった」ということを本書では上げています。すなわち、政治などの主権側に天皇は立たず、むしろ権力以上の高みに立つことで、「歴史に担保された究極の「公」の体現者」として、「世俗的「権力」の安定性を確保」する存在として位置付けられていたのです。鎌倉幕府徳川幕府も、天皇から権力の正統性というお墨付きをもらうことで、安定的な政権を築くことに成功したわけです。こうなってくると、「象徴天皇」というのはあくまでも戦後の日本国憲法の中で決められたものに過ぎず、もともとこの「象徴」というものが、皇室の位置付けであったのだということがわかります。

 

これを一番理解していたのが、他ならぬ今上陛下です。皇太子の頃から積極的に行動され・発言されて、「能動的」天皇像を自ら追求されてきました。「皇室外交」で詳細に述べられていますが、日本戦没者慰霊の旅は日本国内にとどまらず、行く先々で多くの人を感動させてきました。

 

こうした取り組みが如実にデータに現れていると言います。NHKによる定期的な「天皇陛下に対する印象」という調査があるのですが、昭和の時代は「天皇」に対する感情が、上位から「何とも感じず」→「尊敬」→「好感」→「反感」の順。その後、しだいに「尊敬」が減少していくという趨勢でした。ところが、昭和から平成に移ると「好感」がそれまでの二割台から四割台に急に上昇し。しかも、平成に入ってやや減少していた「尊敬」も平成十五年以降、上昇しはじめ、最近の同二十五年の調査では「好感」に迫る三割台半ばに達してるというのです。これは、能動的「象徴」天皇として、今上陛下がひたむきにご自身のあり方を追求されてきた姿が、国民にも受容されていることを表していると言います。

 

興味深い点③ 皇室のこれから〜30年後が危ない?〜

 

このように名実ともに「国民の象徴」を体現される天皇陛下ですが、著者は30年後に危機が迫っていると警鐘を鳴らします。それは後継者の問題です。

 

仮に現在のまま30年が経過したとすると、皇太子殿下の次の「世代」の継承候補者がたったお一人(悠仁殿下)だけという、厳しい「現状」となっているのです。すなわち、後継者が少ないという、とてもリスクの高い状況になっているのです。これは、偶然的要因(実に40年以上もの長い間、9人もつづけて女性皇族〝だけ〟がお生まれになるという「偶然」)が大きな要因を占めるのですが、もう一つ「構造的要因」として、著者は〝側室制度の不在〟を挙げています。この要因については少し疑問が残るのでそのまま鵜呑みにはできませんが、何れにしても、こうした問題をはらんでいるというのを、今の段階から議論しなければならない段階にきているのではないかと思います。

 

と、この本を読み終えて、ちょうど今日のニュースで関連トピックが出ていました。

陛下 公務減らさず全うの意向 | 2018/4/29(日) 18:47 - Yahoo!ニュース

本当にご立派なお心がけかと思います。。。

 

 

では、では