Se projeter dans l'avenir 〜INSEAD MBA留学記〜

2018年8月からINSEAD MBA留学。MBAで感じたことについてつづります

田中聡、中原淳『「事業を創る人」の大研究』〜読書リレー(117)〜

 久しぶりに学術書らしい?研究に満ち満ちた本です。

「事業を創る人」の大研究

「事業を創る人」の大研究

 

 

タイトルにある通り、新規事業に関する研究をまとめた本です。新規事業といっても、事業戦略やイノベーション論というよりかは、それに携わる人に関する本ということで、かなり泥臭い内容になっています。笑

 

著者によると、これまで新規事業とイノベーションに関する一般書籍や研究書が、次の2つのポイントから編まれてきたといいます。ひとつは、 新規事業経験者や経営者によって書かれた新規事業創出の実践書であり、もうひとつは、 経営学者によって執筆された戦略論に基づく新規事業創出の学術書だと言います。しかし、従来の知見においては、 戦略を策定・実行する担い手である「人」に着目がされていませんでした。この本ではそうした新規事業に携わる人に着目し、またその人が織りなす組織にもスポットライトを当て、どのような問題が潜在的に存在しているのか、またどのように解決すべきなのかという点から、新規事業に携わる人はどういった性質を持つ人なのか、人材育成城新規事業をどのように位置付ければ良いのか、といったところまで、多方面までカバーしているのが本書の特徴です。

 

まず何よりも興味深い内容、そしてこの本のアイデンティティ担っている根幹として、「新規事業は、アイディアよりも組織づくり・人づくりで苦戦している」というものです。これはもう少し具体的に説明すれば、既存事業の延長線上、もしくはそれとは異なる文脈から良いアイディアが出たとして、たとえそれが値千金の素晴らしいものだったとしても、既存事業との関係性や新規事業に携わることになった人々のモチベーションの問題などで苦戦することが多いというのです。前者は、例えば既存事業が利益を出している中で、そこから予算を取らないといけないとすると、新規事業は外からは「金食い虫」のように見えてしまいます。また後者においては、既存の花形部署からいきなり海のものとも山のものともわからないような新規事業に異動となると、今後のキャリアを踏まえて「私は本当にこの会社でやっていけるのだろうか?」という不安を抱きやすいと言います。そうした点を踏まえ、前者で言えば、アイディアマンではなく既存事業との橋渡しが行える交渉人が、後者で言えばこうした新規事業を自身の成長に変えられるような人材が必要だと言います。

 

この点を説明すべく、本書では様々なデータを扱っています。これもこの本を彩る特徴の一つで、例えば成長に変えられる人材という観点で言えば、新規事業に携わる社員一人一人にアンケートを取り、過去の経験との相関関係をとるような研究がされています。これによると、大学時代にリーダーシップを発揮し、社会人との交流機会が多く、さらに「自分の能力を試せる難しい仕事に挑戦することで成長したい」という思いを持って就職活動を行った人が、比較的ふさわしい人材のようです。

 

また、この本では、経営層のコミットの仕方についても指摘があります。これによると、経営層がいくつもの新規事業に足を突っ込むような、いわゆる「多産多死型」のアプローチをとると成功率は低いといいます。逆に、深くコミットし、新規事業部門の人々と一緒に考えて議論を重ねていく泥臭いアプローチの方が有効的だと言います。

 

私も新規事業に携わった身として非常に痛感するのですが、既存事業を行う人との距離を感じざるには得られませんでした。いってみれば短期的には利益の出ないことをしているわけで、上司や同僚からは、「お前はいいよな、新しいことして稼がなくてもへいきなんだから」というようなあたりをされたこともしばしば。さらには、同じく新規事業に携わる人からも「これは結局サイドビジネスみたいなものだから、あくまでもヒットしたらラッキーだよね」というコメントを受け、正直驚いたものです。この事業は頓挫してしまいましたが、今思うと、こうした「コミット」が足りなかったのかなと思います。

 

既存事業から新規事業が切り離されて活動を始める時、しばしば起こってしまう問題として「既存事業が土台となって支えてくれる」という安心感です。安心感という言葉はポジティブな意味で捉えられますが、ここでは逆に「安心すぎて、新規事業で独立してやっていくんだという気概がなくなり、中途半端になってしまう」ということを意味します。つまり、既存ビジネスがあるから、捨て身になりきれない。この弱さはあると思います。

 

従来の新規事業論は、上述の通り戦略論に終始していたと思います。しかし私は何か現実と違和感を感じずに入られませんでした。「人」に着目したこの本は、斬新であるとともにとても腑に落ちる解釈装置を提供してくれます。私も過去の経験の振り返りをすることができ、とても勉強になりました。

 

では、では