中川毅『人類と気候の10万年史 過去に何が起きたのか、これから何が起こるのか』〜読書リレー(119)〜

 

 

Kindleで非常に評判の良い本だったので、休日に頭の体操も含めて、全く異なる分野にチャレンジして見ました。読んでみると、非常に面白く思わず没頭してしまい、すぐに読み終えてしまいました。

 

この本は、タイトルにある通り、気候の変動に関する研究成果を取り上げています。福井県水月湖から発見された45メートルの厚みを持つ年縞をベースに、7万年以上もの時間を対象に気候変動に関する研究の内容と、その結果について説明が加えられています。本書の前段では、この研究に関する詳細が書かれていて、どのように水月湖に研究対象がたどりついたのか、そこから研究サンプルをボーリングという手法でどのように採取するのかという方法が取り上げられています。この部分は詳細に記載がされているかと思いきや、私のように背景知識がない人でもわかりやすいように文章がかなり柔らかい表現かつ丁寧な解説が加えられており、読み進めるのに苦労はしませんでした。この前段を読んでいると、本当にこの著者は研究者らしい研究をしているなと、思ってしまいます。実証的発見を通じて新しい真理を読み解く、このプロセスこそが学者の醍醐味であり、私のようなサラリーマンが羨む世界かと思います。

 

本書で取り上げられている理論や考え方は多岐に渡るものであり、このブログで全てを紹介することはできませんが、中でも私が興味深いと思った部分を紹介したいと思います。それは、気候と人類の活動の関連性です。

 

我々は歴史の授業でよく「かつて人類は狩猟・採集を中心とした生活を過ごしていたが、人口の増加に伴い人類の知能レベルが向上し、徐々に農耕社会へと移っていった」という説明を受けていたと思います。この説明の背景にあるのは、狩猟→農耕という線形的な進歩であり、農耕は狩猟に勝るという考え方です。しかしながら、気候の観点で見てみると、従来のこの考え方には疑問を呈さずにはいられないというのです。

 

本書によれば、狩猟・採集が行われていた頃の地球というのは、氷河期であり、また気候の変動が激しかったといいます。この条件においては、農耕を行うと、不作の時が続いてしまい、十分に人々を養うことができません。一方で狩猟・採集の生活においては、たとえ数種類の穀物は気候の変化によって不作となるかもしれませんが、気候の変化によって逆のプラスの影響を受けるような穀物や食物が出てくるかもしれません。そうした意味では、狩猟・採集の生活は、ボラリティが高い社会においてはリスクが少ない生活方式であったのです。すなわち、狩猟生活の方が劣っていたとは言い切れないのです。

 

これは、他の本でも同様の主張が見られます。『サピエンス全史』によると、狩猟・採集生活を採用していた頃の人類の方が、初期の農耕生活を営んでいた人類よりも、平均寿命が長かったと言います。狩猟・採集生活の方が、栄養のバランスが取れていたというんがもっぱらの主張ですが、栄養学的な観点からも、狩猟<農耕の不等式に異議が唱えられそうです。

 

 

サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福

サピエンス全史(上)文明の構造と人類の幸福

 

 

自然科学の本は、こうした従来観念の逆転が起きるので、見逃せません。あくまでも私はビジネスが中心ですが、教養ベースとして、こうした分野の最新状況をトレースしていきたいですね。

 

では、では