蟹沢孝夫『ブラック企業、世にはばかる』〜読書リレー(130)〜

 

ブラック企業、世にはばかる (光文社新書)

ブラック企業、世にはばかる (光文社新書)

 

 

 リーマンショック・ユーロ危機という不況が続き、まだアベノミクスによる経済回復(?)が見えてこなかった2011年に書かれたブラック企業に関する本です。当時は不況の中で劣悪な雇用条件や、いわゆる「激務」と表現される長時間労働などが社会問題となっていました。キャリアカウンセラーとしてそうした企業と雇用の関係性を考えたこの本で提供されている概念は、現在においても色あせていないように思われます。

 

まず、ブラック企業が存在してしまうのは、そもそもブラック企業と呼ばれる劣悪な労働条件などが社会において必要とされているからだとし、ブラック企業そのものへの責任を押し付けるのではなく、社会にもその責任があると主張しています。また、そのブラック企業の存在を悪とし、それを変えなければならないという自覚があるのであれば、ブラック企業以外に勤める社会人や消費者が、そうしたブラック企業で働いていた人たちから直接的・間接的に搾取を行ってきたことを自覚しなければならない、というのです。

 

例えばあるソフトウエア会社がブラック企業だと認定されたとして、そのソフトウエア会社に業務を委託していた企業があるとしましょう。そうした企業は、ソフトウエア会社は他にも様々なある、いわゆる供給過多であるのをいいことに、自身の利益のために厳しい条件で業務委託をする可能性があります。そうしたいびつな構造が、やがてブラック企業と呼ばれるような会社を生み出していくというのが著者の考えです。こうした下請け業界における過当競争がこうした素地を生み出しているといっても過言ではないのです。

 

また、もう一つに雇用の面でも著者は説明を行なっています。当時も(そして今も)新卒一括採用・終身雇用の制度が整っています。しかしこれは逆に言えば、新卒の時点で自分にあう業種・職種で仕事を見つけなければ、一生露頭に迷うことになることにつながりかねません。この本の執筆当時では、転職市場も、新卒採用とのバランスを考えてかなり小さい規模に止まっていたこともあり、こうした風に見えたのかもしれません。

 

今は日本社会は好景気にわいていますが、景気には浮き沈みがあり、いずれはまた不景気になることもあるかと思います。その時に、過去の教訓をうまく活用し、なんとかよりよい企業ー被雇用者の関係であってほしいですね。

 

では、では