吉田徹『ポピュリズムを考える』〜読書リレー(131)〜

ビジネスからは少し離れて、今日は政治の本にいきたいと思います。

 

ポピュリズムを考える 民主主義への再入門 NHKブックス

ポピュリズムを考える 民主主義への再入門 NHKブックス

 

ポピュリズムに対する注目は2016年のBrexitトランプ大統領の就任によって大きくなってきました。もちろん、日本で言うところの小泉劇場やイギリスのサッチャー政権など、歴史を振り返れば民主主義のあるところにポピュリズムありと言うような形なのでしたが、特に2016年は大きな世界的なイベントが2つ立て続けに発生したために、ポピュリズムに対して改めて注目されるようになりました。

 

その動きを先読みしたような形で、ポピュリズムに対する議論をまとめたのがこの本です。この本に一貫しているスタンスというのは、ポピュリズムを悪と捉えるのではなく、客観的に評価した上でどのように活用すべきなのかを考えるべきだとした点です。

 

なぜこの観点が必要なのか。著者は、それはなぜならポピュリズムというのが民主主義にとって切っても切り離せない存在であるからだといいます。「民主主義に内在する固有の現象」と本書では表現しています。このため、害悪として捉えるには限界があるというのです。

 

この議論を前提に進めていくのですが、ポピュリズムには6つの特徴があるといいます。

 

1.イデオロギーであると同時に、政治運動の形態をとる

2.地理的、歴史的条件を超えて、繰り返し生起する

3.人々の心理が大きな原動力となっている

4.「独特のネガティヴィズム」、つまりつねに何かを否定することで存立する

5.「人民概念」、すなわちしばしば従属的な立場に置かれた貧しい「人民」の意識を鼓舞する

6.自らよりも強力なイデオロギーや政治現象に吸収されるという、過渡的な性格をもつ

 

つまり、現在の政治状況を打破するために、結束した「人々」を想起させ(それはすなわち「人々」の概念に当てはまらない人々を排除・否定することにつながる)、なんらかのイデオロギー(ナショナリズム社会主義など)とともに行われる政治運動だといいます。これら6つが揃ってポピュリズムと言える訳です。そういう意味においては、ポピュリズムというのは、現在の政治体制に対する不信感や不満が強まった際、それを打破するための「起爆剤」として民主主義の体制にビルトインされているといいます。

 

これは、政治体制をより良いものに変えていくという点では良いのですが、著者がいうところでは二つ欠点があります。一つが、そのポピュリズムの拠って立つところが、他者の否定に立つという点です。そしてもう一つが、そうしたポピュリズム政権が政治の舞台におどり出ることが目的化してしまい、重要な施策や政策などが欠落してしまうという点です。しかし、著者はそうした課題をクリアすれば、ポピュリズムは民主主義を救うといいます。本書の最後にも、「ポピュリストであるということは、そもそも民主主義における原初的な人々との間の約束を、再び政治の場において要求することを意味する。それが可能になれば、ポピュリズムは民主主義にとって必要不可欠な存在へと昇華する。」と述べています。

 

私のポピュリズムに対する考え方についてはここでは割愛するとして、興味深いなと思ったのが、このポピュリズムで用いられている「ストーリーテリング」「劇場」の手法です。支持層を獲得するため、また人々の心理を掻き立て「人々」の想像を刺激させるため、イデオロギーや政策を軸にしない、政治家自身の個人を軸とした「ストーリー・テリング」の手法がまたたく間に共有されるようになったといいます。これは、政治家がある種消費者としての有権者に対して、感情や感覚に訴えやすいシンボルを作り出し、人気と支持を得ようとする政治コミュニケーションの手法を取ることが絶大な効果をおよぼすからだ、というのです。

 

このコミュニケーションというのは、なにかビジネスにおける、ビジネスリーダーのコミュニケーションと酷似しているような気がするのです。イデオロギーや政策の代わりに、事業目的や具体的施策を軸にしない、個人の「ビジョン」を語ることで多くの支持者を得ていく。こういった筋道での表現というのは、人々の共感を得やすいということなのでしょうか。

 

かつてジョセフ・キャンベル氏が世界中の神話を研究し、それに基づい「ヒーローストーリー」の特徴を浮き彫りにした「千の顔を持つ英雄」という名著があります。ここで挙げられているように、人々の共感を得やすいのはある型にはまったストーリーである可能性が高いのです。

千の顔をもつ英雄〔新訳版〕上 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

千の顔をもつ英雄〔新訳版〕上 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

 

千の顔をもつ英雄〔新訳版〕下 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

千の顔をもつ英雄〔新訳版〕下 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

 

こうやって考えると、ポピュリズムもビジネスも神話も、何か人間本来の「共感しやすい何か」に基づいて形作られているような気がしてなりません。

 

では、では