藤野英人『ビジネスに役立つ「商売の日本史」講義』〜読書リレー(136)〜

 

著者である藤野英人氏はレオス・キャピタル・ワークス創始者の一人にして代表取締役社長という人物です。「ひふみ」投信の方が有名かもしれません。私もこの人を知ったのはガイアの夜明けか何かで特集されていた会をたまたま見たことがきっかけでした。その時のインパクトは少なからずあり、投資信託を含む投資に関するイメージがあまりよくない日本において、日本の中小規模の「伸びる会社」に着目して投資を行うという手法はなかなかみられない、面白い手法だと記憶しています。

 

そんな藤野氏ですが、投信の他にもこのように執筆活動も精力的に行なっているという点に驚きです。今回紹介するのはPHPの新書ですがこの他にもかなり本を出版されており、知見の深さが伺えます。

 

この本では、投資やビジネスにおける「大きな時代の流れ」を理解するために、歴史に解を求めようと試みています。具体的には、日本の経済の歴史を振り返り、過去の先人がどのように日本をみてきたのか、そしてどのような行動をとっていったのかというところを具にみることで、今の日本人の行動のヒントにしていこうという試みです。タイトルは「商売の日本史」とありますが、商売のみならずその時代の統治者が行なった経済政策にも触れており、広く経済史といっても過言ではないと思います。

 

この本で特徴的なのが、日本の歴史を「ウミヒコ」と「ヤマヒコ」に分けて捉えようとした点です。簡単に言えば、「ウミヒコ」は海洋による交易を中心とした「外向き」の考え方、そして「ヤマヒコ」は陸路を中心とした「内向き」の考え方です。そして、日本の経済そしてお金の動きは、この「ウミヒコ/ヤマヒコ」すなわち「外向き/内向き」をスイングするというのです。

 

例えば、平清盛を中心とする平安末期は「ウミヒコ」の時代、それが源頼朝による鎌倉になると「ヤマヒコ」の時代。更に言えば、江戸時代は「ヤマヒコ」の時代で明治は「ウミヒコ」の時代。そして現代は「ヤマヒコ」の傾向が強く出ているといいます。

 

では、このスイングがどこからきているかというと「外国の影響」特に中国の影響力だといいます。中国の影響力が大きいと、日本は国を開き「ウミヒコ」的な傾向を強めていき、逆に中国の影響力が弱いと、日本は内向きになり「ヤマヒコ」となる、というのです。

 

同様の議論は、歴史学者の輿那覇氏による「中国化する日本」においてもされています。この本では「中国化」「江戸化」という言葉で表現されていますが、上述の「ウミヒコ」「ヤマヒコ」に類似する考えといっていいでしょう。 

 

もっと深い議論がこの本で話されているのですが、私が特に興味を持ったのが、この「中国の影響」です。日本人の感覚からすると、アイデンティティが外の影響によって決まってくるというのはいささか納得したくないかもしれませんが、やはり日本は中国の影響を大いに受けていると思うのです。内向きか外向きかのスイングが外からの影響で決められているとするのならば、今後ますます影響力をもつであろう中国に対して、日本がどのように自身のスタンスを変えていくのか、中国に携わる身としては非常に楽しみに思えてきてしまうところでもあります。

 

 

では、では