大泉啓一郎『新貿易立国論』〜読書リレー(151)〜

 

新貿易立国論 (文春新書)

新貿易立国論 (文春新書)

 

 

大泉啓一郎氏はアジアの経済を中心に本を出版してきた研究者であり、高齢化に着目した『老いてゆくアジア』や、さらにはアジアの消費の増加を描いた『消費するアジア』など、数々の名著を送り出していきました。

老いてゆくアジア―繁栄の構図が変わるとき (中公新書 1914)

老いてゆくアジア―繁栄の構図が変わるとき (中公新書 1914)

 

 

消費するアジア - 新興国市場の可能性と不安 (中公新書)

消費するアジア - 新興国市場の可能性と不安 (中公新書)

 

 

その方が2018年に著したのが、「日本の取るべき戦略」についてです。それが新貿易立国論だと言います。

 

日本は、エネルギーや食料などの自給率がとても低いです。天然資源のほとんどを海外に依存しているために、日本が生き延びていくためには貿易立国であり続ける必要があると言います。そしてその貿易の主たる対象を、従来のアメリカや中国ではなく、ASEANにしていくべきだ、具体的には、日本企業はASEANを生産・輸出拠点として活用すべきだというのがこの本の主張となっています。この主張をするために、様々なデータを活用したり、各国の状況について分析をしたりと、様々な作業を行なっています。

 

その中で、特にインパクトがあったキーワードが、「もはや日本はアジア唯一のリーダーではない」と言う点です。それを最もよく表しているのが、名目GDPの世界に占めるシェアです。日本の名目GDPの世界に占めるシェアは、1994年に17.7%のピークに達しますが、以降は減少傾向にあり、2016年には6.5%までに低下したと言います。この間成長著しいアジアの国々はそれぞれシェアを上げてきています。もはや日本は従来ほど突出したポジションにはいない、と言うことがこのデータから理解できます。

 

こうした状況を脱する策として、メイド・イン・ジャパンとメイド・バイ・ジャパンと言う二つの戦略の使い分けが必要と主張しています。前者のメイド・イン・ジャパンと言うのが従来日本が行なってきた戦略であり、日本で生産した製品を海外に輸出していくと言う戦略でした。そうではなく、日本国内に高い競争力を有する製品を開発する部隊を残したままで、新興国・途上国に生産拠点を移し、現地で生み出した利益を日本に還流するという流れを作り出すべきだと言うのです。

 

確かに、日本は依然メイド・イン・ジャパンにこだわっているような気がします。なぜならその方が日本国内で雇用の創出などができると言うことと、なによりも生産活動こそが、職人気質でかつ協調的な日本人の特性を最も活かすことができる活動だとして崇拝されて続けていることが挙げられると思います。この若干ナショナリズム的観点が挿入されている神話は、現在の人口減と言う現象によって維持できなくなるんじゃないかなと思ってしまいます。現に、日本で作られた製品と海外で作られた製品で比較しても、品質や信頼性であまり大差はないですし。

 

もっとオープンに日本のものづくりを考えていくこと。これが今求められていることなんじゃないかなと考えてしまった本でした。

 

では、では