宮永博史『ダントツ企業ー「超高収益」を生む、7つの物語』〜読書リレー(152)〜

 

ダントツ企業―「超高収益」を生む、7つの物語 (NHK出版新書 544)

ダントツ企業―「超高収益」を生む、7つの物語 (NHK出版新書 544)

 

 

現在は東京理科大学経営学の教鞭をとる著者による、日本の企業の中でもキラリと光る高収益のビジネスを展開する企業について着目し、その企業がどのように差別化を図っているのかについて、ケーススタディのような形で紹介している本です。タイトルの通り7つの企業について紹介がなされており、多少のばらつきはあるものの、どれも詳細に説明が加えられており、とてもわかりやすくなっています。 その7つの企業とは以下の企業になっています。

 

セブン銀行

ネスレ日本

アイリスオーヤマ

中央タクシー

ウェザーニュース

ディスコ

ARM

 

この7社については私も聞いたことがある事例もあれば、今回初めて知ったものもあり、とても勉強になりました。

 

個人的に面白いなと思ったのは、中央タクシーの事例。中央タクシーは長野にあるタクシー会社ですが、利用率や顧客からの反響が非常に良いことで有名だそうです。関西のMKタクシーに感動した社長が、サービスで徹底的な差別化を図ろうと一念発起。様々な取り組みを長い年月をかけて行うことで、今の立場を確立したと言います。

 

個人的に、タクシーというものは非常に差別化がしづらい産業の一つかと思います。サービスそのものは「移動」な訳ですから、目的地までたどり着ければどうでも良いと考える人は少なくありません。そうした中で、乗車体験を変えることに着目して取り組んで行った中央タクシー社長の考えとそれをやり遂げる力というのは目を見張るものがあります。

 

よく、高収益には良いビジネスモデルが欠かせないと議論されます。Basics理論でも、Battlefieldが一番の頭文字に出てくるぐらい、「何を、どうするか?」というハード面での枠組みの考え方というのがより大事と思われる傾向があるようです。一方で、中央タクシーが行ったのはソフト面での差別化であり、組織行動や経営組織論の部分になると思いますが、こちらは本当に難しい。なぜなら組織の行動・規律を作り上げるのは、それこそ一人の天才が頭で考え出すことができるビジネスモデルとは異なり、多くの人がそれを理解し、実践してこそ生み出されるものだからです。

 

例えば、アップルがスマホで成功した原因の一つとしてチャネル戦略があると言われています。これは、量販店などで他社の製品を並べられるよりも、自社が持つ専属のストアを経由して販売することを重視することで、アップルのブランドを直接ユーザーに訴求できるようにしたというものです。このチャネル戦略も、いわゆるビジネスモデルに属するものであり、ハードな枠組みでの成功例と言えます。

 

しかし、中央タクシーの場合は、いくら「顧客へのサービスを重視せよ!」とトップが号令をかけたところで、実際の運転手が本当にそれを実践するのかは怪しいところがあります。そうした課題を解決したという点で、中央タクシーは際立った差別化を図ることができたのでしょう。

 

そして思うに、そうしたソフトの面での差別化というのは、その差別化されたそのものが固有の価値を持つことから、他社が追随できない、良い差別化になりやすいとおもいます。ただし、繰り返しになりますが、そうした差別化は言うが易し、するは難きの世界です。なかなかない事例として、今後の学びに活用していきたいと思います。

 

では、では