小笠原治『メイカーズ進化論 本当の勝者はIoTで決まる』〜読書リレー(154)〜

 

メイカーズ進化論 本当の勝者はIoTで決まる (NHK出版新書)

メイカーズ進化論 本当の勝者はIoTで決まる (NHK出版新書)

 

 

ここ数年のバズワードである IoT。これについて2014年・2015年の比較的早い段階から日本におけるIoTの議論を牽引してきた著者によるIoT論です。すでに出版から3年経過しておりますが、今でも有効たり得る視座がたくさん含まれており、勉強になります。

 

本のタイトルにもある「メイカーズ」。これは、クリス・アンダーソンの「MAKERS」からきているもので、まさにIoTの先駆け的な本だったと思います。従来の製造業とは異なり、デジタルファイルや3Dプリンタを駆使することによるものづくりの進化を捉えた本ですが、今でも製造業らしく(?)、その動きはゆっくりではありますが着実に進行している印象を受けます。

MAKERS 21世紀の産業革命が始まる

MAKERS 21世紀の産業革命が始まる

 

 

さて、著者の小笠原治氏は、DMM.make AKIBAを立ち上げた人物であり、メイカーズのものづくりを最前線で目の当たりにしてきた方です。『メイカーズ進化論』では、そうした現場での事例をもとに、2015年時点での現状について書かれています。

 

読んでいて、個人的に面白いなと思ったのは以下の二点です。

 

クラウドファンディングが生み出す新しいものづくりのムーブメント

本書では、Coolest Coolerのケースを取り上げて、クラウドファンディングが生み出したインパクトについて述べています。Coolest Coolerとは多機能のクーラーボックスで、アメリカの起業家が、新しいクーラーボックスを作りたいといってクラウドファンディングを実施し、多額の資金を集めることに成功しました。

coolest.com

この事例では、モノへの共感や、面白い、優れたアイデアを出した人への「応援」という感情でお金が生み出されました。これは、従来の製造業における「製造側が考えて、ものを生み出す」とは一線を画したモノの生み出され方な訳です。IoTとは直接関係はありませんが、クラウドファンディングがものづくりに新しい考えを入れ込んでいることは間違いありません。

 

②IoTではサービスで利益を生む

従来の製造業の考え方では、機能美・芸術美の二つを兼ね備えた製品を売ることによって利益を得ていました。しかしIoTによってこの考え方が変わります。今まで重要とされていたモノ(有形)への比重が、だんだんとサービス(無形)に移り変わって行くという変化です。

 

この変化では、いかにモノだけではなく、モノゴトを生み出すことができるか、という点が重要になってくると言います。すなわち、そのモノを通じてどういったことができるのか、どういった利便性があるのか、といった点を訴求しなければ、もはやIoTで利益を生み出すことはできないと言います。

 

著者も、今後ものづくりにおいては、「どれだけ新しい技術が、その製品の中で使われているのか」ではなく、「どれだけ便利で生活が面白くなるのか」といった、その製品のコンセプト自体にあると述べています。このコンセプトを生み出すのが「セットアップ」という考え方になるのですが、日本の大手メーカーはこの「セットアップ」に失敗していると言います。すなわちIoTではモノそのものは評価されにくく、どのような考えなのか、コンセプトなのかがより重要になってくるということです。

 

日本の電機メーカーはよく、技術で勝ってビジネスで負けたと言われています。今のままではIoTの中でも、コンセプトを生み出せずに終わってしまうのかもしれません。今後の電機メーカーを考える上での一つの課題だと思います。

 

では、では