岡島悦子『40歳が社長になる日』〜読書リレー(68)〜

いかに若い時に修羅場を経験させるかが、今後のトップを担う人材には必要だそうです。 

40歳が社長になる日 (NewsPicks Book)

40歳が社長になる日 (NewsPicks Book)

 

 

岡島悦子氏による、若い世代に送るキャリア論。対象がおおよそ20代・30代を中心にしており、企業におけるキー人材になるべく、修羅場を経験することの重要性を説いています。

 

著者曰く、日本の大企業に勤める30代には、絶好の「チャンス」が来ているというのです。まず一つに、経営におけるテクノロジー理解の重要性の高まりが挙げられます。30代会社員は先輩社員と比べると経験に劣りますが、デジタルネイティブであるためにこの流れに乗じやすいのです。次に、日本企業全体の流れとして、次世代経営者の若返り計画と期待就任期間の長期化があると言います。さらに、デジタル革命の主戦場が、カジュアルからシリアス・サービスへと移行し、技術や規制対応などの宝庫たる大企業は、ベンチャー企業よりも比較優位性を持ち得るために、大企業でもチャンスがあるというのです。

 

このチャンスを活かすには、まず若い時から修羅場を経験せよ、というのがこの本の主張です。それは例えていうならば、「東京駅の次長よりも地方の駅の駅長になれ」、すなわち鶏口牛後だと言います。こうすることで、小さい規模ながらも経営全貌を見る機会を得ることができ、将来のリーダー育成に繋がるというのです。

 

面白いのが、今後のリーダーシップのあり方についての議論です。前述の著者はこれからビジョンを持ったリーダーが必要だと述べていますが、一方でこの著者は、イノベーションが起きるのは現場の最前線であり、リーダーはそれらを汲み取り、共感していくような共創の姿勢が必要だと述べています。ここまで視点が対称的なのも興味深いですね。

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ただし、個人的にはこの視点は懐疑的です。理想的には良いかもしれませんが、果たして本当に実行可能性があるのかについては疑問が残ります。これを実行するとなると、抜本的な人事制度の改革が必要ですが、いまだ年功序列が色濃く残る大企業においては、先輩社員への配慮からそうしたドラスティカルなことはできないのではと考えてしまいます。

 

さらに、そうして若手社員を派遣したとしても、旧式の人事制度に引っ張られ、昇給などの具体的な待遇と肩書きがマッチしなくなり、不満が募ってしまうケースも考えられます。著者は「傍流こそ大歓迎」といいます。傍流からのし上がるケースはないわけではありませんが(GEのジャック・ウェルチ元会長や、トヨタの奥田元社長など)、ケースとしては少ないわけです。さらに、最近は相次ぐ不正などで、大企業の礎が根底から揺らいでいるところで、若手社員がそこまでモチベーションを維持できるのかどうか疑問が残ります。

 

現在中途採用の人材の流動性が高まっていると聞きます。そうした中で、プロパーでじっくりと人材を育成するというのは、なかなか難しいのではないか、という視点もあります。

 

まあ、経営者から見た次の経営者候補育成に関する提言としては良いかもしれませんが、このタイトルで日本の若手人材を鼓舞するのは少し無茶なんじゃないかなと。

 

では、では