P4終了 〜INSEADとコンサルの蜜月関係を考えてみる〜

3月に始まったP4も、早いもので4月末に終了いたしました。P4からはコア科目はなくなり、完全に選択科目になりました。P4から授業が少なくなり、私は結局3.5コマの授業を履修しました。ただ、このうち0.5コマはブレイク間に行われるトレック(世界のある地域を訪問し、そこでの企業を訪問したりゲストスピーカーの講演をしたりするというイベント)を履修したので、実質的には3.0コマという、他のピリオドと比べても半分以下の授業となりました。

 

ちなみに私が履修した科目は以下の通り。自分の興味に赴くままに授業を履修したら全く統一感がなくなってしまいました笑。

 

・Private Equity

外側からはよくわからないPrivate Equityについて、多方面から議論を行うという授業。毎回の授業でゲストスピーカーがきて、ケースに基づいた議論をするというもの。

 

・Competitive Supply Chain

サプライチェーンというと資材調達を思い浮かべますが、この授業では資材調達にのみならず業務改善全般について議論しました。

 

・Blue Ocean Strategy

INSEADでおなじみのブルー・オーシャン戦略。これについてケースやシミュレーションを用いながら議論を進めていくという授業。授業の中では、著者のチャン・キム氏が講演する機会があり、INSEADのユニークな授業と言えると思います。

 

・Building Business in Silicon Valley

所謂トレックです。一週間かけて、シリコンバレーおよびその周辺の企業を訪問するというイベント。詳細については後日詳述します。

 

この少ない授業の間で何をしていたかというと、就職活動です。INSEADではコンサルを中心にこのピリオドから就職活動が解禁します。異なる企業が毎日キャンパスを訪れ、説明会を行ったりコーヒーチャットを行ったり、またはインタビュー(これもキャンパスで行います)を行ったりしています。このため社費の学生・起業家を除いたほぼ全ての学生が、イベントのたびにリクルーティングスーツに身をまとい、こうしたイベントに出席していきます。コンサル志望の私もこれら人々の一部になり、就職活動を行っていきました。

 

この観点で言うと、P4は違った意味でピリピリしていた時期だったかなと思います。ほとんどの学生が私と同様ほぼ授業がないのですが、Break Out Room(学習室)に行けばケース練習(コンサル面接で課される、実際のビジネスを模し議論をすると言うもの)を行う学生で埋め尽くされます。また、良くも悪くも情報が共有され、「あいつは〇〇の一次受かったみたいだ」「あの地域は書類で相当落とされたみたいだ」といった情報が飛び交います。コンサルの中でも特にMBB(McKinsey、BCG、Bain)はほとんど全ての学生が出願し、かつそのプロセスがはっきりしていることもあり、かなりの情報が飛び交っていた印象を持ちます。私はその渦中にいたのであまり実感がわきませんでしたが、どうやらコンサル志望でない学生や社費生には、この雰囲気が非常に息苦しく感じられたようです。

 

このピリオドを通じて感じたのは、INSEADとくにMBAは良くも悪くも「コンサルスクール」としてこれからもそのポジションを維持していくだろう、と言うことです。というのも、需要側(コンサル)にしても供給(学生)にしても、これほどまでにないほどの条件が揃っているからです。

 

まず需要側。MBBを中心とした戦略コンサルファームは世界各地にオフィスを有しています。このため、INSEADのように様々な国籍から学生を集めている学校は、採用活動をする上で非常に効率が良いのです。本来であれば、各オフィスがイベントを開き、社員等を動員して学生の対応をしなければならないのですが、INSEADでは一括で社員を送り込みさえすれば、各オフィスを志望する学生にリーチできる、と言う利点があります。説明会のみならず、応募やインタビューに至るまで全てのプロセスを一本化することで、これまた採用にかかるコストを抑えることができます。そして、多様性を謳うINSEADだけあって職務でもバラバラの経験を持つ学生が集められてきています。これは、各業界・プラクティスで細分化・専門化が求められてきているコンサル各社にとって、それぞれの分野にフィットするバックグラウンドを持つ候補者を探すことが限りなく簡単になります。

 

次に供給面について。コンサルスクールと称されるだけあってまずかなりの割合の学生がコンサルを志望していると言うところが一つ挙げられます。次に、これら学生によって作り上げられたプラットフォームがあります。具体的には、学生同士でのケース練習はそれこそ頻繁に行われており、相手を探すことに苦労しません。時間が許せば1日4回ケースを行うことも不可能ではないと言う環境は、非常に恵まれているのかもしれません。さらには、戦コン出身者の学生も非常に親切で、こうしたコンサル志望の学生を積極的にサポートしてくれます。これら環境は、INSEAD外ではなかなか作り出すことができないかと思います。

 

ただし供給側については、ピリピリした雰囲気になるので、注意が必要です。と言うのも学生同士切磋琢磨するのはいいのですが、忌憚なきフィードバックの応酬になるのでメンタル面でタフさが必要になります笑 加えて、ピアプレッシャーが半端ではなく、コンサル志望者でない学生も、「コンサルにいくべきなのでは?」という考えが芽生えてしまいます。事実、もともとコンサルを考えていなかった学生が物は試しと応募するケースがみられました。

 

いずれにしても、こうした需給のベストバランスはなかなか崩せるものではなく、今後もINSEADはコンサルスクールとしてのブランドを維持していくのでしょう。内部でそれを大きく感じたピリオドでした。

 

では、では

 

 

 

 

 

景気とMBAの関係性からビジネススクールのビジネスモデルを考えてみる

今日Yahooニュースを見ていると、こんなトピックがありました。

news.yahoo.co.jp

 

なにせ先週金曜日のアメリカの市場の影響を受け、日経平均株価も一気に650円下がっているわけですから、「一体何が起きてるんだ?」と気にならなくもなりません。そこでYahooのトピックに挙げられていたのが、イールドカーブという話。

 

イールドカーブ、P1のコア科目でもP3のマクロ経済学での試験でも出てきたトピックで、個人的にはとても馴染み深く思えました笑 イールドカーブとは長短期の金利をつないで描く利回りの曲線と表現できますが、この傾きがマイナスになっている、すなわち短期の金利より長期の金利の方が小さい、という現象が発生しているといいます。

 

これは一般的には景気後退の予兆とされ、実際下記イールドカーブの傾きの推移を表したグラフから見て取れるように、逆イールドカーブは2000年代前半のドットコムバブルと2008年のリーマンショックの前にそれぞれ発生しており、次の景気後退の予兆を示しているものなのかもしれません。

Yield Curve --GuruFocus.com

 

個人的には、このイールドカーブの話は聞いていてメカニズムはわかるのですが、だからと言って景気後退を説明する因果関係にはなっていないのかなとも思ってしまいます。一定の相関関係はありそうですが、イールドカーブが発生したから景気が確実に後退する、とはっきりとした因果関係は成立しないのではないか、と思ってしまいます。とは言いながらも、結局のところ景気はどうしても浮き沈みがあるので(この辺りの話について、サプライチェーンマネジメントの授業で面白い洞察をもらったのでまた次の機会に考察したいと思いますが)、今の好景気は必ず終わりが来るものだと思っておくべきかとおもいます。何より歴史が証明しているので。

 

では、景気が悪くなるとMBAにどのように影響が及ぶのか、ちょっと考えて見たいと思います。

 

よく言われていることとしては景気とMBAは負の相関関係にあると言われます。すなわち、景気が悪いとMBAへのアプリカントが増え、景気が良いとMBAを志す学生が減る、というものです。

 

このトピックで色々調べて見たら、同様にブログで同じようなこと考えていた人がいました笑 しかもINSEAD卒業生笑

blog.ladolcevita.jp

時は2008年、リーマンショック真っ只中の記事で、同じく景気とMBAの相関関係について考察したものです。当時は今とは異なり、MBAを志す学生が多かったようです。

 

一方で現在はどうなのかというと、アメリカのMBAプログラムを志す学生が、年々現象傾向にあるとのこと。

www.cnbc.com

ただし、10年前と異なるのが、MBAプログラム自体の多角化(ヨーロッパ・アジア)があります。このため、一概に「景気が良いからMBAアプリカントが減っている」とも言い切れないのかもしれません。ただ一つの仮説として、「負の相関関係はありそうだ」と言えなくもなさそうです。

 

ではなぜこんなことになるのかというと、MBAはキャリアを変えたり、キャリアを中断したりと、「分岐点」で考える学生の方が大多数を占めています。このため、景気が良い時には、「景気が良く仕事が好調なので、MBAに行かずこのままキャリアを進めたい」と考える人が多い一方、景気が悪い時には、「景気が悪く仕事がないので、とりあえずMBAで勉強して次のキャリアに備える」と考える人が多くなる、というのが一般的に言われている説明になるかと思います。

 

ということで、非常に景気変動を受けやすいMBAですが、ビジネススクールはどうやってリスクを分散しているのか。ある教授が授業の余談としてこのトピックで話をしていましたが、彼曰く、これに対する回答は、プログラムの多角化だそうです。すなわちEMBA。EMBAは企業派遣が圧倒的で、景気が好調の時に需要が増えるようです(好調なので、教育投資にかけられる剰余金が増える→多くのアプリカントが押し寄せる)。このため、景気変動とは正の相関関係にあるのだとか。これによって、MBAプログラムの需要変動とうまく相殺し合っているというのです。

 

いずれにしても、競争が激しいアメリカや中国はともかく、日本からのアプリカントはあまり景気との関係性は薄いのかもしれません笑

 

では、では

 

P4突入!

ということで3月もすっかり暮れが近づいていますが、3月半ばよりP4がスタート、3週目の終わりに差し掛かっているところです。

 

P4からはコア科目はなくなり、完全にElectiveコースのみの履修となっています。そして、学校から推奨されるコース履修数は4となっているため、平均しても一週間に4コマ(一コマ1.5時間)という比較的緩やかな授業のスケジュールになっています。

 

では学生は何をしているのか。そう、就職活動です。

 

この就職活動、INSEADで7月卒業のコースになると、P4から解禁になります。9月に入学して7月に卒業するため、インターンを受けることなく、P4からいきなり就職活動が始まる形となっています。INSEADはCareer Changeを目的に進学している学生が多いため、この時期ともなるとほとんどの学生がリクルーティングスーツに身をまとい、コーヒーチャットやキャンパス内での会社説明会、インタビューなど、様々な活動へと繰り出していきます。

 

では特にどのような会社が来るのか。一つ大きな分野がコンサルティングです。INSEADは巷では「コンサルスクール」と称されている通り、卒業生のおよそ3人に1人がコンサルティング業界へと進みます。世界中から学生を集めるINSEADは、グローバルに展開する戦略コンサルファームから見ても人材プールとしてはとても魅力的で、多くの会社がこぞって豪華な会社説明会を開き、インタビュートレーニングなどの機会を提供して、人材獲得に躍起になっています。この需給のマッチもあってか、ほとんどの戦略ファームが、MBA採用枠の中では最多の学生を、ここINSEADから獲得しているといいます。

 

またコンサルティングだけでなく、金融や事業会社、はたまたスタートアップに至るまで、ありとあらゆる会社が優秀な人材を求めにこのキャンパスに行き交います。この学校のリソースを使うだけでも、相当なインダストリーをカバーできるという点では、INSEADのリソースはとても恵まれていると言えるのかもしれません。

 

一方で、学業面はどうかというと、正直なところあまり集中できないのが現状なのかなと思います。上記の通りそもそもコマ数が少なく、好きな分野を突き詰めるには少ないのかなと思います。そして、たとえ好きな分野があったとしても、就職活動との両立は並大抵のものではなく、結局学業やネットワーキングにかけるリソースを割いてしまっているのが実際のところです。IntenseなINSEADなところ、正直に言えばここにきて「10ヶ月プログラム」の限界に気づいてしまったかなというのが感想です。

 

とは言いながらも、あいも変わらず授業の質はとても高いですし、毎回様々な学びがあります。加えてP4は、就職活動も合間って多くのゲストスピーカーが学校に訪れ、様々な洞察の提供をしてくれます。そういった意味では、このように就活しながらでも様々な知見を得られるこの環境のありがたさに感謝するほかない日々です。

 

では、では

Japan Trek

P3からP4の休み期間を利用して、日本人学生有志でJapan Trekなるものを企画し、一週間のトレック(という名の旅行)を実施いたしました。この休み期間には、他にもトレック企画が多く、中国・香港・イスラエル・ドバイ・南アフリカ・ニューヨーク・ヨルダン・バンコクとまあ兎にも角にも目白押しで、500人いる学生がそれぞれの興味関心を元に様々なトレックへと旅立って行ったわけですが、それでも日本に対する興味関心は高く、途中参加踏まえ合計で20名以上の学生に参加してもらえました。そしてその出身もバラバラ。少しあげただけでも、アメリカ・中国・スイス・ドイツ・ウルグアイ・ブラジル・スペイン・フランスなどなど、様々な国からきてもらいました。とてもありがたい限りです。

 

一応私は大学生時代に国際交流団体で色々と日本を回った経験もあり、それを活かしながら以下プランにて旅程を組んでいきました。もちろん、参加者からも「ここがいきたい」という要望があったので、それに応えつつフレキシブルな旅程を組んだので、結果としてかなり満足度が高いトレックになったかと自負しています。

 

1日目:大阪(大阪城あべのハルカス等訪問)

2-3日目:京都(定番旅行地、および文化体験)

4日目:箱根(温泉)

5-6日目:東京(定番旅行地および展示会等)

 

この旅を通じて実感したのが、外に対しておもてなしする際の日本の表象の変化です。10年前に外国人を連れて日本各地を旅行したときには、どちらかというと興味は歴史的建築物に重きが置かれていたのですが、今回様々な学生と旅行をして感じたのは、歴史的建造物にはあまり興味がわかない。どちらかというと、街中の些細な人々の動きだったり、微々たる特徴に目がいったり、文化体験での所感の共有が行われたりなど、私が以前経験したものとはまた一味違った経験ができたのではないかなと思います。そういった点では、外国人から見た日本の見られ方が変わっているのではないか、そう感じてしまいました。(すなわち、建造物のみではなく、ソフトの面も踏まえたパッケージなところとしての日本表象)

 

そしてもう一つ、半ば浮世離れして、外国人旅行客の視点から日本を見るとぼんやりと浮かび上がってくるのが、日本という土地のとてつもない観光資源の多さかと思います。今では日本論を中心に有名になりましたデービット・アトキンソン氏が、数年前の著作である『新・観光立国論』でもあげていたように、日本はこれでもかというくらい観光資源がある。季節も春夏秋冬それぞれの楽しみ方があるという点ではオールシーズン対応可能だし、朝から晩まで、とにかく何かしら楽しめるアクティビティが、いつでもどこでも用意されている。例えば、東京に限らず地方都市においても、必ず観光地として史跡は存在するし、昼食・夕食にはその土地の美味しい郷土料理や、特に目立たないものがなかっとしても日本食というパッケージで様々なバリエーションがある。史跡を見飽きたとしても、自然が豊富なので、アクティビティや文化体験など、様々な選択肢が存在している。

デービッド・アトキンソン 新・観光立国論

デービッド・アトキンソン 新・観光立国論

 

 

正直なところ、こんな国は世界中探してもなかなか見当たらないのかなと思います。なぜなら、食事・季節・アクティビティ・史跡全てが揃っている地域はなかなかない。INSEADにきて、ヨーロッパからアジアまで全領域に旅行に行っていますが、そんな地域はなかなか見当たりません。例えばヨーロッパは、冬になればもう寒すぎて観光どころではありませんし、食事もまちまち(特にイギリス笑)です。アジアにおいても、東南アジア等はオールシーズン対応のところもありますが、史跡が少なすぎたり、食事があまりバリエーションに乏しいという方が大多数です。その世界の名だたる観光の中においても、日本というのは非常に稀有な存在なのではないか、というのが今回日本を巡って、というか日本の旅行をアレンジしてわかったことです。

 

 

こうやって考えれば、デービットアトキンソン氏が述べているように、あと少しの努力次第で、日本も観光大国として大いに化けるのではないか、そんな気がしてなりません。特に、観光業の国際化という観点、そして欧米を中心とした中長期滞在者の取り込みというのは、本当に一つの課題になってくるのではないかな、と思ったところです。

 

dajili.hatenablog.com

 

にしても、やっぱりこういう国際交流というか、自分かの紹介というのはやめられません。とても大変でしたが、こうやって自分の見知った場所においてもさらなる発見があるというのは、こうした旅行の醍醐味なのかなと思います。INSEAD生は我が強く、それぞれ自分のやりたいことを好きなように主張するために、それに応えるべく当日のスケジュール変更もざらでした笑 それでもなんとかフレキシブルに対応することができ、とても良い一週間を過ごすことができました。

 

今はすでにシンガポールに戻って就活モードとなっていますが、ここで養った鋭気で、なんとかP4も乗り切っていきたいところです。

 

では、では

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*写真は清水寺。清水の舞台の改修工事の真っ只中でなかなかここの魅力を伝えるのは難しかったですが、それでもとても楽しんでもらえました。

ビジネススクールから見た「日本」

シンガポールに移ってから2ヶ月が過ぎました。P3になってからはアジアキャンパスということもあり、アジアのケースを行う割合が増えたなという肌感覚はあるのですが、それにも増して日本を捉え直す機会が多々あったなと振り返っています。ということで今回は、「ビジネススクールから見た日本」について私見をまとめてみたいと思います。

 

ビジネススクールということで、ビジネス環境から捉えた日本という視点がメインとなるのですが、INSEADダイバーシティの中で日本はいったいどのように位置付けられているのか、簡単にまとめると、世界の主流とは明らかに違う価値観を持った人、といえそうです。

 

そもそもなぜそう感じたか。本論に入る前に、大きな影響を与えた一つのコア科目と一つの選択科目について紹介したいと思います。

Macroeconomics in Global economy

概念的に学習する内容は学部生のマクロ経済学と対して違いはないが、一つ大きく異なるのが、財政政策にしても金融政策にしても為替にしても、世界各国の政策や経済状況等を比較するという手法を取っている点です。比較マクロ経済学というべきなのかもしれませんが、そうした中で日本の事例が多く取り上げられていました。

 

Strategies in Asia Pacific

アジア市場戦略についての講義。特に日本については2コマを使って、現在の日本の価値観に影響を与えている歴史をざっくりと眺めたのち、現在の社会システムについてフレームワークを用いて分析を行うという講義がありました。その講義では、一つ一つの知識を見れば、日本人にとって真新しいものというものはなかったのですが、他の外国との比較の観点から、big pictureの視点で一つ一つの点となる知識が有機的に連鎖する繋がり方は、日本人の私からしても目から鱗ものであり、とても勉強になりました。

 

これらの授業を通じて感じたのは、日本は他の国にはない、強烈な二つの価値観を共有しているという点です。その二つというのが、「Collevtive Survival」、「Equity Outcome」だと思います。(一応、授業の内容を鵜呑みにするのではなく、自分なりの解釈を加え、以降論考をしています。)

 

まずCollective survival。なぜか知らないけど、とにかく日本人は「生き残ること」にこだわるのかもしれません。1000年続く企業だってあるわけですし、ビジネスの経営戦略にしても、事業の存続という観点が多く使われています。それゆえ、『生きている会社、死んでいる会社』でも取り上げられているように、一見すると社会的に淘汰されてもおかしくないような会社がいつまでも残り続けるというのは、ある種非常に日本的な現象なのかもしれません。

 

そしてもう一つが、Equity Outcome。これも人間は等しく平等であるべきで、それは機会も結果もそうであるべきという考え方が強いんじゃないかなと思います。これは、年功序列が一向になくならない(=社会の平等性を保つルールとして依然有用だと考えられている)点や、新卒一括採用が残っている点について説明が可能かと思います。

 

ではなぜこうした考え方が存在しているのかというと、歴史的な観点から紐解くことができそうです。本当にざっくりとではありますが、①集団作業が必要となる稲作を中心とした社会システム構築がなされていった点、②中国から儒教の影響を大きく受けた点、③何度か国を揺るがす脅威に晒された点、④何度か社会システムが変わりながらも、日本としての独立は保たれていた点が、これらの価値観を醸成する前提条件になったと言えます。

 

これらが形作る現在の社会システム(とはいっても、必ずしも必要十分条件ではありません。これら二つの共通価値観においても、異なる社会システムが出現する可能性は十分にあります)は、海外からすると非常に奇異な存在に見えるかもしれません。例えば、

 

①政府の債務が多いのに、ほとんどの債権者は日本国内の投資家(→これはイタリアやギリシャと大きく違う。愛国主義では説明しきれない何か別の価値観がある?→collective survival

 

②女性の社会進出が遅れている。でも日本人はそれをあまり問題と捉えていない(→戦後間もない家族観で作り上げられたシステムが未だに残っている)

 

などなどありました。いずれも授業においてコメントを求められ、理解してもらうのに大変苦慮した覚えがあります笑

 

以上がP3を通じて見えて来た日本の客観的なポジションです。とは言っても、それをネガティブに捉えるのではなく、むしろポジティブに捉えている印象があります。すなわち、

 

「自分たちとは違う考え方を持っている(協調的だし、あまり発言しない)。それでもうまく活用すればとんでもない力を発揮しそう(な気がする)」

 

ということになるのでしょうか。

 

Organizational behaviourの授業で読んだケースの中に面白いものがありました。そのケースでは、日本人とアメリカ人が同じグループの中で議論をするのですが、Interactionの頻度を見える化すると、見事に日本人はinteractiveではないし、話す人も非常に偏りがある。ただこれをうまくやって(発言を平等にするなど、組織のルールを作る)、日本人の発言を多くさせると、グループの生産性が向上した、というものです。この例からもわかるように、日本人は「Diversity」の中にあって、さらに「よくわからない奴ら」として見られているのかもしれません。

 

ただここで感じてしまうのが、「欧米ビジネスから見て日本というのは、Diversityを語る上での格好の良いターゲットなのではないか?」と言えなくもない、という点です。すなわち、INSEADお得意の「Diversityは素晴らしい」ということを語りたいがために、自分とは価値観の異なる日本人を取り上げて、その文化の違いを「消費」しているのではないか?という問題意識です。

 

どういうことか。それを非常に表しているのが私のOrganisational Behaviour1での経験です。直訳すると組織行動論なのですが、コア科目のうち1の方は、心理学の観点からより個としての人間にフォーカスを当て、どのような個人のパフォーマンスの上げ方があるのかということを主たる議論の対象としていました。そこで感じたのが「日本が消費される」経験です。

 

例えば、ハイコンテキストとローコンテキストのコミュニケーション。ハイコンテキストを表す文化の最たる例として日本が取り上げられ、どれほど日本がハイコンテキストな文化なのか、というのを議論しました。日本人である私は、「日本人の文化はどう違うのか?」という発言を何度も求められ、教授に求められるがままに、「ここが変だよ日本人」を演じました。

 

ただ、このハイコンテキストという考え。コンテキストをどこから見るかによって「ハイ」にも「ロー」にも捉えることができます。例えばヨーロッパにおいても、ラテン語を用いた非常にハイコンテキストなコミュニケーションが見られますし、日本においても非常に多くの説明を要するコミュニケーションの方法が取られることもある。要するに、ハイコンテキストやローコンテキストというのは、「見方次第で、どう捉えることもできる」というものなのです。

 

つまり、「ここが変だよ」というのが、実は別に変ではないということ。であればなぜ「変だよ」ということが殊更に強調されるのか?それはすなわち、「変であってほしい」という彼ら側からのまなざしがあるのではないか、ということです。

 

他にも、日本の顧客の文化的な違いに苦慮するという点に焦点が当てられたケースだったり、日本の電機メーカーが生み出した製品は日本の文化の賜物だというケースがあったり、何かケーススタディで日本の事例が取り上げられる際、「日本の文化は違うから」という前提条件が強調されているような気がしてなりません。だからこそ、日本は消費されているのではないか、という表現を用いたのです。

 

これらの経験を通じて自分が感じるのが、彼らの眼差しの中にある日本人を演じつつも、それを打ち破る戦いをしていかなければならない、ということです。これがまあ非常に難しいのですが。

 

長々と書いていきましたが、「相手からどう見られているのか」という視点を理解するにはとても良い経験だったように思えます。また、客観的に日本のポジションを理解するという点でも、P3は非常に良いものだったように思います。

 

P4は就職活動がメインになりますが、それでも面白そうな授業が目白押しなので、またここで紹介できればと思います。

 

では、では

 

 

2月22日〜P3終了〜

あれ、前の記事が「シンガポール到着」だったのに、もうP3終了?

 

はい、そうです。完全にブログから離れてしまい、この体たらくです。光陰矢のごとしとはまさにこのことで、気がつけばあっという間に怒涛のP3が過ぎ去り、金曜日を以ってP3が終了致しました。これで全カリキュラムの60%が終わったということになります。今P3を終えて時間ができたので、振り返ると同時に、INSEADのキャンパスライフについても紹介したいと思います。

 

この2ヶ月間、一体何をやっていたのか、順を追って紹介したいと思います。

 

①コア科目と選択科目で分刻みのスケジュール

コア科目は、Business and Society: Political Environmentと、Public Policy、そしてMacro Economics in the global economyという三科目。文系学部卒業出身の私にとっては比較的馴染みのある分野でしたが、欧州の学校らしくしっかりとPoliticsやSocial Scienceをやろうという考えをベースにしたカリキュラムになっています。特にマクロ経済学は、実際のマクロの理論(IS-LM曲線とか)のみならず、実際のデータを用いて現在の経済の状況を読み解く作業も行われ、非常に興味深い内容でした。さらに、教授が日本びいきなのか、それとも日本の状況があまりにも特殊なのか、日本の事例(アベノミクスなど)を用い財政政策や金融政策を論じてくれたため、日本の危うさについて改めて危機意識を植え付けてくれた、そんな授業でした。

 

一方で選択科目は、その名の通り自分で好きなトピックに合わせて選ぶことができるもので、私は以下授業を選択しました。

1. Technology and Innovation Strategy

文字通りテクノロジーをどのように企業戦略に落とし込んでいくかというもの。簡単な事例でいうと、新しい技術を製品化するときに、どうやってキャズムを乗り越えていくかというような話をおこなっていく。シミュレーション等を通じ新しい技術への投資バランスを検討したり、テック企業への訪問を行い、いかに競争優位性を作り上げていくかという議論を行ったりと、内容盛りだくさんの授業でした。電機メーカーで働いていた自分としては、過去の経験とリンクする点が非常に多くあり、とても学びの多い授業でした。

 

2. Merger and Acquisition, Alliance and Corporate Strategy

簡単に言えば全社戦略。企業トップの視点から、どのように成長や拡大をしていくのか、その手段としてのM&Aやアライアンスについて、どのような視点で分析を行い意思決定をしていくのかという授業でした。ケースを中心とした議論で、特にM&Aの実務経験がない私にとってはかなりハードな内容でしたが、それ見合いにラーニングカーブはすさまじいものがあり、知識習得という面で非常にメリットのある授業でした。加えてM&AアドバイザリーやPEファンドといったゲストスピーカーによる講義は、今まで自分が経験してこなかったような分野への興味を広げてくれたという点ではエポックメイキング的な授業になったかもしれません。

 

3. New Business Ventures

一言で言えば、「起業家養成塾」。アントレに関心はあるがまだやったことがないという学生を対象に、起業において起こりうるトピック(アイディアをどうするか、誰と組むか、どうやってファンディングするか、どうやってスケールを拡大していくか)に基づき、毎回そのトピックに基づいたゲストスピーカーを招いて講義をするというもので、最終的には投資家を前に自身のビジネスアイディアをスピーチ(Pitch)するという、非常にユニークな授業でした。ゲストスピーカーというのもこれまた癖のある人が多く、シンガポールでE-commerceを立ち上げた起業家や、インドネシアユニコーン企業に対していち早く投資をしたPEファンド、タイでオンラインゲームをひたすら作り続ける起業家や、挙げ句の果てには日本にテトリスをもたらしたハワイアンに至るまで、多種多様なゲストスピーカーがきました。その中で、起業のマインドセットや改めてキャリアに関する考えを洗練するとても良い機会になったかと思います。

 

4. Strategies for Asia Pacific

アジア太平洋ビジネス戦略、といったところでしょうか。東アジア・東南アジアのマクロ事情を紹介するとともに、どのようにそれらの国々でビジネスを行うべきかという、アジアにキャリアを根ざす気満々の私にとってはとても学びの多い授業でした。教授はハーバードで日本学で博士号を取得したキレキレのドイツ人で、日本語も非常に流暢な人でした(「濡れ落ち葉」という言葉を勉強したのもこの授業笑)。アジアの状況について広く深い理解ができるとともに、それをビジネスの視点で捉えるという、非常に有意義な授業でした。

 

この授業では、2時間かけて日本の状況について講義がなされたのですが、とてもその授業が面白かったので、また別の機会にまとめたいと思います。

 

 

5. Strategies for Product and Service Development

簡単に言えば、今流行りのデザイン思考の授業。INSEADキャンパス内にあるCreative Garageという、デザイン事務所のような教室で行われるこの授業では、デザイン思考を鍛えるための様々なケーススタディや実践を行いました。授業の途中ではフィールドワークにも行き、プロセス改善のための知見を得るなど、非常に体験型の授業だったかと思います。

 

ということで、非常に興味深い選択科目が多く存在する中で、学校から要求されている科目数の1.5倍近くを履修してしまいました。その結果、圧倒的に時間が足りなくなり、コア科目で忙殺していたP1、P2とは違った質の忙しさにかまけておりました。

 

Jakarta Trek

もう一つP3で特筆すべきなのが、ジャカルタへの企業訪問。これは学校のカリキュラムとは関係なく、学生有志によってプログラムされたもので、金曜日と週末を用いた二泊三日、弾丸のツアーでした。とはいっても訪問企業は、インドネシアを代表するテックユニコーン(GoJek、Bukalapak、OVOなど)ばかりで、東南アジアのビジネスを理解するには非常に有意義なTrekでした。

 

③Club活動

P3はキャンパスも移動したこともあり、クラブ活動も別の意味で活発になりました。私はIndustry Clubという、Industry Goods (自動車、機械、化学、半導体など)の分野に特化したClubのアジアキャンパスの代表となり、粛々と活動をしておりました。代表というと聞こえは良いのですが、Club運営に興味があったのが私を含めて3人で、私以外の2人がシンガポールには2ヶ月しか滞在しないということだったので、必然的に私がinitiativeをとることになったという経緯です。とはいっても、学校と学生をつなぐ事務仕事的な内容が多く、企業訪問などのイベントを企画したり、採用活動でやってくる企業向けにCV Bookをまとめたりと、どこぞの企業の回し者的な役割がメインだったと記憶しています。

 

④就職活動

アジアキャンパスに早めに移動することになった一つの理由として、就職活動を早めにスタートさせたいというものがありました。その想いのとおり、フランスにいる時以上に色々と企業を見て回ったかと思います。就職活動は次のPeriodから本格的にスタートするのですが、それでも企業のコーヒーチャットに参加したり、面接対策のセミナーに出たり、同級生と面接の練習をしたりと、ほとんど週末はこうしたアクティビティで埋まっていたような気がします。

 

⑤気がつけばアジアを中心としたネットワーキング

フランスのinclusiveな雰囲気とは異なり、シンガポールキャンパスはネットワーキングに対して良くも悪くもドライな感じを受けます。特にこの時期は、シンガポールキャンパスは(a)アジアでキャリアを考えており、早々に就職活動に動いている学生と、(b)アジアでのキャリアは考えておらず、とにかくアジアを楽しみたい学生 の大きく2パターンに分かれていて、キャンパスにおいても完全に学生の繋がり方が二分化されていたような気がします。(a)で多いのはアジア系の学生であり、気がつけば私もそうした学生と情報交換をしたり、議論したりなど交流を深めていったと記憶しています。

 

そして、中国の旧正月もあったこともあり、気がつけばキャンパスとChinaTownを行き来する毎日が繰り返されておりました笑 中国語を喋れることもありシンガポールでは受けが良く、イベントやパーティの誘いも、基本的に中国人枠として参加していました笑

 

⑥家族:日本で拾ったインフルで一家撃沈→シンガポールの温暖な気候に一家ハッピー

シンガポールに来て早々、日本一時帰国時にもらって来たであろうインフルエンザに妻が発症、それが娘に移り、ということで、最初の二週間は現地生活立ち上げと家族の看病、そして授業という、シンガポール版「三本の矢」を被弾し、大変なスタートを切っておりました。ただ、一旦生活が落ち着いてくると、シンガポールの快適すぎる生活環境に一家一同大幸せを享受しております。妻はシンガポール名物海南鶏飯に感動しながら自身の修士プログラムで神経科学について学び、娘はやっと一人で歩けるようになったのでシンガポールの緑豊かな街並みを颯爽と歩き、シンガポールライフを満喫しているように見えます。特にシンガポールに移ってからは、よく学校に子供を連れて行くようになり、学校で会う人々から、「今日もお前の子供にあった」と挨拶がわりにコメントされるような、そんな生活を過ごしておりました。

 

ということで、授業+課外活動+就職活動+ネットワーキングで分刻みのスケジューリングで動き、夜帰って娘を寝かしつけて自分も寝落ち、朝早く起きてその日の事前準備を行い、週末はJakarta行ったりセミナー出たりというライフサイクルを2ヶ月間続けてきた、というのが1月2月のサマリと言えるでしょう。

 

フランスでは良くも悪くも現実から少し離れていたような気がしていたのですが、シンガポールに来てからは、自分のやりたいことと自分のやっていることがしっかりとマッチしている、そんな手応えを感じています。これはひとえに、INSEADがアジアにキャンパスがあるからということも言えますが、何よりもP3に入って学生生活の質がまた一段と変わったということも影響しているのかもしれません。

 

P4に向けて、これから10日間近くの休みになるわけですが、休みの期間中は引き続き就活に向けた準備を行うとともに、自分が企画したJapan Trekで現地での引率を行うべく、また一週間ほど日本に滞在する予定です。時間が許す限りトピック別にP3での学びを綴っていきたいと思います。

 

では、では

1月7日 〜P3授業初日〜

今日はシンガポールでの授業初日。といってもまだシンガポールには昨日到着したばかりで、空港に隣接するホテルから出発し、今回シンガポールにて滞在する住居まで移動し、入居手続きを済ませてからになる。
 
正午にシンガポールキャンパスに到着。キャンパスはフォンテーヌブローとは異なり、学校というよりかはオフィスビルのような作り。フォンテーヌブローは二階建てで、広い森の中に平屋のように広々とキャンパスがあったが、シンガポールは高層ビルのような形でフォンテーヌブローとは雰囲気も異なっている。
 
正午にはシンガポールキャンパスに今回のピリオドで移動してきた学生向けへのキャンパス説明会。三週間近くのブレイクを経てシンガポールで合流することもあり、それぞれの再会を喜ぶような形に。日本に帰っていたからわかるけどやはりこの学生の雰囲気は本当になかなかない良いものだと思う。終了後にキャンパスの外で友人と昼食。米中貿易戦争について中国人と意見を交わす。
 
午後はM&A/Alliance/Corporate Strategyの授業。このピリオドから選択科目が始まり、これはStrategy科目のうちの一つに当たる。内容は日本語訳がそのまま似合う「コーポレート戦略」。全社としてどのような事業を、どのような形で持つのか、そしてどのようにシナジーを起こすのかについて。1回目の授業はイギリスの銀行のケースを用いて、M&Aによるシェア拡大か、多角化による海外進出かなどの選択肢についてQualitativeな観点で議論。
 
夜は住居に戻って生活の立ち上げ。シンガポールはフォンテーヌブローと比べて大都会で、徒歩圏内に色々なショッピングモールが並ぶのは本当に便利なところ。
 
では、では