読書リレー(36) 過去は繰り返すー千葉三樹「ウェルチにNOを突きつけた現場主義の経営学」

 

 

未来を見るには、過去をしっかりと捉える必要があるようです。

 

元GE(ジェネラルエレクトリック)という世界でも有名な電機メーカーで、日本人としては初めて副社長まで伸びつめた、千葉氏の著作です。この方については私も今まで知らなかったこともあり、GEそして当時の電機メーカー業界の状況を含めて勉強になった本です。また、ほとんどが自叙伝のような作りになっているのですが、とても面白い経験をされて来た方であり、小説のような面白さがあり、すぐに読めてしまいました。

 

縁あってGEの購買部門で働くことになった著者が、様々な紆余曲折を経てGEの副社長にまで上り詰めます。そして、当時会長の職についていたジャック・ウェルチ氏と対立、結果として辞職を選ぶというストーリーが描かれています。この本ではそれ以降も続くのですが、個人的にはこの辺りが非常に面白いのでここで紹介したいと思います。

 

ジャック・ウェルチといえば経営学では神様のような存在として崇められている存在です。というのも、海千山千とあったGEの事業を再構築し、利益を出し続ける強い企業に生まれ変わらせたからです。ジャック・ウェルチの経営哲学でよく知られているのが、その市場でシェア1位もしくは2位を取れる事業にのみ資源を集中し、あとは事業を売却するか、徹底的に削減を測る、というものです。そうして会社全体の利益体質を改善し、大きな企業といえども安定した利益を叩き上げる、というものでした。結果としてGEを立て直した功績が大きく評価されているのですが、この著者は、そのジャック・ウェルチと戦った、というのです。

 

それは本書でも紹介されているのですが、当時著者が担当していたテレビ事業に関して、意見が対立したことに端を発します。ある日本のパートナー企業からの調達契約について、締結完了の後一歩のところで、ウェルチ氏から「この話はなしだ」と取り止められたのです。納得がいかない著者は不満をぶつけますが、一向に相手にしてくれません。そのやりとりが非常に面白いです。

 

ウェルチ氏は、「もしあなたが日本の企業ではなく、韓国の企業と取引をするというのであれば話は別だ」と話します。「なぜだ」と問いただす著者に対し、ウェルチ氏はこう述べます。(少し長いですが、本文から抜粋いたします。)

 

「かつて産業革命と海軍力で世界を制覇した大英帝国は、第二次大戦後その覇権をアメリカに奪われた。まあ、この覇権というのは経済的な覇権と考えてほしい。そのイギリスをアメリカが追い上げはじめたとき、イギリス人はこう言っていたよ。安物はヤンキーだ。俺たちは技術力で高付加価値の製品を売るさ。だがそう言っていたイギリスはどうなった? 見るも無惨な斜陽国に成り下がったじゃないか。その次は我々の番だった。日本人がラジオやテレビを売りに来たとき、アメリカ人はなんと言った。ジャップ――おっと失礼――日本製品がアメリカ製に敵うわけがない。メイド・イン・ジャパンなんか怖くない。そう言ってたものだ。ところがどうだ。船、テレビ、自動車、半導体、今ではみんな日本人の方がうまく作ることを知っている。アメリカはイギリスのデッドコピーを繰り返したわけだ。  今度は日本の番だ。鉄鋼、テレビ、冷蔵庫、日本は韓国に追い上げられているじゃないか。なのに日本人は何と言ってる? 韓国はまだまだだ。怖くない。  歴史は繰り返すんだ。日本は韓国に負けるんだ。それは歴史が証明している。」

 

時は1985年、日本の製品がその品質と圧倒的な価格競争力で世界の市場を席巻していた頃で、まだ日米半導体協定などの抑制に入る前の時代です。日本はいけいけおせおせムードの中だったところです。

 

そして、30年後の昨今、状況はどうでしょうか?まさに、ジャック・ウェルチ氏が予想したような世界になっているのです。日本勢はコンシューマー製品を中心に世界での存在感を失っています。そんな未来を、30年も前から予測していたというのは、すごいとしか言いようがありません。

 

ここでのポイントは、「歴史は繰り返す」というところです。「失敗学」のところでも書いてありましたが、今起きていることは大体が過去にも起きたことであり、真新しく感じるのは、過去をきちんと勉強していないからだ、というのです。逆にいえば、しっかりと過去を捉えていれば、その延長線上にある未来を予測することができる、ということなのでしょうか。少なくとも、ジャック・ウェルチ氏は、正しい過去の認識を持って、未来予測をしていたわけですね。

 

この話自体はこの本の本論とも言えるようなものではないのですが、とても興味深かったので共有しました。未来は過去から予測できるかもしれない、ただし、過去をどう見るか次第、なのかもしれませんね。

 

では、では