武田 知弘『織田信長のマネー革命 経済戦争としての戦国時代』〜読書リレー(61)〜

戦国武将で経済・ビジネスを考えるのも、面白い視点かもしれません。

 

織田信長のマネー革命 経済戦争としての戦国時代 (SB新書)

織田信長のマネー革命 経済戦争としての戦国時代 (SB新書)

 

 戦国武将を経済政策から見ようという、なんとも斬新な一冊。その視点だけで、この本の面白さの8割は作り出されたんじゃないかというくらい見る観点が面白かった本。

 

よく織田信長といえば、日本史の授業に出てくるくらいで、その後は大河ドラマで脇役で出てくるぐらい。(そういえば、織田信長を主人公にした大河ドラマって、いつからやってないんだろう?今みたいにカリスマ的なリーダーシップが必要とされている中で、もしかすると織田信長大河ドラマは受けるような気がするのですが…)あまり知識の更新がされないままでしたが、この本を読むことによって、当時の経済政策とともに、織田信長のしたたかさがわかります。

 

本書によると、キーワードは「寺」、「城」、そして「港」だと言います。

 

まずは寺。織田信長既得権益を潰す役割を担っています。織田信長が生きた時代、日本の経済を牛耳っていたのは寺院でした。彼らは平安時代から続く、荘園という名の土地を多く保有し、そこから徴税を行うことにより、莫大な富を築き上げて生きました。このプロセスの中で、市場や港などの権益も独占していたわけです。他の戦国武将たちはこうした寺社に対して手を触れずじまいでした。しかし織田信長は果敢にもこうした既得権益に真っ向から勝負を挑みます。結果は知っての通りで、延暦寺焼き討ちなどを行います。

 

そして、確固たる財源を得るために、楽市・楽座を行わせます。これは日本史の教科書でも出てきますが、身分に関係なく自由な参加を認めた市場で、その取引に税金をかけて収入を得ようとしました。この結果、自由な商取引を求めて楽市・楽座は急速に全国に拡大を見ることになり、織田信長の財源も安定していきました。これはECでプラットフォームを作った楽天やアリババと似たような方法だなと思ってしまうわけです。

 

次に城。信長は、不動産デベロッパーとしての才能も発揮します。それが築城と城下町建設です。織田信長といえば安土城が有名ですが、それも立派な城下町を建設させ、そこに自由に人が出入りするような形をとりました。そこに多くの人があつまり、多くの人が自由に商売を行うことができる。織田信長は城下町の建設とともにそうしたプラットフォームを各地に作り上げることで、財政基盤を確固たるものにしていったというのです。

 

最後に港。信長は港湾の整備とともに占拠も行います。これは特に当時武力として重宝された火縄銃と大きな関係があり、これにより信長は当時輸入に頼っていた、火薬の原料となる硝石を独占したのです。

 

そうした結果が助実に現れたのが、圧倒的な武力を持って武田軍を一掃した長篠の戦いだと著者は述べています。当時最新鋭であった火縄銃を駆使したことはよく知られた話ですが、織田信長がなぜそこまで火縄銃を調達することができたのか、という点を深く考えていくと、織田信長はこうしたマネー戦略によって強固な財政基盤を築き上げていたからだ、というのが答えとして浮かび上がります。

 

ネットのレビューでは、一次史料が少なく信ぴょう性に欠けるというコメントも散見されますが、まあ仮説としてこうだったかもしれないという考えに至るのだけでも、この本は十分に価値があるんじゃないかなと思います。

 

こうした織田信長の施策というのは、何か現代で我々が議論しているようなビジネスの話とリンクしているように思えてなりません。例えば寺社との対立においての信長のスタンスは、既存の既得権益産業に果敢に挑戦する起業家のイーロン・マスク氏と通づるところがありますし、城下町建設については、ECにおけるプラットフォームづくりに通じるところがあります。港についても、ロジスティクスを重視したアマゾンの戦略と類似性を見いだすことができます。 

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 少し時代が違いすぎているのでなんともいえませんが、クラウゼヴィッツ孫子のように、過去の戦争をベースにした経営戦略があるのであれば、こうした戦国武将から経営戦略を考えるのもありなのではないかな、と感じてしまいました。 

戦争論〈上〉 (中公文庫)

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孫子 (講談社学術文庫)

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では、では