井上久男『自動車会社が消える日』〜読書リレー(67)〜

恐ろしいタイトルの裏には、これでもかというくらいの「危機感」が秘められています。

自動車会社が消える日 (文春新書)

自動車会社が消える日 (文春新書)

 

 

新聞記者による自動車業界の動向と、日本の自動車メーカーの現状についてまとめた本。新書にしては情報量が多く、自動車業界の「いま」を知るにはちょうど良い内容になっています。

 

本書によると、自動車業界は今パラダイムシフトが起きている、この流れに乗り遅れてはいけない、ということ。まあここから先は他の雑誌や書籍でも書かれている通り、クルマが「単に人を運ぶだけの箱・プラットフォーム」と化し、自動運転などと言ったソフトウエアの勝負になって来ているという時代の流れがあります。

 

日本の自動車メーカーは、すり合わせ技術が必要となるエンジン技術を大きな武器に、生産の効率化、いわゆる「カイゼン」を徹底的に行うことで、コスト・技術の2方面で圧倒的な優位性を築き上げて来ました。

 

しかし、EV化や自動運転など、最近の自動車業界のトレンドに対して、日本の自動車メーカーが牽引できていない印象は拭えません。ハイブリッドやディーゼルエンジンなど、技術の不断の改良は行なっており、それはそれで評価できるのですが、一方で自動車業界を今後どのようにしていくかという、ビジョンに欠けているのではないか、という点を著者は懸念しています。

 

もう一点、著者が懸念しているのが、業界の「内向き化」です。それをよく表しているのが、トヨタのアメリカ戦略です。トランプ大統領就任後、彼はすぐにトヨタのアメリカ戦略についてクレームを公言しています。トヨタの関係者によると、その時点で、「今までのトヨタとどこか違う」というのです。それはどういうことか。

 

従来は、トヨタはアメリカ政府に対しロビー活動を活発に行なっており、最新の注意を払いながらビジネスを展開して来たそうです。しかし近年その活動がおそろかになっており、今回のような批判を受けてしまったのだと言います。本来のトヨタであれば、そうした動きに先立って、トヨタが先手を打っていた、というのです。これは、企業活動が内向きになりすぎてしまい、対外部の活動がおそろかになってしまったことの表れと指摘しています。

 

また、今のトレンドであるEV化や自動運転についても、対外部との関係がおそろかになってしまい、後手後手の対応になっているのでは、と著者は指摘しています。その典型が、アメリカと中国の規制強化により、ハイブリッド車エコカーの対象ではなくなってしまったこと、と挙げています。従来であれば、自国に優位な形で国際ルール策定に参画できていたのですが、それすらもできなくなってしまった、と言います。

 

こうした懸念は自動車業界に限らず、全ての業界に当てはまるのではないかなと思います。日本の自動車業界は、まだ世界的なレベルで存在感を示せている業界です。これ以外では、グローバルなレイヤーでリードするような動きはもちろんのこと、日本の存在感すら内容な状況だと言えます。

 

業界のビジョンを持ち引っ張る。対外部とも関係を構築し、国際ルールを作り上げていく。そうしたグローバルレベルでの活動が、自動車業界のみならず、日本のビジネス全体には必要なのかもしれません。

 

では、では