花田 信弘『白米が健康寿命を縮める~最新の医学研究でわかった口内細菌の恐怖~』〜読書リレー(75)〜

 

 

糖質制限について書かれた本は何度も見ましたが、今回の一冊は、「歯」の観点から見た糖質の恐ろしさについてです。一見繋がりがなさそうな「歯」と「糖質」の間には、実は大きな関連が見られるのであり、糖質をうまくコントロールすることは、歯のケアに繋がり、歯のケアが健康を保つ上で重要である、という順序で説明をしています。

 

まず驚いたのは、人間が持っている歯の重要性です。そもそも、人間の中には細菌が入る可能性があり、それが体に悪影響を及ぼすこともあります。実は体の中で、唯一、日常的に、菌が簡単に血液の中に入り込める場所があるというのです。それは、歯と歯茎の間の炎症でできたすき間と、その奥にある血管です。この血管を通して最近が体内に侵入すると、瞬く間に身体中を最近が巡ることになるといいます。最新の研究では、体内に侵入してから90秒以内に、腕の血管まで細菌が到達している、というのです。

 

そして、歯周病や虫歯など、我々が単純に歯の病気と思っているこれらの症状は、実は細菌を生み出す元となっており、これらの症状を放置していると、体内に細菌が入りたい放題になってしまうのです。これらの細菌は体内に侵入すると、悪影響を及ぼし、脳梗塞心筋梗塞、肺炎の原因になるというのです。これを知らされると、歯のケアがいかに重要かがわかってきます。

 

そして、歯のケアを損なう一番の原因が「糖質」だといいます。糖質は細菌にとって一番生存しやすい物質であるため、糖質を摂取した後に歯の周辺に残る糖質を餌に繁殖していくのです。そのため、糖質というのは歯の天敵となるためです。

 

元来、人間は肉食であったとされており、原始的な生活、すなわち炭水化物の摂取が非常に少なく、肉類や野菜類を中心とした生活をしていると、歯の状態は健康に保たれているというのです。この本でも、日本の遺跡から出土された歯の化石を分析した結果を説明しているのですが、稲作が入る前の縄文時代の歯の化石に比べ、農耕生活にシフトした弥生時代の歯の化石は虫歯が多く、ひどく衰えているというのです。

 

また、フィリピン・ルバング島から、太平洋戦争終結後30年近く経って帰国された小野田寛郎少尉という方がいらっしゃいます。長年にわたり、ジャングルの中でターザンと同様の原始的生活を送ってきた小野田さんは、その間、近代的な食生活から遠ざかっていました。しかし、帰国したときの彼の口腔内は、虫歯一本なく、きれいに保たれていたそうです。歯みがき粉や歯ブラシがなくても、原始的な食生活であれば、口腔環境は良好に保たれる、というのです。

 

こうした糖質制限に関する書籍に共通して見られる主張が、現在の「白米を中心とした日本食により、日本は世界に類を見ない長寿国になった」という主流の議論に真っ向から反発しています。この反論をするときに、必ずと行っていいほど食の歴史を引っ張ってくるのですが、その議論もまた面白いです。曰く、農耕文化よりも狩猟文化の方が、様々な食べ物をバランスよく食べられていたので、長生きする人はより長生きできたという事例や、戦後に日本人の健康状態が劇的によくなったのは、食の西洋化とともに多様性がもたらされたから、とか、肉食を禁止されていた江戸時代においては、庶民の平均身長は低く、また寿命も短かったとか、伝統的に寿命が短い市町村と寿命が長い市町村をフィールドワークして比べて見ると、白米の摂取量が圧倒的に異なっていた(その土地の文化的な要因で、米を食べる風習がなかったし鳥葬んの方が、寿命が長かった)、などなど、枚挙にいとまがありません。

 

もしこれが本当で、科学的に実証が進み、結果として「米を主食として大量に摂取しよう」という考えが払拭されたのであれば、人間の健康寿命はさらに伸びる可能性があり、それがさらに人の生き方に影響を及ぼすことになるでしょう。そうなると、まさにリンダ・グラットンが見たような、生涯現役的な社会がありえるのかもしれません。

 

LIFE SHIFT(ライフ・シフト)

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では、では