中国のイノベーション事情〜日本にない2つのアドバンテージ〜

先日、上海に留学している日本人学生と議論する機会があり、仕事で得た経験をベースに中国のイノベーション事情について議論してきました。議論の中で色々面白い点を浮かび上がらせることができたので、このブログにおいてもまとめてみたいと思います。

 

すでに日本でも報じられているところですが、近年の中国のイノベーションの加速は凄まじく、日本を越すような環境が続々とできつつあります。例えば、フィンテックなどが日本でもささやかれていますが、中国ではすでに電子決済が急速に進んでおり、財布を持たない生活が実現しています。

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また、シェアバイクも日本よりも数歩先を歩んでいます。ビジネスこそ日本においてもあるのですが、中国のシェアバイクの発展スピードは目覚ましく、OfoやMobikeといったローカルブランドが台頭、すでに世界各国の都市に進出を行なっております。さらにはEVの分野でも、「日産自動車が航続距離400kmを達成した」と鼻高々に宣伝している一方で、深センではBYDの航続距離400kmのタクシーが街中を走っています。これらの例に見られるように、すでに中国は我々がイメージしているような途上国ではなく、日本を超えたIT先進国に姿を変えつつあるのです。

 

そうした中で、日本でも中国型のイノベーションに関心が高まっている気がします。特に、関心が向けられるのは、中国でできることを日本にもできないのか?といった点や、日本が中国のビジネスでどのようにプレゼンスを高めていけるのか?というような疑問です。学生からもそのような質問を受けたのですが、私が中国ビジネスを行なっていく上で肌身感覚で感じるのは以下のアドバンテージです。これらがあるために、中国はイノベーションを起こしやすく、加えて社会にインパクトを与えやすいということがいえるでしょう。また、これらは日本にはないものであり、すなわち日本でのイノベーションの難しさを結論づけるような状況になっているのです。

 

以下は、私が思うアドバンテージです。

 

①中国は究極の「Try and Error」の場

何と言っても、中国の人口こそがアドバンテージと言えるでしょう。北京や上海、広州や深センといった大都市ならともかく、地方都市においても全くスケールが異なります。日本人が名前も聞いたことがないような中国のローカル都市ですら、東京や大阪、名古屋といった都市を凌駕するような人口を有しています。例えば、中西部の直轄市である重慶市は約800万人、貴州省(おそらくほとんどの日本人がわからないと思いますが)の都市である貴陽は約470万人、安徽省合肥市は約780万人、遼寧省瀋陽も約790万人です。こうした都市が中国にはゴロゴロ存在しているわけです。

この人口のアドバンテージは、以下の2点の優位性を持ちます。一つ目に、「イノベーターの絶対数」が挙げられます。例えば、日本であるビジネスを立ち上げたいと思った人がいたとしましょう。おそらく同時に10人の中国人が同様のビジネスを立ち上げたいと思っているでしょう。日本と中国では10倍の人口の開きがあるので、同じことを考える人も文字通り10倍になるわけです。10倍だからこそ、その分多くの試行錯誤ができます。イノベーションにおいて重要な要素とされている「運」も、挑戦する人の絶対数が多くなれば、必然とTAMでの成功は増えていくわけです。

もう一点が、市場の大きさでしょう。たとえばあるイノベーションが市場に投入されたとして、ジェフリー・ムーア氏のキャズムの考え方に基づけば、少数のアーリー・アダプターがいるわけです。しかし、中国の人口の多さは、このアーリーアダプターも倍々にしてしまいます。すなわち、「これ面白い!買ってみよう!」という人が数倍もいるわけです。

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先ほど述べた「シェアバイク」 を例に説明します。現在となっては、MobikeとOfoの二大ブランドがこの市場を席巻していますが、元々は他のシェアバイクも参入していました。BluegogoやSeagulなどがその例です。しかしながら、彼らは市場戦略に失敗し、シェア拡大に苦戦しています。あるシェアバイクでは、退会者の「デポジット金」(中国では、入会と同時に100~300元程度のデポジット金の支払いを要求されます)を返金できないというニュースが流れるほど、資金繰りに苦戦している会社もあるようです。こうした企業はのちに淘汰され、競争を勝ち残ったMobikeやOfoが市場での確固たる地位を築き上げていく、ということが挙げられます。

 

私が思うに、次にやってくるのは「無人コンビニ」なのではないかなと思っています。日本では、AmazonGOが実験で数店舗開始しただけにすぎませんが、すでに中国ECのJDを中心に、無人コンビニに参入する企業はあとをたたない状況です。おそらくこれらも急速に普及されるものと推測しています。

 

②政府の積極的な放任主義/バックアップのうまい使い分け

もう一点あげたいのが、こうしたイノベーションに対する中国政府の見方です。彼らはこうしたイノベーションを積極的に推奨していますが、賢いなと思うのがその力の入れ具合です。とても「加減が良い」のです。すなわち、市場拡大にあたり資金が必要な分野については、政府が積極的に後押しをする、そうでない場合には競争が妨げられないように積極的に放任する(開放する、という表現の方が正しいのかもしれません)というスタンスを取っているように見受けられます。このため、イノベーションを起こしたい企業は法規制による制約を最小限に抑えることができ、積極的な市場拡大戦略をとることができるのです。

 

例えば、EVや液晶パネルや太陽光など、設備産業と言われるような分野では、中国政府は積極的にバックアップします。設備産業とは、技術がある程度成熟しており、設備投資の分だけ、コスト・研究開発の面で競争優位を築き上げることができるような分野です。特に液晶パネルでは、日系メーカーであるSHARPやJDI、韓国系メーカーであるSAMSUNG、LGなどがひしめく競争過多な市場に対し、国内メーカー(天馬・BOEなど)に莫大な資金投資を行うことによって次々と工場を建設し、競争優位を確固たるものにしようとしています。またEVにおいても、日本で言うところのエコカー補助金などで莫大な投資を行い、中国が技術移転に苦戦したガソリン車から、中国が優位性を持ちやすいEV車へのシフトを積極的に促しています。

 

逆に、新規産業などには、ある意味放任主義のスタンスを持ち、法規制でがんじがらめにすることもありません。特にドローンはその意味では市場の開放性も功を奏し、深センを中心に急速に拡大を進めています。

 

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以上2つのアドバンテージをあげてきましたが、いずれも日本ではなかなか育ちにくい分野かもしれません。人口においては、すでに人口減がささやかれている状況ですので、真逆のことが起きているわけです。むしろ、この現象はイノベーションにとってマイナスになりうるのです。また政府のスタンスも、どうも産業の実態と噛み合っていません。こうした状況から中国型のイノベーションは起き得ないのです。

 

しかし、だからと言って悲観する必要なないと思います。中国の真似をする必要は全くないわけです。中国は自らが持つリソースをアドバンテージに変えて、こうしたイノベーションを生み出しているわけですから、日本も同じように、自分自身の強みを武器に、イノベーションを生み出すようなことをすれば良いわけです。このためには、過去のイメージ・しがらみにとらわれない客観的かつ冷静的な現状分析と、将来のビジョンを描くしっかりとしたストーリーが必要になります。これを今やらなければならないのではないかなと思うわけです。

 

中国は、荒削りではありますが、どの国よりも国家レベルで明確なビジョンを持っています。新常態(ニューノーマル)と、中国製造2025です。特に後者については具体的なあるべき姿を明記しており、非常にしっくりくるわけです。このストーリーとして「しっくりくる」と言うのは戦略論的にも重要な考え方な訳で、このストーリーに人は酔いしれ、行動を起こすのです。

 

日本でも、様々に現状を憂う声が出ていますが、かといって、将来のビジョンを作り上げるまでにはまだ至っていません。イノベーション云々の前に、そうした議論が今求められているのではないのかな、とつくづく考えてしまう今日この頃です。 

 

では、では