小野雅裕『宇宙を目指して海を渡る MITで得た学び、NASA転職を決めた理由』〜読書リレー(106)〜

「グローバル人材」とは何か考えさせてくれる本です。

 

MITで大学院生活を過ごした著者による、アメリカ大学院での生活や仕組みについて自身の経験をまとめた本です。日本で学部生として卒業したのちにアメリカで就職するまでの、大学院で起きたことやMIT独自の文化(MITハックなど)を紹介するとともに、日本にとらわれないキャリア観について訴えている本です。

 

一見すると他の書籍にもみられるような留学体験記と大差ないような内容なのですが、しっかりと大学院の仕組みについて説明が加えられており、いかにアメリカが世界中から優秀な人材を集めることができたのか、この本から垣間見れる気がします。アメリカの大学院は学費が概して高いのですが、奨学金やスポンサーなどが充実しており、大学院性はほとんど学費を自費負担で払わずにすみます。

 

しかしこうした奨学金やスポンサーにも競争がつきものです。ここがポイントで、大学院性は奨学金を得るために、それこそ死に物狂いで論文の執筆や研究に努めます。こうしたサイクルがアメリカの大学院の制度を作り出しているといえます。

 

こうした制度は日本にはほとんどと言っていいほどなく、あったとしても博士課程以降から存在する日本学術振興会の特別研究員制度くらいでしょう。しかし修士以降はこうした制度はなく、またこの学振もポスドクは日本人の学生が対象になるので、競争を醸成させるという点においては十分と言えるのか疑問が残ります。

 

また、この本で特に取り上げられていたのが、「グローバル人材」というものです。著者は日本で叫ばれているグローバル人材というものに非常に懐疑的な視点を持っています。英語ができたからと言って、また留学したからと言って、彼ら彼女らがグローバル人材と言えるのか、実際に留学して周囲を見てきた経験から疑問を投げかけています。

 

「語学留学生や大企業からの社費留学生の中には、目標を高く持ち頑張っていた方も数多くいた一方で、どんな成績を取ろうと帰国後の身分が安泰であるのをいいことに、留学を夏休みと勘違いしている人もいる。」

 

「彼らは最低限の努力で必要な単位のみ集め、週末ごとに日本人とばかりつるみ、暇さえあれば旅行やゴルフに明け暮れていた。彼らが「グローバルな経験」をしたとは、僕には思えない。」

 

もちろん、自身で奨学金獲得を進めてきた著者からすると、こうした周囲の留学生が妬ましく見えたのかもしれません。しかし、グローバル人材・グローバルな経験というのには甚だ遠い実態というのが見えてきます。

 

このくだりを読んだ時、私の台湾留学・そして中国駐在において同じようなシチュエーションを何度も経験し、「結局アジアにとどまらず、どの地域も一緒なんだな」と感じてしまいました。台湾はまだ台湾人が友好的で、日本人に振り向いてくれる機会が多いために、現地に溶け込む機会も多く取ることができたのですが、中国となるとさほど関心がないことから、どうしても日本人は日本人同士で集まる傾向があるようです。日本人同士でつるみ、日本語のできる店員のいる日本食レストランに集まり、中国ローカルスタッフに対する愚痴を日本語でいいあう日本人駐在員を度々目にします。こうした状況を目の当たりにし、果たして海外と言えるのか疑問に思ったことは一度ではありません。

 

この著者が言うように、日本で言われているところの「グローバル人材」について、改めて考える必要がありそうです。

 

では、では