菊澤研宗『「命令違反」が組織を伸ばす』〜読書リレー(124)〜
今盛り上がっているスポーツの話と関連する、組織に関する話です。
タイトルがそのまま本書の主張となっているのですが、そのタイトルからは想像できない内容の本です。この本を簡単にまとめれば、「行動経済学の観点を用いて、第二次世界大戦の日本軍の行動を事例として、健全な組織運営のためには良い「命令違反」をビルトインしなければならない」というものです。このため、本書の内容のほとんどは第二次世界大戦における日本軍の行動とその分析に割いていて、かの「失敗の本質」を彷彿とさせるような、そんな内容になっています。
- 作者: 戸部良一,寺本義也,鎌田伸一,杉之尾孝生,村井友秀,野中郁次郎
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1991/08/01
- メディア: 文庫
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ただし、失敗の本質と異なるのが、これらの日本軍の行動を行動経済学の概念装置を用いて分析しているという点でしょう。失敗の本質が出版された当時は行動経済学はまだ経済学の主流ではなかったため、本書はある意味では最新の調理器具を使って日本軍という素材を用いて料理した、と例えることができるのかもしれません。
まず著者は、行動経済学がその主軸とする「限定合理性」の観点から、組織の歪みを指摘します。曰く、組織にはよく事件や不祥事が発生しますが、これらも、「実はこの限定合理的な人間が不完全な情報の中で不正であることを十分知りつつ、組織や企業のためと思い行動した結果起きたものが意外に多い」というのです。
日本軍の行動を、行動経済学の研究(プロスペクト理論や取引コストなど)を用いて分析するのは、いささか強引な感じが否めない印象はぬぐえませんでしたが、簡単に言えば、日本軍のとった行動をつぶさに見ていくと、組織の論理に抗えなかった個人の、限定合理的な意思決定という点にスポットライトを当てざるを得ません。
こうした中で著者は、第二次世界大戦において、組織の論理が絶対的な威力を持っていた日本軍において、「命令違反」を行うことで組織を成功に結びつけていったというケースを紹介し、組織の論理、すなわち限定合理性の罠から脱却して一般合理的な考え方に結びつけようとする命令違反こそが、組織を正常に戻す在り方なのだと主張しています。ここで紹介されている「良い命令違反」が、果たして本当に良い命令違反だったのか、という議論については目をつぶるとして、そうした組織の中に組織を壊す因子をビルトインするという考え方は非常に興味深いものがあります。
この本を読んでいて、ちょうど日本のスポーツ界を揺るがす「悪質タックル」問題なるものが浮上してきていました。私は全くの門外漢ですので真偽のほどは全くわからないのですが、もしもあれが組織の問題であるのだとすれば、限定合理性の中から抜け出せなかった選手の論理は認められないこそすれども同情してしまうところがあります。今回のようなことがおこらないためにも、本書の主張に沿って、組織の中に組織を壊すような仕掛け、いってみれば遊びを設けるというのは、考えてみるべき施策なのかもしれません。
では、では