福田直子『デジタル・ポピュリズム 操作される世論と民主主義』〜読書リレー(144)〜

 デジタルの進化がポピュリズムに与える影響について考えた、また違った視点の一冊です。

 

以前このブログでも、過去何回かに渡って、ポピュリズムにフォーカスをして読書を進めてきました。例えば、吉田徹氏は『ポピュリズムを考える』の中で、ポピュリズムは民主主義にビルトインされたものであり、メリットデメリットを把握したうえで、課題をクリアすれば、一見開くと捉えられがちなポピュリズムによって民主主義を救うことができると主張します。

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また、庄司克宏氏は『欧州ポピュリズム』の中で、とりわけEUの政治体制が、ポピュリズムを生み出しやすいと指摘。欧州はこれからも、このEUを崩しかねない力を持つポピュリズムに対応していかなければならないとしています。

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このように、様々な評価がされているポピュリズムですが、この本ではポピュリズムそのものというよりかは、ポピュリズムを生み出すもの、すなわち世論について取り上げ、それがデジタル革命によって操作されやすい状況になっていることを主張しています。つまり、上述した二つの政治体制的な要因だけでなく、テクノロジーによる社会の変化が、ポピュリズムをさらに促すことになったというのです。

 

 

それは、ソーシャルメディアの発達と時期を一緒にしていることも見逃せません。この本でも取り上げられていますが、ソーシャルメディアによって現在一日に発信されるデータは、2002年の1年に発信されたデータの量に相当すると言います。いってみれば数年前の365倍のデータが、インターネット上で飛び交っているということになります。

 

この圧倒的なデータ量の増加をベースに出てきた考え方がビッグデータ分析です。過去のデータから消費者の購買行動を分析し、広告やマーケティングに活用していくという試みで、すでにビジネスでも採用がされていると言われています。

 

そして、これが政治に活用されるとどうなるのか。ビジネスにおいてがマーケティングが「消費者の行動を分析し、いかに購買意欲を高めてもらうのか」という点に行き着いたのと同様に、「選挙者の行動を分析し、いかに得票率を高めるか」という風になるわけです。いわゆる世論操作になります。

 

この結果が2016年のアメリカ大統領選だったと著者は主張します。トランプ陣営が行ったことは、まず、ビッグデータにある会社が開発した有権者の「心理分析」を加えることで有権者をそれぞれのグループに分けます。次に、小グループごとに向けて開発した「個別広告」を、特定の地域でテレビ、電子メールやソーシャルメディアを通じて投入します。これによって、従来よりも効率的かつ効果的に、有権者の支持を得やすくなることができます。これを本書では、マイクロターゲット広告と表現しています。

 

このマイクロターゲット広告では、真偽含めた様々な情報が飛び交います。今でもソーシャルメディアでは、「フェイクニュース」というものがでてきていますが、そうした意図的なソーシャルメディア上の情報操作が公然と行われるのです。

 

個人的に衝撃的だったのが、クリック農場という言葉です。これは、発展途上国の「労働者」が、特定の記事やポストに対して、「いいね!」ボタンを大量におしたり、ツイッターのフォロワーを大量に増やしたりする作業を行う場所のことを表しており、クリック1000個分というような形で売買がなされているというのです。バングラデシュの首都ダッカは、この「偽『いいね!』ボタン」の受注で繁盛し、全体の30%から40%の偽「いいね!」ボタンを生産しているといいます。これが意図的に行われると、ソーシャルメディアの情報は操作され、特定の集団にとって有利に進めることができることになります。

 

こうした手段が可能になってしまうと、もう何が民意なのかわからなくなってきます。投票による選出が従来のやり方ですが、そもそもそこで投票されたものが操作されているわけです。また著者も、投票という行為自体、エモーショナルな行動であるという指摘し、民意が反映されているのか疑問だと言います。

 

ただし、じゃあどのように民意を選ぶべきなのかの代替案については本書でも述べられていませんし、とても難しい問いだと思います。となると、しばらくは我々は、この人為的なポピュリズムとつきあっていかなければならないのかと考えてしまいました。

 

では、では