江崎道朗『コミンテルンの謀略と日本の敗戦』〜読書リレー(149)〜

 

コミンテルンの謀略と日本の敗戦 (PHP新書)

コミンテルンの謀略と日本の敗戦 (PHP新書)

 

 コミンテルンの観点から日本の近現代史を改めてとらえ直した一冊。あまり語られていない歴史の一幕ではありますが、評論家である著者が当時のコミンテルン出身者へのヒアリングや綿密な資料調査を通じて、コミンテルンの日本における影響を浮き彫りにしています。

 

コミンテルンとは、ソ連が作り上げた共産主義者ネットワークともいえるべきもので、正式には共産主義インターナショナル〈Communist International〉といいます。このネットワークを世界の共産主義者ネットワークを構築し、世界での「共産」革命をめざして、各国に対する工作を仕掛けていったというのです。

 

この動きは日本においても例外ではなく、様々なグループが、世界の共産主義者ネットワークの一役を担い、活動を続けていったといいます。著者によれば、帝国主義や資本主義経済・民主主義を破壊すべく、戦争にと仕向けていったのも、実は共産主義によるものであるとし、戦後によって作り上げられた「戦前の右翼や保守主義を中心とした暴走を、左翼や一般の民衆は止められなかった」という歴史観に疑問を投げかけています。

 

では、なぜ日本においてもこうしたコミンテルンの活動の余地を与えてしまったのでしょうか?著者曰く、こうしたコミンテルンの活動が始まる以前から、日本において社会主義の考えが育つ土壌ができていたといいます。ここで、著者が理由として上げているのが「明治から大正にかけての日本社会の混乱」にあると述べています。よくよく考えれば、江戸時代の終焉とともに明治時代に突入し、文明開化によって近代化を進めることとなったという、歴史の教科書にもよくありふれたような一節の中にも、大きな混乱があったわけです。例えば当時の歴史観においても、今でこそ日本人は江戸時代を比較的フラットに評価していますが、明治時代の当時においては、江戸時代のものは時代遅れのものとして、積極的に西洋からの文明を取り入れようとします。しかしこれは、幼少の頃から江戸時代の教育を受けて育ってきたエリート層からすると、自分自身のルーツやアイデンティティの否定になりますので、新しい知識の取り入れに対してはかなり強い反発があったのは想像に難くないでしょう。

 

また、明治時代から資本主義社会が徐々に導入されて行く中で、社会的な経済格差や貧困が顕在化してきます。そうした中で、現状の体制に疑念を持ってもおかしくはないのです。そうした現状を目の当たりにし、貧困救済などもテーゼのひとつとする社会主義に多くのエリートが支持を寄せたのも、ある意味では当然の流れなのかもしれません。

 

あまり語られてこない歴史の一部分を描いた本書ですが、もう少し、過去の時代の評価を政党に行うべきなんじゃないかなと思った一冊です。

 

では、では