岡本隆司『世界史序説 ──アジア史から一望する』〜読書リレー(157)〜

 

 

中国経済史を専攻する岡本隆司氏による、世界史の視点を抜本的に変えようとする取り組みの書。著者が長年疑念を抱いて来た世界史の大元に存在する考え方を捉え直し、別の捉え方で持って世界史を書いていこうとする試みは、非常に面白いです。

 

では、著者が長年疑念を抱いて来た世界史の大元に存在する考え方とは何か?それは、簡単に言えば西洋中心史観だと言います。曰く、世界史はキリスト教普遍史に由来し、西洋を中心としたものこそが世界史だとする考え方。ヘーゲルは発展したヨーロッパキリスト教の歴史に対比し、異教のアジア・中国・インドにはによる「歴史が存在しない」とされているし、マルクスは、階級闘争の外にある存在としてアジアを捉えていた。

 

こうした史観は、エマニュエル・ウォーラーステインに端を発し、脱却を試みた人たちが多くいたが、著者曰く未だ脱却できていないと言います。なぜなら、近代や資本主義、ナショナリズムといった概念が、西洋のそれとは異なるにも関わらず、日本を含むアジアにおいては未だに独自の視点ができず、西洋の考え方を中心とした概念装置で持って解釈を行ってしまう。国の考え方が根本的に異なるわけです。そうしたところで、ではアジアとヨーロッパでどのような違いがあったのか、どのような発展がなされて来たのか、という点を紐解くことで、アジアとヨーロッパの相違点を浮き彫りにしていこうというのが、この本の試みです。

 

 

詳細な議論は非常に長くなるためにこのブログでは紹介できませんが、この本のコンセプトそのものが、現代の我々の考察に対する重要な示唆を与えてくれていると思います。今私たちが概念として利用しているものというのは、本当に前提条件のところから、私たちが持つものと合致しているのか、相性はいいのか、という点です。大学時代にナショナリズムというものをかじっていたこともあるのですが、どうもナショナリズムという考え方は、日本のそれとは馴染みのない、言い換えれば相性の悪いものに思えてしまいます。そうしたところの「再発見」に、学問的課題が依然残されているんじゃないかな、そう思ったのがこの本でした。

 

では、では