9月13日 〜文化による交渉スタイルの違い〜

パリから戻って来て学生モードです。今日も午前午後ともにしっかりと授業が入っています。午前中はUncertainty Data and Judgementの授業。ベルヌーイ試行で試行の数が大きい場合、正規分布に近づくというラプラスの定理を勉強。どんどん内容が難しくなって来ますが個人的にはやったことある内容なので復習している気分です。ただし、あくまで独学で勉強しただけであり、実際の仕事で使うことはなかったので、このような形で知識の定着ができると思うとよかったのかなと思っています。

 

この授業の教鞭をとる教授、P1の中では一番時間に厳しく、たとえ1分くらいの遅刻でも許さず、学生が遅れて教室に入ろうとすると「授業が始まっています、入らないでください」と厳密に言う人です。と言うことで非常に緊張感のある雰囲気になっています。とは言うものの、INSEAD全ての期間でこのように時間に厳しいのかと言うとそうでもなく、ビザ関係の窓口は、対応時間に人がいなかったり、とすると時間外に対応してくれたりと、それぞればらつきがあり、なんとも順応に困ってしまいます。なんとかならないものなのかと思いながらも、まあこれがDiversityのINSEADでしょ!と言う感じで楽しんでいたりもします。笑

 

午後はCampus Exchangeのガイダンスがありました。INSEADはここフランスのフォンテーヌブローのほか、アブダビシンガポールにキャンパスを有し、P3以降は異なるキャンパスでの単位の履修(内部ではCampus Exchangeと呼んでいます)が可能です(アブダビはP3のみ)。他のビジネススクールは交換留学という形で、別のビジネススクールへの単位互換制度がありますが、INSEADはその交換留学制度(Whaton、Kellogg、CEIBS)のみならず、INSEAD内でのCampus Exchangeがあり、とてもFlexibleと言えます。Campus ExchangeはINSEADの一つの魅力といってもいいかもしれません。

 

このCampus Exchangeにおいて何よりも重要とされるのは、「その場所で就職したいか」というものです。Campus Exchangeの対象となるのが、P3以降(1月〜)であり、ちょうど就職活動と重複します。特にINSEADでは、P4をRecruiting Periodと位置づけており、選考はもちろんのこと、キャンパス内での面接などもこの時期に行われます。そしてキャンパスにやってくる会社は、それぞれの地域のキャンパスに行きます。例えばヨーロッパ採用はフランスキャンパスへ、アジア採用担当はシンガポールキャンパスへというような棲み分けです。これは言い換えれば、卒業後はアジアで働きたいという人がいたとして、P4をフランスで過ごしてしまうと、就職活動の機会を失ってしまうのです。このため、Campus Exchangeはかなり重要になって来ます。

 

私は卒業後はアジアでの就職を考えているので、P4からシンガポールキャンパスに移動することを検討していますが、他の学生に聞いてみるとひとそれぞれで、フランスフォンテーヌブローにずっといるというヨーロッパ大好き人間や、アブダビシンガポールを全て制覇したいという冒険家まで、ありとあらゆる人がいます。ここはまさに多様性のINSEADならではなのでしょう。

 

ただ、こうしたセッションに参加していると、どうしても目移りしてしまうというか、自分の意志を揺るがされてしまいます。「P4はシンガポール」というのはそれこそ入学前から計画していたことであり、アジアでキャリアを積み上げていくことを前提にした上で、①コンフォートゾーンを出る②アジアを客観的にみる、という二つの目的意識を持ってフランスフォンテーヌブローキャンパスをプログラムスタートの場所として選んだ背景があります。しかし、やれアブダビだ、フォンティー一筋だ、アメリカに行きたいぞ、と聞いていると、本当に自分の選択(未来の選択も含めて)が正しいのかわからなくなってくることがあります。実は「アジアでキャリアを積み上げる」というのは自分にとってはやりたいこと(Will)ではなく、できること(Can)から来ているのではないか?本当はヨーロッパでも働きたいけど単に諦めているだけなんじゃないのか?というような考えが巡って来ます。まだ時間はあるので、もう少し考えてみたいと思いますが、自分の意志を貫くことの難しさを感じる今日この頃です。

 

そうしたセッションを終え、午後のOrganisational Behaviourの授業へ。今日は交渉ということで、ロールプレイングを行いました。ロールプレイングの内容自体は簡単なもので、交渉でよく使われるBATNAだったりZOPAを勉強し、それを実践するという形でした。これらも、『武器としての交渉思考』で読んで知っていた内容なので、「これが元ネタか」という感じで授業を聞いていました。

武器としての交渉思考 (星海社新書)

武器としての交渉思考 (星海社新書)

 

 

しかし個人的にかなりショックを受けたのが、その実際の交渉の場です。交渉のスターターを担った私は、日本や中国で培って来た実際の交渉の場での知見を生かしながら、ソフトスタート(お互いに共通の利益があることを主張)→柔らかい口調の中にもしっかりと各交渉のポイントで強めのアンカーを設定する という形で進めようとしました。しかしそれのやり方に回りくどさを感じたのか、そのロールプレイングの場にいたイタリア人、スイス人、スペイン人、トルコ系オーストリア人の4人が私のペースを遮断、「何が要求?」「それは断る、対応できない」という、それこそローコンテキストの直球勝負を始めたのです。そのやりとりを驚きと落胆でもって聞いていました。

 

なぜ驚いたのか。それはこのスタイルだと、自分が知っている交渉の場では必ず破綻することが見えていたからです。中国も日本も、こんな直球のやりとりを好みません。場合によっては、相手方が席を立ち、「もうあなた方とは話をしない」という態度を取られかねないようなことを、平気で言っているわけです。

 

なぜ落胆したのか、それはこのスタイルの中でも、文化的なコンテキストとは別に、交渉としてやってはいけないことを、彼らが連発していたからです。例えばBATNAの話。交渉の基本としては、まず自分の要求を、相手に極端と思われない程度に強めに設定し、そこから徐々に相手との妥結点を見つけていくというやり方を行います。しかしそんなことは御構い無しに、「これが私たちの要求。」という形で、言ってみれば真の要求をさらけ出してしまいます。これは交渉じゃないな、と思ってしまったわけです。

 

この違和感がどうにも解けず、授業が終わった後に色々な学生に感想を聞いてみたところ、概してアジアの学生は同様に「とても違和感を感じた」とフィードバックをくれました。もちろん、ロールプレイングを行なった学生の交渉スキルの習熟度に応じて状況は異なりますが、それでもアジアの学生が違和感を感じたということは、どうにもこのロールプレイングで行われた「交渉」というのは、実際のビジネスの世界における交渉とは少し距離があったように思われます。おそらくここでも「コンテキスト」の使い分けの仕方の違いが、違和感を生んだんじゃないかなと思ってしまいます。

 

ここで考えてしまうのが、グローバルな場でのコミュニケーションです。アジアは基本的にハイコンテキストな文化として捉えられており、他の文化圏からは特異の目でみられる傾向があります。これはエリン・メイヤーの「異文化理解力」の文調にもみられるように、ある種ハイコンテキストな文化を「自分たちとは異なる」「エキゾチック」なものとして捉えているようにも見えます。ただそれは逆に言えば、ハイコンテキストな文化を「自分とは異なるもの」として解釈し、理解や同意とは程遠い場所に自身を置く、ダイアローグとはとてもかけ離れた状況を生み出しているのかもしれません。

異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養

異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養

 

 

そうした姿勢がこうした些細なロールプレイングにもみて取れます。私が今回感じたのは、あえて極端な言い方をすれば、彼らによる「ハイコンテキストな人々に対するローコンテキスト的コミュニケーションの強要」という姿勢でした。「私はローコンテキストなコミュニケーションを好む。あなたがハイコンテキストなのは知っているが理解していない。だからローコンテキストなコミュニケーションを行なって欲しい」というロジックです。そしてこのローコンテキストなコミュニケーションでは、外向的で多く発言する人の方が強い。必然的に、発言の少ないハイコンテキストな人々は力を失う。

 

ここでもう一つの疑問が湧いて来ます。果たして「ローコンテキストなコミュニケーション」は、「グローバルな環境におけるコミュニケーション」と同義なのでしょうか?私は必ずしもそうは思いません。これを支持する理由はいくらでも見つかります。人口・経済規模などなど、国を超えたレイヤーにおいてもハイコンテキストなコミュニケーションを行う場などいくらでも存在します。

 

これ以上続けると、論理的考察という名の私的な誹謗中傷になりかねないのでここで止めておきますが笑 なんか前回読書リレーで紹介した『世界史序説』における議論と似たようなものを感じる気がします。

dajili.hatenablog.com

 

ということで、本当に正しいコミュニケーションのあり方とはなんだろうか、グローバルとはなんだろうか、と言った途方もない問いを改めて考えさせてくれたロールプレイングでした。交渉のスキル云々はさておき、この違和感とは引き続き戦っていきたいと思います。

 

とは言ってもまだ1日は終わらず。夜はフォンテーヌブロー中心のバーでパーティーが行われ、ちゃっかり参加して来ました。「Study hard, play hard」の名の通り、みんななんでも真面目です。ただみんな同じような生活をし、同じような経験をして来ているので、だいぶ話のネタがなくなりつつあるのが最近の悩みの種です笑

 

では、では