だじりブログ

日々の読書から広がる考察

「MBA不要論」について考えてみた②

前回の「MBA不要論」について考えてみた①からほぼ一年近くが経ちました。現在絶賛プログラム進行中ですが、もう一度この問いについて考えてみたいと思います。

dajili.hatenablog.com

 

なぜこのタイミングなのか。というのも、以下記事を見つけたからです。

www.fastgrow.jp

 

三谷宏治氏といえば、BCGやアクセンチュアなどのコンサルティング分野で経験を積んだのち、日本の経営大学院等で教鞭をとる方であり、「ビジネスモデル全史」などの有名なビジネス書の著者でもあります。INSEAD卒業生ということもあり、勝手に親近感を抱いているのですが笑、結構この方の本を読んで「きちんと経営を勉強したい」と志したところもあります。

 

その三谷宏治氏のインタビュー記事が上記のリンクなのですが、コメントが非常に示唆的でとても興味深いです。三谷宏治氏の指摘に従えば、「日本企業で普通に働く場合には」「学位として必要かといったら」「ほとんど必要ない」だそう。そして、「MBA取得には明確な目的意識が必要」と述べています。

 

なぜそう言い切れるのかというと、これも三谷氏が指摘しているのですが、MBAはものすごく広く浅い学問であり、マーケティング、人事、生産、財務といった異なる分野を1年や2年でさらっと学ぶものです。このため、MBAでは経営全体を俯瞰するという視点を得ることはできても、上記のいずれかの分野の専門性を極めて行く、というようなことにはなり得ません。現代では人材の流動性が高まり、それぞれの分野でキャリアを積み、専門性を磨き上げてきた人が人材として評価されつつある中、そんな広く浅く上澄みの部分を見るだけで果たして足りるのか?という批判があっても然るべきかと思います。

 

そしてもう一つが「MBAには明確な目的意識が必要」という点。三谷氏は「日本人の多くは、『このままでは将来つぶしが効かない』という漠然とした不安感でMBAに行く」と指摘、海外の留学生と比べ目的意識が低いと嘆きます。確かに、巷のビジネス書コーナーでも「知らないと恥をかく」「ビジネスパーソンとして知ってておきたい」といったような本が並び、不安解消型マーケティングに基づくビジネススキル習得の促進がなされています。MBAもなんとなくその延長線上に置かれ、「MBAとっておかないとまずい」というような形で考える人もいなくはなさそうです。

 

ただこの視点、私はこの意味を全く逆に捉えました。三谷氏の指摘のネガティブな点を強調してようやくすれば、「MBAは広く浅くの学問であり、目的意識がなく修得するのであれば、日本企業で普通に働く分にはほとんど必要ない」ということになります。ただこれは逆に言えば、「目的意識をもって、経営全体を俯瞰するためにMBAに行くのであれば、日本企業で普通でない働き方になる」というものです。

 

「経営全体の俯瞰」という意味では、まさにP1P2で感じてきたことです。コア科目ではありましたが、二つの意味で大きな学びがあったかなと振り返ります。一つ目に、三谷氏の指摘する「鳥瞰」の観点。私は以前海外営業、かっこよく言えばマーケティングの仕事に付いていたわけなのですが、マーケ、戦略、ビジネスエコノミクス、組織行動などを広く浅くやっていると、自分の今までの視点が経営の中でも末節の側に位置していたなと痛感します。担当者目線では、ある市場のある製品における、一つの視点のみでしか物事を捉えきれませんから、どうしても見えるものが限られてしまいます。ただ今のように全体をバランスよくみていると、今まで自分が実務の中で抱いてきた疑問、特に全体方針と自分がやっていることのギャップや、組織に対する不満が思い出され、「ああ、あの時はこういうことだったのか」と振り返ることがしばしばありました。そうした過去との対話を元に、徐々に経営における「鳥の目(=全体を俯瞰する視点)」と「虫の目(それぞれの分野に着目する視点)」とが明確に区別されるようになってきた、そんな気がしてきています。

 

そしてもう一つ目は、異なる分野の有機的なつながりです。財務やマーケティング、組織など、一見すると関係ない分野に見えてくるこれらが、あるところで繋がるところがあります。例えば、管理会計で出てきた問題点というのが、実は組織行動論でも問題になってくるとか、マーケティングの考え方をどんどん発展させて行くと、ビジネスエコノミクスで学んだ理論に近づいてくる、などが挙げられます。INSEADのコア科目はそういう意味ではとてもうまく作られていて、そうした異なる分野での「有機的な連鎖」をうまく起こすように設計されているような気がします。それはINSEADの教授陣が、学生が受講する異なる科目の授業において、どのようなケースが扱われどのような議論がなされているのかに付いてきちんと情報を共有していて、例えばマーケティングの教授が、「君たちはファイナンスでこの視点についてこのケースを元に勉強したけど、マーケティングの観点で行くとこれは〜」というようなシーンが多く見受けられるわけです。この中で、否が応でもこうした異なる科目のつながりを意識することができます。

 

この、経営全体の俯瞰というのはとても勉強になりますが、だからと言ってそれがすぐに活用できるわけではありません。なぜなら、こうした視点を持つ人材が一番活きる場所というのは、大きな組織において、組織の方向性を決めるような重大なポジションだと容易に想像できますが、MBAを卒業した20代後半から30代前半のビジネスパーソンが、そんな全体を俯瞰するようなポジションで仕事につけるわけがないからです笑 これは当たり前と言えば当たり前のことなのですが、学生の中には結構ここを忘れてしまうために、外部からは「目的意識がない」と思われてしまうようです。

 

そこで大事なのが割り切りかなと思います。今習得している知識というのはすぐには活用できないものであることを理解したうえで、この経験を自分の仕事人生のどこでどのように活用するのか、しっかりとイメージを持って取り組む、これが三谷氏の言う所の「目的意識」なんじゃないかなと。そうした考え方に違和感を持つ、すなわち喫緊のビジネススキル向上のための劇薬が欲しいということであれば、それはそれでMBAは不要ですし、メタな認知に浸かりたい、ということであればMBAはとても良い環境なんじゃないかと。

 

まあ詰まる所、MBA不要論に対する議論というのは、楠木建氏がいうところの「好きなようにしてください」という言葉に終始するんでしょうね笑

 

では、では