安い国日本は別に停滞していない

日本の皆さん、物価が安いとか経済が悪いとか騒ぎすぎじゃない?そんな悲観的にならなくてもいいんだけど。

 

 

 

日本の停滞を嘆くニュース

と思うようになった今日この頃。今日もそんな気持ちにさせるニュースがまた一つ。日本経済新聞が「価格が映す日本の停滞」というもの。ダイソーやディズニーランドの入場料が、他の国と比べて安いということをベースに、「日本の経済が停滞している」という議論に持っていっている。

 

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53046270W9A201C1SHA000/

(有料記事になるので、非会員の場合は無料閲覧数が減ります)

 

この記事の論旨をまとめると以下のようになる。

①調査の結果、以下製品やサービスの価格が、他の国と比べて日本の方が安いことがわかった。

ダイソー:中国などアジア各国と比べて50%ほど

・ディズニーランド:アメリカと比べて半値近く

アマゾンプライムアメリカと比べて半値以下

・ホテル:ロンドンの一泊二日は東京の一泊二日の二倍以上

②他の国と比べて日本の価格が安い理由として、為替レートは一部だが、全てを説明しきれない

③実質賃金の上昇が、世界のトレンドに比べ低いので、日本の賃金停滞が物価を引き下げていることが理由として挙げられる

 

これらの議論をベースに、この記事が伝えたかったのは「日本は停滞しているのではないか?」というものだ。

 

ただ、ロジカルに考えると、この議論「?」となってしまう。以下にその理由を説明したい。

 

「①調査の結果、以下製品やサービスの価格が、他の国と比べて日本の方が安いことがわかった」の落とし穴

 まず①から見ていこう。記事では製品やサービスが日本で安いことがわかった、というものである。ただこれ、論理的には何も言っていないに等しい議論である。

 

理由は次の二点である。

(1)「価格が安いことがわかった」というのは、数多くある製品・サービスの一部分でしかない

今回の記事では、様々な製品・サービスの比較が紹介されているが、それでもこの世の中には様々な製品がある。それら全てを比較しなければ、「日本の方が物価が安い」ということにはならない。

 

事実、同一の製品で日本の方が高いものはいくらでも存在する。一番わかりやすいものでiphone11 pro。製品としては全く同じものであるが、SIMフリー版で一番安価な64GBモデルの場合、日本だと117,480円(税込)で、アメリカでは999ドル、本日の為替レートである108.59をかけると108,481円で日本の方が高いということになる。はい、これで反証完了。価格が高いものがありました。

 

(2)比較している製品・サービスは本当に同じものか?

今回比較しているものは、ダイソーやディズニーランドといった製品・サービスが含まれる。一見すると、同一のもので比較できるのではないか?と思いがちだが、これが違う。

 

というのも、ダイソーをイメージしてもらいたい。この記事では日本よりもアジアで売られている方が高いとし、日本の物価の安さを憂いているが、果たして安いことが間違っているのか?

 

一つ挙げられることとして、単純に製品にかかるコストが違うことが挙げられよう。すなわち、ダイソーは製品を日本から輸出しているかもしれない。そうしていると、必然的に関税や輸送費などの追加のコストがかかってしまう。また、製品のラベルなどを現地の言葉に変える必要が出てきてしまう。そうした費用が重なってくるので、たとえ製品が同じといえどもかかってくる費用が違うのである。

 

またダイソーの市場におけるポジショニングが関係しているかもしれない。日本においてダイソーは、100円であることに価値が置かれている。100円という他者を寄せ付けない価格戦略をキープしているからこそ、顧客の心をがっちり掴んでいると思う。これが仮に200-300円の製品ばかりになってしまったら、大元のイメージを損なうことになるわけで、顧客離れが起きてしまうかもしれない。

 

しかし同様の認識は、国が変われば異なってくる。海外に出ると、ダイソーは否が応でも日本ブランドとして認知される。そうなると、日本が持つ「品質の良い」ブランドが生きることになる。そうすると、必然的に市場におけるポジションは変わり、もう少し高めの価格設定にしたとしても顧客は寄ってくる。そこにマクロ経済的な、購買力はあまり関係してこないのである。

 

つまり、単純に製品の安い高いだけで、その国の購買力が見れるとは限らないというのがここのポイントだ。

 

「②他の国と比べて日本の価格が安い理由として、為替レートは一部だが、全てを説明しきれない」って本当?

為替レートが原因の一つというのは、確実にいえそうだ。というのも、実際に日本の為替レートはかなり安く設定されている。それは、この記事でも挙げられているビックマック指数を見てもわかる。*1

 

ちなみに余談にはなるが、この為替レートの低さが日本の輸出を増やし、国際市場における競争力を強め、結果的に日本の経済の底支えをしているということにもなる*2。さらには、為替レートが安い分、観光などのインバウンド需要が増えることになる。もちろん為替レートはインバウンド需要増加の理由の一つに過ぎないが、近年の訪日外国人の劇的な増加に影響を及ぼしていることは否定できない*3。となると、為替レートが原因の一つによって引き起こされる物価の安い現象は、別に悪いことでもないように思える。

 

「③実質賃金の上昇が、世界のトレンドに比べ低いので、日本の賃金停滞が物価を引き下げていることが理由として挙げられる」は言い過ぎ

最後に3つめの論点。これは流石に拡大解釈をしすぎている。

 

まず、日本の賃金は上昇している。事実、リーマンショックの2009年以降日本の平均賃金は確実に上むきに増加している。2018年は440.7万円であり、6年連続で上昇しているのだ*4。すなわち、日本の賃金は停滞していない。

 

また、記事の中では大企業のベースアップが渋いことを理由に、賃金がなかなか伸び悩んでいるという箇所があったが、これも大企業だけにフォーカスを当てて日本全てを見ていない。

 

まとめ

以上見てきた通り、物価が安いからといって日本が停滞しているとは必ずしも言い切れない。このように端的に結論に持っていくのも怖いのだが、何よりも怖いのは、色々な情報を見ても、最終的に「日本は停滞している」というネガティブな感情に持って行かれてしまう点にあるのでは。この前の教育の面でもそう感じたが、別にみんなが思っているほど、そんなに悲観的にならなくてもいいんじゃないかなと。

 

 

*1:ビックマック指数については、以下リンクのブログか、wikiを参考にするとわかりやすい。https://blog.mummysgold.com/tag/big-mac-index/

*2:為替と輸出の関係は以下リンクを参照されたいhttps://www.jftc.or.jp/kids/kids_news/japan/tokucho.html

*3:http://www.mlit.go.jp/kankocho/shisaku/kokusai/vjc.html

*4:https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_eco_company-heikinkyuyo