いま日本の企業に組織開発が必要な理由

 

組織開発の探究 理論に学び、実践に活かす

組織開発の探究 理論に学び、実践に活かす

 

 

ビジネスにおいて組織が重要であることはいうまでもありませんが、ビジネスを考える上で、組織開発についてはあまり注目されていないのが現状でしょう。ビジネスにおいて、いかにして戦略上優位なポジションを構築できるか、あるいはコストダウンを行うべきかというところにはフォーカスがいく一方で、いかにして良い組織を作り上げるかという点に対しては、比較的優先順位が下がっているのではないでしょうか。

 

私もコンサルタントとして仕事を行っていく中で、よくプロジェクトでコストダウンなどに関わることがありますが、ほとんどのビジネスパーソンはいかにしてアイデアを実現するかというところに注目が行きがちで、その背後にある組織のダイナミズムにあまり注目しないのが現状です。しかし、いざ実行フェーズに進むにあたり、実際にアクションを行う担当レベルの腹落ち感が醸成されていなかったり、そもそも別の組織について改革プロジェクトの理解が得られていなかったりと、組織がボトルネックでプロジェクトがなかなか進まないケースが多く存在します。

 

この本は組織開発についてその哲学的なバックボーンも含め体系的に書かれたものですが、これを読み進めるにあたり、組織開発にかかる喫緊の問題意識について考えざるを得ませんでした。

 

なぜそもそも組織開発なのか?この問題意識を考えるにあたり、おそらく以下2つの視点で考えるべきかと思います。

 

(1)新しい職場のあり方が求められている

皆様ご存知の通り、日本は三種の神器である「年功序列・終身雇用・企業別組合」を機能させ、競争優位を確立してきました。このシステム中で、働く人々は自身の仕事にフォーカスすることができ、良好な労使関係を築いてきたと考えられます。こうした中では、組織開発の重要性は大きくはありませんでした。なぜなら組織はすでに企業によって作り上げられたものであり、そこで働く人は何もそのプラットフォームを疑うこともなく仕事に没頭できていたからです。

 

しかしながら、時代の変遷に伴いそうしたシステムが内側から変化していくにあたり、労使関係が変わっているのではないかと考えます。というと、企業を取り巻く環境の変化に伴い、終身雇用を謳っていても完全に保証はできない状態になっているからです。こうした中でそこで働く人も、自分がその組織で成長の見込みがこれ以上ないと判断すると、会社の外に機会を求めることが自然と多くなってしまうからです。実際に、日本の会社に対する信用度は、グローバルで見ても非常に低いと言われています。*1

 

こうした中で、企業は社員が自主的に生き生きと働いてもらう場として組織を設計しなければならなくなりました。さもなくば、人材の流出が免れないからです。

 

(2)人材の多様化が進んでいる

従来は、日本の組織のマネジメントは非常に容易でした。というのも、上述の通り、終身雇用、年功序列というシステムの中で、会社の中の人材はある程度バックグラウンドが似通っていました。大企業になると、4年制の大学を卒業後、新卒で入社、特に転職することもなく同期と同じような異動等を経ている形になります。そうした金太郎飴的人材が組織の中に集まっていました。私はこれはとても素晴らしいことだと思っています。なぜなら画一的な研修プログラムを通じ、人材の共通化を図ることで社員間のコミュニケーションを円滑にすることができるからです。実際日本企業の組織力が世界的に賞賛された時期には、この制度がうまく機能していたのでしょう。

 

しかしながら、日本社会の変化に伴い、組織の中の人材も多様化が進んでいるのが現状です。例えば、労働市場の流動制増加に伴う、転職組の増加。社外で経験を積んできた人を、画一的な経験で共有されたチームの中でどのように機能させるかという問いは、今までにはほとんどなかったかと思います。

 

また、ライフスタイルの変化も上げなければなりません。働く以外の価値観に対して人々が重要視することになってきており、それぞれの社員がより主体的に働き方を選ぶことができるようになっています。これら動きは、今までの企業文化の中にはありませんでした。

 

つまり、多様な人材をマネージし、最大のアウトプットを生み出すという考え方が、今になって重要性を増してきたと言えるでしょう。組織開発においても、こうした多様な人材をどのように活かしていくかというのが、喫緊の課題になっているのではないかと考えます。

 

この本においても、これらの問題意識が強くにじみ出ています。個人的にも非常に興味があるトピックなので、今のコンサルタントとしての仕事を続ける中で引き続き実践していければと思います。