大川内直子「アイデア資本主義」実業之日本社

最近資本主義を論じた本をいろいろ読み漁っているのですが、この本は面白かったのでメモしておく

文化人類学修士卒である著者による、ある意味資本主義のまとめ本。内容としても平易でとても読みやすい。アイデア資本主義というのは、以下の言葉に集約される

イデアが、生産手段の前駆体としての位置づけを脱して、アイデアそのものが独立した投資対象になっている状況 (p.163より一部抜粋)

今までアイデアというのは、生産効率を高めるための一つの手段でしかなかった。これが近年独立した存在として扱われるようになり、より良いアイデアを実現するために資本が投入され、集中していくという現象が起きている。そのことをアイデア資本主義という言葉で表現している。

 

本書では、まず資本主義の歴史をおさらいし、今までの資本主義においては空間・時間・生産の3軸においてフロンティアが消滅していることをまとめる。その上で、現在アイデア資本主義というまた新しい軸の資本主義が到来しているとしてその中で何が起きているのかについて、文化人類学のアプローチであるミクロの視点から語られる。

 

本書の面白いところは2点ある。一つ目は、アイデア主義の特徴を非常に明快に表現したこと。それが「インボリューション(involution)」という言葉である。これ自体は著者の造語なのだが、「内に(in)」という言葉と、「進化(evolution)」という言葉が重なり合っている。

 

今までは、外へと開かれたフロンティア(境界)を絶えず広げていく活動が行われていたが、現在はフロンティアに限界がみえている。そうした中で広がりを見せているのは、外に広がる境界ではなく、内なる深淵の世界である。個人的にはとてもしっくりくる表現

 

二つ目は、著者の資本主義に対する視点。結構巷では「資本主義は悪だ」というような二元的な論調が目立つ。成長ばかりが良いのかということに対して、その対立概念として「脱成長」という言葉が出てきたり、資本主義そのものの悪として乗り越えたりしようとする論調が起きている。そうした論調に対して著者は必ずしも同調しない。もっと多元的な面でみて、現代の状況に応じたアップデートが必要なのではないか、というのが私が感じた著者のスタンスなのだが、まさにその通りかと。

 

現在の論調からのちょうどいい距離感と、堅苦しくないちょうどいい内容。