遠藤功『生きている会社、死んでいる会社』〜読書リレー(97)〜

その会社は、生きているか?それとも死んでいるか?

この観点で会社をみると、面白いように本質が見えてくるように思えます。

生きている会社、死んでいる会社

生きている会社、死んでいる会社

 

 

タイトル通り、会社には、黒字・赤字の他に、「生きているか、死んでいるか」という生命的な観点があるのではないか?という想いから、どういう状態が生きている状態なのか、またどのようにすれば会社を生きたものにすることができるのか、という点について、著者の30年の経営コンサルティング経験に基づいた知見からまとめたものです。分量自体は多いのですが、具体例・ケースが多く、かつ論理展開が非常に明快であることから、とても読みやすい本となっています。

 

なによりも、この観点で整理すると、会社の本質が非常に明瞭に見えて来ます。著者の「生きた」状態を端的に表す言葉として、「Day1」というものがあります。これはアマゾンなどアメリカのIT企業で盛んに言われている言葉であり、「会社を始めた1日目のように、社員が熱気とモチベーションに満ち満ちている状態」というものです。これがあると、たとえ事業が赤字であっても、新しいことにどんどんチャレンジする野心的超挑戦やすぐに試すという実践が行われ、結果として企業の活動の本質である価値の創造が行われます。しかし一方で、車内がマンネリ化してくると、なんとなく社内に慣例を重視するような抑制が働いたり、見える化という号令のもと管理が強化されて行ったりと、閉塞的な状態になって生きます。これを著者の言葉では「老いていく」と言います。

 

しかし、この老いていく状態というのは、企業が大きくなるにつれて、ある意味では不可避的なことなのです。ではそのサイクルを断ち切るためにはどうすればよいか。著者は「会社の新陳代謝が必要」と述べています。すなわち、業務のやり方を見直す、人の配置を変える、また大きな話になると、事業自体を見直す、といった新陳代謝を活発にするのです。こうすることによって、会社は常に生きた状態をキープできるというのです。

 

では、生きている会社にするために、必要なものはなんでしょうか?著者はこれを平易な言葉で「熱」「理」「情」だと言います。

「熱」:会社の理想。共感性の高い共通目標。

「理」:合理性。戦略レベル・行動レベルでのロジック

「情」:社員一人ひとりの心を満たすもの。やりがい、承認欲求の充足

この独立した三つのキーワードを重ね合わせていくことが不可欠だというのです。

 

要するにこの本では、会社を「生命体」と見做すことによって、独自の視点を築き上げています。この本に出てくるケーススタディ自体は真新しいものはありませんが、著者の主張を支える事例として非常にスッキリと頭の中に入って来ます。

 

これは他のところでも語られているところですが、日本の企業は新陳代謝があまりなされていません。Forbes500にランクインする日本企業は、20年前のそれと比べても大差ないわけです(就職ランキングは大きく変わっていますが笑)。一方で、他の国々はランクインする企業がガラッと変わっているわけです。ここに、いかに新陳代謝がなされていないかを見て取ることができます。

 

また、日本社会の中には、そうした新陳代謝をどこか倦厭する風土があるようです。例えばSHARPが業績悪化によりホンハイに買収されそうになったときにも、「日の丸技術の流出」といって、かなりネガティブに捉える世論が多かったと思います。こうしたM&Aの動きはすでにビジネス界では活発になっているにもかかわらず、です。ここから、日本人の安定志向が、こうした新陳代謝を阻んでいると考えることができるでしょう。

 

しかし、それではいけないと著者は警鐘を鳴らします。会社自体の新陳代謝とまではいきませんが、事業の新陳代謝を促進するためにも、ビジネスリーダーが必要だとしています。日本も考え方を変えていかなければならないのですね。

 

では、では