磯田道史『NHKさかのぼり日本史(6)江戸”天下泰平”の礎』〜読書リレー(158)〜

 

NHKさかのぼり日本史(6)江戸 “天下泰平”の礎
 

 MBAのプログラムスタートまでまだ時間があるので、いまだフランスで日本と同様読書に浸る生活を送っています。嵐の前の静けさというべきか、また現在のフランスの「バカンス」気分に浸っているせいなのか、どうも時間がゆっくりとすぎている感じがします。まあ、おそらくこんなゆっくりと時間を取れるのは今しかないだろうから、と腹をくくっている、かといって入学前の色々な準備もこなしつつ、これからの学生生活に備える、といったような時期でしょうか。

 

ということで、フランスではなく日本の歴史に手を出してしまいました笑 個人的に非常に気になっている江戸時代を研究とした分野の本です。この本は一般にもわかりやすくしていますが、約250年という長期にわたって続いた徳川幕府について、ターニングポイントとなる出来事をベースに議論を進めていっているという内容のものです。

 

ずっと考えていたことの一つに、江戸時代が日本のターニングポイントじゃないのかなと思っていました。しかし、あまり江戸時代の評価というか考え方がポジティブではない。義務教育や大学の授業でも、「先進的な」明治時代の対比として、どうしても遅れた野蛮な時代と捉えがちなのが江戸時代なのかもしれません。でも、西洋の進歩史観的な考え方が、停滞していた中世の反動として生み出されたのと同様に、近代を考えるにあたって、江戸時代に何があったのかをしっかりと考えておくべき必要があるんじゃないかと、思っていたわけです。まあ、私はただのビジネスマンですし、餅は餅屋ということで、研究者にそこらの研究をしてもらえればと思っていたのですが、結構面白い本に巡り会うことができました。

 

この本で特に個人的にグッとくるのが、徳川綱吉の再評価です。あくまでも本書の中の一部分ですが、例えば、生類憐れみの令という徳川綱吉が出した政策については、愚策だという評価が一般的だと思います。なぜなら動物やペットなどでも大事にするということを政治ごとにしてしまったからだ、と捉えられているからでしょう。しかし著者は、生類憐れみの令というのは、動物のみならず、人間の命も大事にするという、人々の意識の大転換が含まれていたと言います。

 

これはどういうことか。徳川綱吉の前の時代には、文献によると、人間の命を全く大事にしない行動が横行していたと言います。例えば年貢の支払いが近づいてくると、村の有力者の娘を拉致し、年貢を払うまで監禁したり、支払えない民衆を撲殺したりと、今ではとうてい想像できないような人権を無視した素行が当然のように行われていたようです。そうした状況に際し、徳川綱吉は、例えば姥捨山に老婆を捨てたり、子供を間引きしたりといった行動を改め、人間の命を尊重するような考え方を広めていく目的でこの法令を出したと言います。

 

こうしてみてくると、江戸時代というのは、今の日本人の道徳やコンテキストの外で共有される勝ち判断基準を作り上げた、いわば今の礎なんじゃないかなと思えてくるわけです。明治時代の近代化も評価すべきなのかもしれませんが、それよりも以前にそうしたソフトスキルを250年近くかけて築き上げてきたからこそ、今の日本があるんじゃないかな、そんな気がします。そうした今までの自分の考えを具現化してくれているという点で、この本は読んでいてとても気持ちが良いものでした。しばらくは並行して違う本も読んでみたいと思います。

 

では、では