Se projeter dans l'avenir 〜INSEAD MBA留学記〜

2018年8月からINSEAD MBA留学。MBAで感じたことについて毎日つづります

尾原 和啓『ITビジネスの原理』〜読書リレー(115)〜

ITビジネスのベースとなる考え方を提供してくれる一冊です。

ITビジネスの原理

ITビジネスの原理

 

 

表紙にも書かれていますが、著者の尾原氏は経営コンサルティング会社マッキンゼーからキャリアをスタートし、転職10回を経て様々な企業からITビジネスを見てきた方です。そこからITビジネスの本質について、非常にわかりやすくまとめているのが本書です。私はITビジネスのバックグラウンドは全くなく、むしろその対極をいく産業でキャリアを進めてきたので、ここで描かれているITビジネスの考え方とのコントラストがこれまた非常に面白く、興味深く読み進めることができました。

 

今まで、ビジネスに対する認識は「違いを見つける」ということでした。例えば、同じモノでもAという場所で売られる時とBという場所で売られる時と売価が違った(例えば、Bで売る時の方が高くうれる)時には、Aという場所からBという場所にモノを移動することで、Aの売価とBの売価の差額分だけ儲かることができるわけです。それが全ての前提になっているわけであり、国際分業もマーケティングも、全てこの考えが根底にあって成り立つわけです。

 

しかしITビジネスはこれとは異なると著者は述べています。キーワードは、「マッチング」です。すなわち、世界中に散在しているユーザを一か所に集めて、そのユーザを金を出しても欲しいと思っている企業や人と結びつけるというのです。これは言い換えれば、インターネットの以前のビジネスは「モノを安く仕入れて高く売る」ものでしたが、インターネットのビジネスというのは「ユーザを安く仕入れて高く売る」ものと言えるわけです。

 

もう一つ、ITビジネスのこれからについて興味深い点を挙げています。それは、「これからはインターネット上でもハイコンテキストな消費が増えていく、という主張です。ハイコンテキストとは、言葉に現れない文脈を重視するコミュニケーションのあり方であり、そのコンテキストを有する文化を理解する人でしかわからないような情報のやりとりを指します。

 

従来インターネットというのは、英語という共通言語を中心として、比較的ローコンテキストなコミュニケーションのプラットフォームとして活用されてきたと言います。しかしこれからは、途上国の発展に伴うインターネットのインフラの整備および爆発的拡大により、グローバルというよりは多文化的なプラットフォームが醸成されていくと言います。

 

例えば、日本でいうニコニコ動画2chなど、独自の文化を生み出してきたサイトにおいては、そのコミュニティでしか理解し得ない伝達方法を行うことによって、ウィットに富んだコミュニケーションを楽しむことができます。

 

こうした状態を、著者はITビジネスの未来として考えています。そして、ハイコンテキストな消費を世界に先駆けて行ってきた日本においては、それを広めるポテンシャルを大いに有しているというのです。

 

一方で私の意見としては、全体の流れには概ね賛成するものの、最後の主張にはいささか懐疑的です。まず1点目として、日本のみならずすでに他の国家においても、独自のハイコンテキストのプラットフォームが醸成されてきているからです。これは特に、エリン・メイヤー氏が自著「異文化理解力」の中で「ハイコンテキスト文化」に挙げられるような国家や地域においては、すでに日本でいうところのニコニコ動画楽天などの独自のプラットフォームができているからです。

異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養

異文化理解力――相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養

 

 

例えば、中国においてはQQやWechatを中心としたハイコンテキストなコミュニケーションのプラットフォームが存在しています。こうした状況を背景に、日本だけが魅力的なポテンシャルと有しているかというと、必ずしもそうではないのかな、と思ってしまいます。

 

2点目に、ローコンテキストの表現も依然として影響力を有しているのではないか、という点です。私がこれで思いつくのは「ピコ太郎」ですが、あれが日本人にしかわからないウィットに富んだパフォーマンスだとしたら、おそらくあそこまで世界的な拡散には至らなかったでしょう。グローバル共通語である「英語」の中でもより簡単とされる「Pen」「Pinapple」「Apple」という言葉しかつからず、誰でもわかる衣装と踊りとリズムの滑稽さ、あの「世界中の誰でもわかるようなシンプルさ」が、多くの人を惹きつける結果になったんだと思います。

 

著者はハイコンテキストにおける消費は、言語の壁を飛び越えて「アイコン」による消費になっていくと説明していますが、「アイコン」そのものがローコンテキスト的な存在です。このため、ハイコンテキストな消費は増えるこそすれども、ローコンテキスト的なコミュニケーションのあり方はこれからも絶対的なシェアを維持するような気がします。

 

いずれにしても、ITビジネスのこれからを考える上ではとても勉強になる本でした。最近のKindle Unlimitedの読み放題対象本の中では、一番の収穫だったんじゃないかなと思えるくらいの本です。

 

では、では