上念司『歴史から考える 日本の危機管理は、ここが甘い』〜読書リレー(84)〜

タイトルは危機管理となっていますが、いわゆるオムニバス形式の新書です。 

 

タイトルでは日本の危機管理はここが甘い?というふうになっていますが、どちらかというと、現象の認識に関する間違いがどのように発生するのかについて、主に日本の歴史を取り上げながら、述べている本です。それぞれの章で異なる論理が展開されていて、一貫性はあまり強くはないため、読むのには一苦労する本ではありますが、各章毎の内容については、「なるほど」と思う観点(ただし、論証は乏しいところがありますが…)もあり、探究心をくすぐってくれます。

 

個人的にグッときた内容は、認識の間違いを意図的に発生する方法があるとして、一章を使って「弁論・主義主張における騙しのテクニック」というものを取り上げています。本書によれば、これらのテクニックは概ね以下のような6つの項目に分類さレルといいます。

 

① 議論をするな、印象を操作しろ  →論理ではなく、感情に訴える

② とにかく繰り返し語れ   

③ 物事を逆さに捉えろ   →因果関係を逆転させ、ターゲットに照準を当てる

④ 壮大なスケールで語れ   

⑤ 思考停止のキーワードを作れ   

⑥ 最悪でも両論併記に持ち込め

 

これら事象に対し具体例が本書で紹介されています。あくまでも筆者自身の考え方ですので論拠に乏しいところもありますし、それぞれ重複する点(例えば①と③は論理ではないという点で重複)が、こうして見ると面白い点がいくつか浮かび上がります。

 

まず、論理的な議論に持って行ってはいけないという点です(①③⑤)。あくまでもイメージによって「この考えが正しい」という認識を植え付ける方が有効だというのです。そして、もう一つが、発言の機会を増やす、という点です(②)。これは、心理学的にも証明されており、前回のブログで紹介したように、「人は接触回数が多ければ多いほど(物理的な接触を問わない)、そのものに対して好感を持つ」という現象から立証されています。(本書ではその実験は取り上げられていませんが)。最後に、最後はロジックで固める、という点です(⑥)。明らかにある主義主張が劣勢になった場合でも、まるで自分たちが正しくあるかのような論理武装をしろ、という意味なのです。すなわち、まずは感情に訴え、表出機会を増やし、そして最後に論理固めをすること、この順番が良いといっていることになります。

dajili.hatenablog.com

 

 

ここで思い出したのが、サイモン・シネック氏による「優れたリーダーはどうやって行動を促すか」というTED Talkです。おそらく TED Talkの中でもかなり有名なTalkではありますが、上記の議論とこの議論に相似の関係を見いだすことができます。

サイモン シネック: 優れたリーダーはどうやって行動を促すか | TED Talk

詳しくはリンクの内容を見ていただければと思うのですが、ここでサイモン氏が言っているのは、「Why→How→Whatの順番で説明すると、人は納得させられてしまう」という点です。彼はアップルのキャッチコピーを例に挙げこの論理展開を説明しているのですが、まず心に響くような「Why」によって聴く人の感情に訴えることが大事といいます。これを端的に表した彼の言葉が、'People don't buy what you do; they buy why you do it.’というものです。

 

ここで重要なのは、「ロジックは二の次、感情が先」という点です。人を動かすに当たっては、まず感情に訴える方が有効であることをこの二人は述べています。よくビジネスでは、「ロジカルシンキング」が大事だと囁かれていますが、それはいわゆるWhatの部分であり、Whyの部分ではないことがわかります。すなわち、コミュニケーションにおいては、ロジカルだけでは通用しない点があるというのを、理解しなければならないのです。

 

では、では