だじりブログ

日々の読書から広がる考察

MBA進学を費用対効果で考えることの間違い

日本のビジネス書や議論を見ていると、海外MBA進学をある種の自己投資として考える傾向が強いようです。仕事の第一線から離れ社会から隔離された場所で勉学に励むというからには、その勉強がどれだけリターンを生み出すのかという点について注目しているような気がします。

 

よくよく考えれば、そうしたMBA選びの基準は、日本にとどまらない気がします。実際海外のサイトが提供するMBAランキングも、いずれも「卒業後の平均給与」を重視しています。すなわち、投資した費用(学費+生活費+仕事をしなかったことによって失ったいわゆるサンクコスト)に対し、どれくらいのリターンが見込まれるかという観点です。

 

学校でも、そうした考えが垣間見得ます。例えばP1のFinancial Market and Valuationの授業において、フリーキャッシュフローの考え方をMBAの投資で考えるという事例がありました。教授はそれを用いて、USスクールとINSEADの学費と給与を比較して、INSEADの方が将来的なリターンは良い!ということを主張したかったのでしょうが、個人的には印象に残っています。そして、学校側でもそうしたランキングを重視するあまり、給与の高い就職先については就職支援の手厚いサポートを強化しているような傾向が見られます。

 

ただ、P1P2を終えて思うのが、こうした考え方に対する疑心です。すなわち、「ここの経験を費用対効果で考えていいのか」という疑問です。

 

なぜこんな考えを思いつくようになったのか、きっかけは二つあります。一つ目は、授業で得られる知識と、学費という形をとる「費用」の関係性についてです。この考えをベースにしてしまうと、全ての学校のアクティビティについて費用対効果で考えてしまうことになります。特に当てはめやすいのが授業で、この費用対効果を突き詰めて考えれば、一日あたり、一つの授業あたりいくらという形で、かなり正確に費用計算をすることができます。そして、「この授業はとてもつまらないからだめだ」「学費を返して欲しい」というような意見が散見されます。

 

そして二つ目は将来のキャリアについてです。学校の雰囲気として、費用対効果を重視するあまり、MBAという学位を最大限活用できる(=給与という面で)ような就職先を探してしまう傾向が見受けられます。それは必然的に、多くの学生をコンサル・投資銀行といったいわゆる花形就職先に向かわせることになります。一年制という短いプログラムによって学生に物理的に考える時間がないため、どうしてもそうした就職先に注目が集まっているような印象を受けます。

 

ただ、これら二つとも、あまり本質を捉えていないんじゃないかなと振り返り始めている今日この頃です。一つ目については、そもそも各個人の学びというものはお金で換算できないものです。環境で学びの質に影響が出るのであれば、全ての優秀な人材はトップオブトップの機関から排出されていることになりますが、そうではありません。学びは仕事ではなく、あくまでもお金を払ってきている趣味である以上、どれくらい没入するか、どれくらい好きなのかによって学びの質に大きく差が出るのは致し方ないことだと思います。

 

そして二つ目について。当たり前ですが、給与が高いことが必ずしもそれぞれの学生にとってベストな選択であるとは思えません。それぞれの学生にとってやりたいことは異なるわけであり、せっかくのキャリアトランジションの機会を、そうした金銭的な面で優先してしまう構図は、あまりよろしくないのかなと思います。

 

ここまで半分をすぎて思うのは、MBAの価値は「時間」にあると思います。やはり、仕事をしている方が忙しい。仕事の方がプレッシャーもあるし成果を求められる。それは給与という対価を得られているからこそ生み出されるシビアな環境であり、プロフェッショナルな態度を求められるという点で、学校の世界とは全く異なります。

 

MBAと雖も、そこは学校。学びの場です。自分からお金を払って学んでいるわけで、自分がお金をもらって学んでいるというわけではありません(社費の学生は少し異なりますが…)。シビアな環境から一歩退き、自分の仕事に対する考え方を振り返り、新しい学びを形成していく、そんな場であるわけです。実ビジネスの世界から離れているという点においては、ある種ここで行われる知識習得は趣味の世界であるわけです。そういう意味では、MBAは、強制的に時間を作り出し、自らの学びを深めることができる場所、言い換えれば「学びに充てる時間を作る正当な理由(そして正当な理由であるからこそ、社会にも何の問題もなく復帰できる)」になるわけです。

 

それは言い換えれば、MBAというのは、究極の無駄遣いであり、究極の贅沢であるわけです。だからこそ、そんな短期的に効果が得られるというわけではないものであり、自分の人生を豊かにする、そういう風にざっくりと考えておいた方が良いのではないかと思うようになっています。こういう意味では、費用対効果でここの経験を考えるのは、とてももったいないことなのかもしれません。

 

では、では