「社会脳」という考え方

脳科学で最近出てきている新しい分野として、「社会脳」というものがあります。社会脳というのは、瞬間的に変化する社会的ルールに対応して、適切に行動を切り替える脳の働きだといいます。人間の脳は脳ひとつだけで行動のパターンが全て決まるとは限らないという点に着目し、外的環境(特に外部の脳)が、その調査対象とする脳にどのような変化を与えるのか、という観点を研究する分野です。

 

脳一つだけで行動のパターンが全て決まるとは限らないとはどういうことでしょう。簡単な例を言えば、先輩・後輩に対する接し方が挙げられます。例えば先輩もしくは後輩と昼食をとりにレストランに入ったとします。それぞれ別々の定食を頼んだところ、自分が注文したものが先にきてしまいました。このときに、先輩が相手である場合は、先に食べてしまうのは申し訳ないと感じて、自分から先に食べることを控えるでしょう。しかし、後輩が相手の場合は、申し訳なさを感じることはなく、「先に食べるね」と断りを入れてから、食べるようにすると思います。状況は全く同じなのですが、相手の立場がどうかによって、人は自身の行動のパターンを変える、そんな典型的な例でしょう。この例からもわかるとおり、脳が考えること、そしてそれにもたらされる行動というのは、社会的背景を大いに受けるわけであり、単に脳一つをとって分析をしても、わからないところがあるわけです。

 

これは、脳を一つの単位として、その関係性に着目しているのですが、この関係性というのが、脳のメカニズムと非常に類似しています。そもそも、脳というのは多数散りばめられた脳細胞がシナプスで繋がることによって、その機能を果たしています。すなわち、脳というのは、脳細胞だけでは成り立たず、むしろどのような繋がりをもつかが重要なのです。そして、社会脳というのも、脳を、脳の中の神経細胞ととらえ、脳がいくつも集まってできている社会のレイヤー、すなわち脳1個のレイヤーの一つ上の階層にあるレイヤーに着目する考え方です。ここでも、一つの脳では成り立たず、脳と脳がどのような繋がりを持つかが重要になってきます。

 

藤井直敬氏は自著の中で、「社会性の基本は我慢にある」としています。これは、社会によって自分の欲望や行動を抑えられることこそ、社会性の根本にあるというのです。

拡張する脳

拡張する脳

 

 ただ、脳科学が行き着いた先というのが、脳が社会という外的要素の影響というのは非常に興味深いです。心理学や社会学など、社会科学の分野がまさにこのポイントを満たしてくれるわけであり、脳科学と社会科学のコラボレーションというのも、今後増えてくるのかもしれません。

 

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