ライアンエイヴェント『デジタルエコノミーはいかにして道を誤るか』〜読書リレー(112)〜

 

デジタルエコノミーはいかにして道を誤るか

デジタルエコノミーはいかにして道を誤るか

 

最近のバズワードとして徐々に日本でも注目を集めつつあるデジタルエコノミー。これにより、人類の富という概念にどのような影響が及ぼすのかについて述べた本です。ボリュームも非常にある本であるため、読むのには一苦労しますが、内容としては非常に感心するものが多く、勉強になりました。

 

デジタルエコノミーは産業革命以来の動きになるかもしれないと前置きを置いた上で、デジタルエコノミーが仕事の自動化やスキルの高い労働者の生産性向上、さらにはグローバリゼーションによる国際分業のさらなる深化といった様々な要因が働き始めているといいます。そしてこの状況が導き出す現象というのが、労働力の余剰と賃金の低下だというのです。

 

デジタルエコノミーによって生産性が向上すると、スキルの高い人たちはより生産性を高く仕事を行うことができます。一方で、スキルの低い人たちは、そうしたデジタルエコノミーを活用しきれずに、生産性を向上させることができません。したがって、スキルの高い人と低い人の間に、今まで以上に差が出て来てしまう、ということになりかねないのです。

 

こうなってしまうと、スキルの高い人たちにより仕事が集中することになり、結果としてより高額な報酬を得られる仕事を見つけることが容易になりますが、一方でスキルの低い人たちは、従来彼らがやるべきだった仕事を、生産性を向上したスキルの高い人たちに取られてしまっていますので、どんどん働き口がなくなっていきます。加えて、ここにグローバリゼーションによる、経済発展を遂げた途上国の労働者が参加します。このため、少ないπに今まで以上に多くの労働者が殺到することとなり、労働市場の需給のバランスが崩れ供給過多になってしまい、最終的に賃金が引き下がっていく方向に力が働くのです。

 

この本では、ソーシャルキャピタルなど他の論点も紹介されていますが、私はこの本の価値は、上記現象を論じた序章の部分に多くあると思っています。昨今ではデジタルエコノミーの機会に乗じていかに生産性の向上を高め、企業としての競争力を高めていくか、という経営学の視点がホットで、かの有名なコトラー氏も、Marketing 4.0で取り上げているように、比較的プラスに捉える人の方が多いように見受けられます。 

Marketing 4.0: Moving from Traditional to Digital

Marketing 4.0: Moving from Traditional to Digital

 

 

そうした状況において、この本が示しているのが、デジタルエコノミーに対する危機感なのではないかなと思います。

 

また、もう一つここで感じてしまったのが、今の日本における「生産性向上」の議論についてです。こうした生産性向上についても、企業の競争力を向上させるという点で比較的プラスに捉えられているケースが多いですが、これが翻って、生産性の向上により労働者の余剰につながり、結果として賃金上昇の抑制につながっていくのではないか、そうなってくると、経済的には企業の業績が好調であるにもかかわらず、足元の消費がついて来ず、インフレ・物価上昇につながって来ないのではないか、そんな日本の現状を予知しているような気がしてなりません。危機感を植え付けるという点では、この本はとても面白い観点を提供していると思います。

 

では、では