読書リレー(37) メディアは未来を作り出すかー田端信太郎「MEDIA MAKERS」

メディアは現実を映し出すだけでなく、未来も作り出すのでしょうか。

 

 

インターネットが普及してから、ますますメディアの重要性が叫ばれている昨今、そうしたメディアを作り出すことができるのではないかと感じさせてくれる本です。

 

この本では、特にビジネスの観点から、これから企業はアテンション(=関心・注目)とタレント(=才能)が必要になってくると説明し、そうした二つの要素に欠かせないのがメディアだとしています。すなわち、アテンションを集め、タレントをモチベートする機能を有しているのは、メディアにおいて他にないと説明しているのです。その中で、どのようにしてメディアを活用・もしくは生み出していくべきかについて、メディアの特徴をまず分類化した上で、メディアを作り出す編集者として必要な考え方について説明を加えています。

 

その中でも興味深い指摘がありました。それが、「予言の自己実現能力」というものです。メディアには、そこでなされた予言自体を自己実現させてしまう傾向があるというのですが、それが「予言の自己実現能力」だと言います。すなわち、メディアには報道することによって、その報道を作り出すことができるような、そうした機能を持っているというのです。

 

この予言の自己実現能力、普段は問題になりませんが、一歩間違えるととんでもない方向に社会を持って行ってしまいます。例えば、メディアがある報道をしたことによって、ある企業の株価が下がってしまったとしましょう。それによって、その株を持っていた投資家は大損をしてしまいます。ところが、後になってその報道が誤報であることが判明しました。しかしながら、下がった株価はもう二度度上がることはありません。いくら後で「あの報道は誤りでした」と、報道媒体のトップが頭を難度下げたとしても、その投資家がしてしまった損失は戻っては来ないわけです。それがこの予言の自己実現能力の怖さというものです。

 

この能力は、恣意性が入ってしまうと、ともすればメディア媒体の意のままに自己実現をしてしまう、という事態になりかねません。このために、メディアを受けとる側のリテラシーが必要なのはいうまでもありません。

 

ただし、このような恣意性による自己実現能力は、現在のデジタルエコノミーの傾向の中で、徐々に薄れつつあるのかなというのが私の観察です。現在では、人々は権威のあるメディアよりも身近な発信先を信じるようになっている(観光雑誌ではなくトリップアドバイザー、ミシュランよりも食べログ)というのがあります。このため、意志を持った単体でのメディアの影響力が薄れつつある一方で、「良い意見が多ければ多いほど良い」といういわゆる本当の民主主義的なオピニオン形成ができつつあるのではないかな、と思ってみたりもします。

 

メディアは影響力は依然として大きいかもしれませんが、未来を作り上げる力は、単体ではどんどん薄れて行っているのかもしれませんね。

 

では、では