読書リレー(29) 佐藤航陽「未来に先回りする思考法」

 

ビジネスにおいて重要なのが、いかに未来を予測できるのかという点です。世界的に有名な投資家であるウォーレン・バフェットも「ビジネスの世界では、常に、フロントガラスより、バックミラーの方がよく見える。」と言っているように、過去(=バックミラー)はよく見えるのに、ビジネスを動かす(=車を運転する)のに大事な未来(=フロントガラス)をみることは難しさが生じます。そレにもかかわらず、タイトルに「未来に先回りする思考法」というもので、そんな予測が難しい未来を予測し、先回りすることなんてできるのだろうか?という好奇心から、この本を手にとって読みました。

 

この作者、私も知らなかったのですが実は有名な方のようです。大学を中退し起業、今では世界にも拠点を持つテクノロジー企業を運営しているというのです。しかも、この本の執筆時点(2015年)で29歳というのですから、とても若くして成功された素晴らしい方です。

 

この本では、主にテクノロジーを中心に、流れを点ではなく線で捉えることによって、社会の発展のパターンを理解し・見出し、それによりタイミング良く行動に移すことが大事だと説いています。そうしたストーリーで構成されているため、内容の大半は、「いかにテクノロジーが社会を変えてきたか?」という点や、「いかに人間はテクノロジーの進歩に伴う社会の発展を見誤ってきたか?」という点に比重が置かれています。

 

これらについては、他にも色々な書籍で述べられているところであり、さして真新しい概念というものは提起されていません。国家や社会と言ったシステムが多国籍企業によって揺らいでいるという点や、多層化するレイヤーなどが挙げられます。そしてIoTやAIなど、全てのものがネットワークに繋がる分散型の社会がもたらされるという点も、他の書籍で多く論じられているところになります。

 

この本の面白いところは、そうした社会の発展を捉えたうえで、いかに先立って行動を移すことができるか、という点に対する、この本のアプローチです。その、「人よりも早く行動する」という点において、本書では興味深い三点を指摘しています。

 

ロジカルシンキングを疑う

ロジカルシンキングといえば、ビジネスパーソンにとって必須アイテムとも言えるべき存在で、巷の本屋ではいかにしてロジカルシンキングを行うべきかというハウツー本が溢れかえっています。また実際に実務をしてく上でも、ビジネス上に起こりうるあらゆる問題に対して、ロジカルに物事を捉え解釈し、最適解を導き出していくということが必要とされています。その、ロジカルシンキングを疑えと本書では言っているのです。それはなぜか。ロジカルシンキングには、ある危うさが孕んでいるといいます。それは、ロジカルシンキングで得られた解というのは、ロジカルシンキングを行なった人が得られた情報と、ロジカルシンキングを行う人の情報収集網に依存してしまう、という点です。本書では、前者を情報の壁、後者をリテラシーの壁としていますが、ロジカルシンキングを行う場合には、大抵そのふたつの壁を認識しないままに、自分たちに認識できる現実の範囲を「全体像」と捉えてしまうことがあります。それによって、ロジカルシンキングを行なったとしても、前提条件のところで危うさが含まれるために、結果として出てくる解も不確定にならざるを得ないという点を指摘しています。

 

私も、この「ロジカルシンキングの限界」については賛成の意見ですし、これ以外にも多くの観点でこの「ロジカルシンキングを疑う」ということが始まっています。例えば、山口周氏によると、「ロジカルシンキングで得られた答えは、何も差別化のないものだ」とし、その有効性を疑っています。同氏によれば、そうした左脳的な考え方ではなく、直感やいわゆる「美的センス」といった、右脳的な考えも混ぜることで、ロジカルシンキングを超えた新しい意思決定を行うことができるとしています。

 

②今の自分の能力を疑う

行動を起こすには、自らの意思が必要ですよね。それに基づき正しいと思ったことを行動に移す。普通であれば、そうした自分の判断によって行動を起こすというのは至極当然のアプローチに見えます。しかしながら、本書ではあえて、「今の自分の能力に基づいて意思決定をしてはいけない」と説いています。なぜなら、今の自分の認識は完璧ではないからです。

 

認識というのは、「社会」を把握する「能力」に分けられます。まずは「社会」から。インターネットの普及により、現代は変化のスピードが非常に早く、一年はおろか、たった半年でも社会の認識が変わることがあります。そうした中で、今日の社会は昨日とは違う社会であることが日常茶飯事的に起きるわけです。そのため、昨日の社会の認識で、今日を捉えてはいけないと言えることができます。次に、「能力」。人間の認識する能力も、日々成長していくということを忘れてはなりません。自分も、確かに振り返ると一年前と今年の認識では大きく異なっているなという実感があります。しかしながら、今の自分は今までベストであるという認識のため、どうしても今の自分以上の自分を想像することが難しいと思います。だからこそ、今の認識を疑う、と意識的に取り組むのが大事なのかもしれません。

 

③五分五分で決断する

最後に、100%確証を持てなくとも、五分五分のタイミングで、原理を突き詰めていくと必ずそうなるだろうという未来に飛び込むというアプローチが必要と本書では述べています。未来がわかってきて、80%くらいになったタイミングで行動に移すというのでは、あまりにも遅いのです。この世の中には、同じようなことを考えている人たちがたくさんいて、彼らもチャンスを今か今かと伺っている状況なのです。それらの多数の「競合」に差をつけるためには、確証が持てないタイミングで飛び込むしかない、というのです。

 

これら三点に共通するものとして、少しでもぼんやりと未来が見えてきたら、すぐに行動に移す「スピード」が大事という点です。普通の人なら、確証を持った段階で行動に移すのが当たり前です。しかし本書では、時には自分の認識を疑い、ロジカルシンキングも疑い、半信半疑の状態で飛び込むことで「一番」になれると説いています。これができるのは、並大抵の覚悟と思い切りの良さがないとできません。成功した起業家が起業家たる所以は、こうした意思決定の速さによるのでしょう。私のような凡人にはとうてい真似できそうにはありませんが、考え方として非常に面白い観点です。

 

特に②。自己否定によって自己を高めていくという考え。岡本太郎の言葉を思い出しました。

 

前に、禅宗の坊さんたちに「己を殺せ」といった話をしたけれど、あれは「禅」じゃなくて人生の極意なんだ。 自分を殺す、そこから自分が強烈に生きるわけだ。 それが本当に生きることなんだ

 

では、では