森本あんり「企業トップが学ぶリベラルアーツ 宗教国家アメリカのふしぎな論理」〜読書リレー(63)〜
実はアメリカは、宗教の概念が色濃く残る国家だった…?
シリーズ・企業トップが学ぶリベラルアーツ 宗教国家アメリカのふしぎな論理 (NHK出版新書 535)
- 作者: 森本あんり
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2017/11/08
- メディア: 新書
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大学教授による、アメリカ人の考え方を、宗教の観点から考察した一冊。あくまでも「人の考え方」に焦点を絞っているため、データなどは乏しく、論拠にはかけてしまうところがあるのですが、それを差し置いても、一つの視点としては非常に面白い、かつ論理に一貫性がある主張で、楽しく読むことができました。
この本によると、アメリカはキリスト教の影響を受けている、というのです。このキリスト教というのは、アメリカで独自に育ったものであり、欧州のそれとは一線を画した形になっています。
アメリカの特徴を表しているのが、「自由意志の過信」と言います。これはどういうことか。自由意志というのは、人間は誰しもが成功するための才能や意志を持っているという前提の上で、努力さえすればその才能を開花させ、自分の目標を達成したり、自分の意志を貫くことができるという点での、人々の意志を表しています。すなわち、成功するかしないかは、それぞれの個々人の「意志」に基づくものであり、逆に言えば、ある個人が成功していないのは、その個人が努力していないからだ、というロジックになります。
これがキリスト教的考え方と結びつき、本書で言うところの「富と成功」の福音につながります。これは、「神は、従う者には恵みを与え、背く者には罰を与える。」「ところで、自分は成功し、恵まれている。」「だから神は自分を是認している。自分は正しいのだ。」という論理学的には成立しない三段論法を持って、自分の成功を「神の恵みによるものだ」と解釈することを意味します。こうすることによって、宗教の実践と個人的な成功が結びつき、事業等を起こし、財をなし、成功することこそが宗教を実践しているという論理展開につながっていき、社会的に認められているのです。
この考え方は、日本の成功者のとらわれ方と大きく異なるわけです。日本では、一代で成功した「成り上がり者」や「にわか成金」に対しては、社会は非常に冷たい態度をとります。ましてや、社会の規律を見出すものとして、「出る杭は打たれる」ばりに、排除の方向が生み出されます。これは、前回紹介した「シャーデンフロイデ」に近いところがあり、「自分たちとは違う」と言うところで、生物学的に排除のメカニズムが働くと言うことになります。この方が、人間のメカニズム上ある意味当たり前であることかもしれないのです。
しかし、上記考え方を持つアメリカでは、判断基準では違います。成功することこそが、宗教の実践であり、正しい在り方だと言うのです。これは、宗教的考え方が生物学的なメカニズムに勝る、と言う現象だと思います。
思うに、日本でも、アメリカ式の経営手法を取り入れ、「日本においてもどんどん新しい産業を育成すべく、どんどんスタートアップや起業を推奨すべきだ」という論調が目立ちます。しかしながら、そうしてできたスタートアップに対して、日本社会は少なからず違和感を感じているところがあると思います。この本から得た概念を拝借するのであれば、そもそも宗教的観念と結びついた成功者に関する考え方が違うから、日本でスタートアップが成功するはずがないのです。むしろ、アメリカでスタートアップが成功することが、世界的に見て「珍しい」と言えるのです。
そうなった場合、日本が目指すものについて改めて考察が必要に感じられます。何でもかんでもアメリカのやり方を模倣し実践していったとしても、結局人の根本的考え方が異なるわけです。そうした中で、同じことを単純にやっていくだけで良いのか?と言うことを、この本は示唆してくれているような気がします。もちろん、それがこの本の趣旨ではありませんが、私としてはそちらの方が気になってしまったのです。
では、では