橘玲『国家破産は怖くない』〜読書リレー(148)〜

 

国家破産はこわくない (講談社+α文庫)

国家破産はこわくない (講談社+α文庫)

 

 タイトルに「国家破産」という言葉がある通り、おどろおどろしい印象を受ける本ですが、一言でまとめれば、資産運用の本です。

 

この本が書かれた 2013年当時はアベノミクスが始まったばかりで、まだその効果が見えてきていない状態だったと記憶しています。そうした中で、本当にアベノミクスは成功するのか?という疑問点から出発し、もし失敗に終わってしまった場合に想定されるシナリオについて説明した上で、そのシナリオ別に取るべき資産運用のアプローチをまとめています。

 

資産運用の内容自体はいたってシンプルなものですので、少し投資の勉強をすれば、そういうポジションの取り方をするのね、というような形で納得できます。

 

個人的には、この本の価値は資産運用の根本になっているシナリオの方です。著者によると、現状いくつかのシナリオがあるというのです。それが以下の順となっています。

 

(1)楽観シナリオ:アベノミクスが成功し、過去日本が経験していたような高度経済成長がふたたびはじまる

(2)悲観シナリオ:金融緩和に効果がみられず、デフレ不況がこれからもつづく

(3)破滅シナリオ:国債価格の暴落(金利の急騰)と高インフレで財政が破綻し、大規模な金融危機が起きて日本経済は大混乱に陥る

 

そして、(3)の最悪のケースにも、段階があるといいます。それが以下のようになっています。

 

第1ステージ :国債価格が下落し金利が上昇

第2ステージ :円安とインフレが進行、国家債務の膨張が止まらなくなる

第3ステージ :日本政府が国債のデフォルトを宣告、IMFの管理下にはいる(事実上の国家破産)

 

これを現時点での段階であてはめて考えるといかがでしょうか?今の所見えているのは、(1)に近い(2)の状態なのでしょうか?すなわち、金融緩和により円安が進行し、輸出産業をメインにもつ大企業を中心に業績は回復していますが、政府が目標とするインフレ率にはなかなか到達しないという状態と言えます。また、アメリカ・欧州と比較して出口政策が一向に見えない現状の中で、突然(3)のシナリオに転じてしまう怖さがある状態かもしれません。そう行った観点で言えば、著者があげたシナリオは、半分当たっていて半分外れている、とってもいいのではないでしょうか?

 

まあ、といっても未来の状態は誰にも見えないわけで、これの情報だけで著者を評価するのも正しくはないと思います。ビジネスの世界のMECEごとく、リスクの正しい評価のために様々なシナリオを想定することの方が大事なのかもしれません。

 

では、では