宇佐美典也『逃げられない世代―日本型「先送り」システムの限界―』〜読書リレー(150)〜

 

逃げられない世代 ――日本型「先送り」システムの限界 (新潮新書)

逃げられない世代 ――日本型「先送り」システムの限界 (新潮新書)

 

 

中国での勤務を終え、日本に帰ってきて一週間が経ちました。仕事が終わるんだからだいぶ楽になるでしょ!とタカをくくっていましたが、ビザの申請だったりMBA Period Zeroの課題で苦戦したり、はたまた実家めぐりに右往左往したりと、中国生活が恋しくなるほど忙しい時間となってしまいました。ブログの更新も自然と遠ざかり、このブログ始まって以来の更新頻度の低さを更新してしまっています。

 

しかしながら、大目的として「日本にいるとなかなか伝わらない海外MBAの実態を余すことなくシェアする」という点を掲げている以上、どんなに忙しくても毎日更新は必達であると思っているので、プログラム開始が1ヶ月と迫ったこのタイミングで、もう一段ギアを高めて情報提供できればなと思っております。

 

といいながらも、やっとこさ昨日今日で時間が取れたので、読書に時間を費やすことができました。気が付けばこのブログ(引越し前含む)で紹介した本の数が150冊まで蓄積いたしました。半年でこの数やっているので、流石に質がどうかと言われると、新書ばかりを紹介していることもあって100%満足のいくものとはなってはいませんが、それでも今の自分に必要なのは広くて浅い大量のインプットだと割り切っているので、致し方ないのかなと思っています。おそらくこのあたりで自主作業によるインプット作業は一旦中断し、MBAプログラムによる「準備されたインプット」に移行して行くことになるのでしょう。ということで、このタイミングに選んだのは、公共政策ちっくなこの本です。

 

著者は元経済産業省キャリアで、今はブロガー兼再生エネルギー向けコンサルタントとして活躍する30代。年齢も世代も比較的似ていることから、考え方についつい共感してしまいます。なんてったってこのタイトルに惹かれました。

 

私はいわゆるゆとり世代に属するのですが、よくよく考えると、ゆとり世代(特に初期)というのは世間からは想像できない、不遇の時代を過ごしてきたことになります。ゆとり世代は物心ついた頃にはバブルが崩壊し、失われた20年(30年?)の中で青春を過ごしています。すなわち、成人するまでに経済が上向きになった時代が一度もないという世代なのです。加えて、いざ社会に出る就職活動期には、2008年に起きたリーマンショックの影響を受け未曾有の就職氷河期。これだけでも不遇なのに、世間からは「あいつらはゆとりだから」と冷遇され続けていた、言葉を変えれば虐げられていた世代になるわけです。

 

そうした中で、もう一つゆとり世代にとって、自身の境遇の不遇さを表すキーワードが最近浮上してきました。それが人口減と高齢化です。すでにこのブログでもなんども紹介していますが、日本は2050年までに、人口が9000万人を切ると言われており、現状の社会システムでは全く成り立たない世の中を迎えようとしています。社会保障や安全保障、国の借金など、様々な問題を孕みながら解決を考えないといけない。それがゆとり世代と言われる私たちなのかなと薄々感じていたところでした。

 

そこで気になったのが、このタイトルです。『逃げられない世代』というのは、現状のシステムの歪みが2030年代ごろに顕在化して行くために、「現在 20 代から 30 代の世代(1979~ 98 年生まれの世代)で、この世代は自らの身を削りながら団塊ジュニア世代の老後を 20 年間支えていき、他方で次世代に問題を先送りしない社会保障システムを再構築し、なおかつ日本の安全保障のあり方も外交的に見直していく必要に迫られることにな」るというのです。

 

では、なぜこうした社会保障や安全保障、加えて赤字国債のあり方が先送りされたのでしょうか?著者は、今の官僚や政治家の任期にその理由があるといいます。官僚や政治家というのは、平均的に2〜3年で現在のポストから外れるため、長期的な視座に立った施策の実行がしづらいという状況が発生しているというのです。このために、問題は見えているのだけれどもなかなか解決に向けたアクションが取られない、という状況がここ数年続いているといいます。

 

その最たる例が、異次元金融緩和の出口戦略、そしてアジアの安全保障戦略なんじゃないかなと私は思っています。特に前者はこの本でも取り上げられていますが、この4年間で330兆円増えた日本銀行の資産規模のほとんどは国債になるわけですが、この異次元緩和をどう終わらせるのかについては、未だはっきりとしたビジョンが見えていないのが現状です。ECBもFRBも今年に入り明確な出口戦略を表していますが、日本のみ、その動きに出遅れている感があります。前掲の『国家破産は怖くない』でも取り上げましたが、本当に最悪のシナリオを考えなければならない時がきてしまうのかもしれないのです。

dajili.hatenablog.com

 

この本は安全保障や社会保障、金融政策に至るありとあらゆる分野について新書の分量で扱ったために、それぞれの各論での議論の広がりには限界が見えてしまっているのは残念なところではありますが、全てを網羅しマクロ的な観点を与えてくれるという点では非常に良い本といえます。特に若い世代を中心に、これからの日本の問題を考える上でも読むべき本なんじゃないかなと思います。

 

では、では