堀江貴文『多動力』〜読書リレー(143)〜

 

多動力 (NewsPicks Book)

多動力 (NewsPicks Book)

 

 

堀江貴文氏のファンとまではいきませんが、なんだかんだ著作を色々と読んでいる今日この頃です。この本も、Kindle Unlimitedの対象になったので、早速読んで見ました。Newspicksの本は、度々Kindle Unlimitedになっているので、読む機会も必然と増えていきます。

 

この本では、これからのビジネスパーソンで必要な多動力を中心に描かれています。主張こそ真新しさを感じますが、内容としては彼の以前の著作に近いものを感じます。

 

多動力の根拠になっているのが、現在のインターネットの普及により垂直統合から水平分業に変わっていった時代の流れと言います。即ち、1つのものを極めるのではなく、いくつかの知識を組み合わせて新しいものを生み出すことが可能な世の中(そうした組み合わせの価値の方が生み出しやすくなった)になったと言います。このため、多様なことを行える方が良いということになります。

 

やはり、今の世の中にあった働き方があるわけで、それを全面的に押し出すことができる著者ならではの本と言えるでしょう。

 

では、では

酒井崇男『「タレント」の時代 世界で勝ち続ける企業の人材戦略論』〜読書リレー(141)〜

 

 

人事コンサルタントである著者が、日本企業における「タレント」の起用方法を中心に、人材の生かし方について述べている本です。工学部出身で研究所での勤務を行なっていたこともあり、工学的なアプローチが多く含まれており、これはこれで視点として非常に面白いと思います。

 

まず著者は、「労働の考え方を変えるべきだ」と主張します。新しい労働の考え方を簡潔に表す著者の表現が「人間の労働とは、商品や資産として価値のある「情報を創造」したり、価値のある「情報を転写」したりすること」というものです。この根底にあるのが、設計情報という工学的な考え方で、簡単にいえばモノを作る際の図面や作業手順といった、あるものを生み出すために必要な情報を総称しています。ただしこの設計情報の対象は、有形のモノだけでなく、無形のものも含まれます。例えばスターバックスセブンイレブンなどのチェーン店での接客についても、どの店舗でも店員でも、個別差なく同様のサービスを提供することができるという点で、設計情報に基づきサービスを生産し、提供しているわけです。

 

この観点で見たときに、もちろん重視するべきは前者の「商品や資産として価値のある「情報を創造」」することになります。そして、これを行える人材こそが「タレント」だとして、重宝すべきだと主張しています。

 

著者は、日本企業の多くは前者の情報創造ができるタレント人材をうまく扱えていないと主張します。それは、日本の大企業の雇用形態に起因しており、そうしたタレント人材が重宝されず、ただ単純に定型作業に終始する人材と同等の扱いを受けてしまう。そうならないためにも、早急にタレントを生かす仕組みを作るべきだと主張します。

 

それで参考になるのが、トヨタの主査制度だと言います。この制度では、一つの車種2つき一人の主査がつき、設計開発から市場調査・マーケティングの部隊を一手に統括するというシステムです。このシステムに基づけば、タレント人材を主査につかせ、彼彼女を中心とした製品の提供体制を作り上げられる。すなわちタレント人材を最大限に活用できると説明しています。

 

この本の考え方は大方間違ってはいないと思うのですが、この「タレントを生かす仕組み」について考える上で重要な2点があり、それについては本書では述べられていません。

 

1つ目に、「すりあわせ」の考え、すなわち一人のカリスマではなくチームプレーによる価値創造の観点が抜けているという点です。本書では、一人のタレント人材にスポットを当てて、価値創造の仕組みを考えていますが、そうした一人の個の力で大企業を動かすようなタレント人材はそうそういません。アップルのスティーブ・ジョブスのような飛び抜けたカリスマ人材はもちろんタレントといってもいいのですが、そうしたタレントは何億人のうち1人いるかどうか、というレベルの話です。

 

そうなってくると、1人のタレントに依存するよりかは、組織でうまく価値を創造できるような仕組みを作っていくべきであるのですが、そこにスポットライトを当てるべきかと。ちなみにトヨタの主査制度も、そうした観点で「いかにチームとして価値を生み出していくか」という点での考察が必要なのかもしれません。(1人のタレントを活かす仕組みを、と掲げている割には、本書の最後で「全員が一丸となってそれぞれ自分ができるレベルで努力することが、本来の日本人の強みである「和」ということ」と締めています。)

 

2つ目に、そうしたタレント人材の育成方法があります。自分自身が価値創造や製品開発の中心となるようなタレント人材はどのようにして生み出されるのか、この本では周辺的な議論しかなく(例:タレント人材はどのような目的意識で動いているのか)、本筋の「どうやってそうした人材を見抜き、育てていくのか」という議論がされていません。本書では、士業と呼ばれる人たちを「定型労働者に過ぎず価値を生み出していない」と一蹴したり、MBAは高度に知的な創造性に向かないといった否定はあるのですが、ではそうしたタレントを育てるにはどうすればいいかについての考察がかけています。

 

いずれにしても、定型作業に終始するのではなく、いかに設計情報を作り出していくか、この観点から働き方を捉えるのは面白いと思います。今働き方改革の議論が多くされていますが、このほとんどが「定型作業の効率化」であり投入費用・時間といった、効率性を考える上での分母にあたる部分であるわけです。一方で、価値を生み出す側すなわち効率性を考える上での分子にあたる部分については、いまひとつ議論の盛り上がりが欠けている気がします。こうしたところに着目することこそが、必要なのではないかなと思ってしまう一冊でした。

 

では、では

駒崎弘樹『社会を変えたい人のためのソーシャルビジネス入門』〜読書リレー(140)〜

 

 NPO法人「フローレンス」代表の駒崎弘樹氏による、ソーシャルビジネス・NPO立ち上げの指南書です。そもそもNPO・ソーシャルビジネスとはなんなのかという点から、外部からの視点でよく勘違いされやすい点の誤解を解きつつ、外からはあまり見えてこないソーシャルビジネス・NPOの内情や立ち上げのプロセス、そして自身が経験されてきた中でどのようにすべきかガイドラインをまとめた、まさにソーシャルビジネスを志す人にとっては非常に有用になる一冊かと思います。

 

NPOというと、その言葉「非営利組織」が示す通り、営利を求めてはいけないというイメージがありますが、著者が明かしているのが、 NPOは営利を求めなければ組織としてやって行けないというのです。そのため、立ち上げや組織を軌道に乗せるプロセスでは、やはりビジネス的な要素を含んできます。マネタイズについても、どのようにNPO・ソーシャルビジネスの組織についてどのような方式があるのかについて、様々なパターンを提示しており、非常に役に立ちます。

 

ただ、結局利益を追求するんじゃ、ビジネスと全く一緒じゃないか、と思われるかもしれませんが、そこでソーシャルビジネスは、自分たちの社会的使命を定義し、それを内外に向けてしっかりとプロモーションしていくことが重要になると述べています。そうやって自らのブランドを確立していくことで、十分に競合する企業との差別化は可能になるといいます。

 

おそらく、ソーシャルビジネスは公共事業とビジネスとの間をうまく補完する形態として、今後もますます必要になってくると思います。そうした中において、このような先駆者による指南書というのは、とても価値のあるものになっていくかもしれません。

 

では、では

 

 

加藤俊徳『高学歴なのになぜ人とうまくいかないのか』〜読書リレー(139)〜

 

高学歴なのになぜ人とうまくいかないのか (PHP新書)

高学歴なのになぜ人とうまくいかないのか (PHP新書)

 

 

新書らしいタイトルの本(笑)。他国と比べても学歴を重視する日本社会に対するアンチテーゼのような形で書かれている本です。

 

日本とは、なんとまあ学歴が大きく前面に出ていることか。本屋に行けばビジネス書のタイトルには「東大」「ハーバード」「スタンフォード式」なんて言葉がずらり。こうした言葉のシグナリング効果があることは否めませんが、それにしてもこうした学歴(とくに大学の学歴)にあやかろうという動きは、ビジネスの世界や社会においても根強く残っています。しかし著者はそうした動きに対してNoを唱えています。

 

ここまでの議論であれば他の書籍と大して変わらないのですが、この本の特徴的な部分が、脳科学の観点からこの議論を行なって言ったという点です。著者曰く、人間の脳は、大学受験を行う20歳前後以降も成長し、30歳前後までは成長を遂げると言います。また、一応30歳前後で成長が一段落するものの、そのあとも鍛えれば一生涯にわたって成長を続けることがわかっている、というのです。このため、20歳そこそこの時点での、しかも学業成績という一面的な能力だけで人の能力を判断することは、到底できないと言います。

 

また、高い学歴で求められる脳の働きが、偏っているという点も著者は指摘しています。脳の中には、ロケーション別で機能が別れていることがわかっており、大きく分けて8つあると言います。思考系・感情系・伝達系・運動系・聴覚系・視覚系・理解系・記憶系だといいます。偏差値の高い人は、思考系や記憶系の脳番地が非常に発達しているそうです。いっぽうで、感情系の脳番地が未発達なことが多いと言います。これは、受験勉強を通じ試験合格に必要とされる知識や考える力を集中的に伸ばした結果、他の番地の能力を鍛えることをおろそかにしてしまったというのです。このため、他の人とのコミュニケーションを阻害する大きな原因になっていると言います。そしてその傾向は、高学歴であればあるほど顕著だと述べ、注意が必要だと言います。

 

それを克服するためにはどうすれば良いか。著者は学歴が決まる20歳以降もしっかりと脳の力を伸ばしていくような環境を整え、それをしっかり評価する社会の仕組みに変えていくことが必要と述べています。これは、特に社外の知識習得(学び直し)を必ずしも促進しない日本企業に対する忠告のように聞こえてきます。

 

また、脳を継続的に成長させていくには、「あえてわかりきらない」という考え方も重要だと述べています。全てわかりきってしまうとそこで知識の吸収がストップしてしまう。そうなるとすぐに老化が始まってしまうと言います。現状に甘んじては行けないということですね。精進精進。

 

では、では

 

庄司克宏『欧州ポピュリズム』〜読書リレー(138)〜

 

欧州ポピュリズム (ちくま新書)

欧州ポピュリズム (ちくま新書)

 

 

最近ポピュリズムに関する本を色々と読み進めていますが、次は地域論にトライしたいと思い、この本に手を伸ばしてみました。欧州のポピュリズムに書かれたこの本では、EUの構造上ポピュリズムEUの内部から発生するのは不可避だとしながらも、ただがん細胞のようなもので、きちんと抑えて縮小させるしかない、という主張を説明しています。

 

すでに皆様もご存知のとおり2010年代に入ってから欧州を中心にポピュリズムの波がきていると思います。一番印象に残っているのはイギリスのBrexitでしょう。著者はこうしたポピュリズムの現象を分析し、欧州のポピュリズムEUがある以上不可避であると説明をしています。

 

これはどうしてなのか?それはEUと参加国の統治形態に原因があると分析しています。EUは各国議会とは異なり、多党的な構造にはなっていません。EUの政策決定者が各国選挙民から直接負託を受けるようなことは起こらないシステムになっているのです。そして、EUの政治プロセスが各国の国内政治に影響を及ぼすのに対して、国内政治とEUの政治プロセスの間に壁が生じており、軋轢を生みやすい構造になっていると指摘しています。このため、そもそもEUの構造自体が、「インプットに基づく正当性の基盤」(EUが組織として出来上がるプロセスにおいての正当性)に欠けているのです。

 

また、もう一つの正当性のカギである「アウトプット」すなわち政策の結果についても、非常に困難を極めています。移民や経済政策などが挙げられますが、成功を収めているとは言いがたく、各国の不満を募りやすい構造になっています。加えて、こうした政策は国内政治との関連がある(国内政治とEUが連携して行なっていく)ため、不満の矛先を、 EUだけでなく国内政治にも向いてしまうような構造になっているのです。

 

これが、反対勢力としてのポピュリズム政党を生みやすい構造になっています。すなわち、①EUに政治的正当性がない(ようにみえる)②アウトプットでも結果を出し切れていない③国内の政治がその片棒を担っている。という構造のため、反対勢力からすると、EUの問題を国内政治の与党の問題に置き換えとしてクローズアップしやすい。しかもEUトランスナショナルな組織であるため、ナショナリズムをバックにした排外主義を掲げやすい。こうした環境が、ポピュリズム政党を発生させやすい温床担っているというのが、本書で説明されているところです。

 

前述した吉田徹氏の著作によれば、「ポピュリズムは民主主義にとって不可避」であると言っていますが、欧州のポピュリズムはこれとはすこし異なる形での発生となっているようです。

dajili.hatenablog.com

 

では、では 

 

 

Forbes Global 500の20年前から見えてくること

面白いサイトを発見。

 

fortune.com

ご存知Forbes Global 500を可視化して行こうという試みのWebsiteです。地域別にどの企業がどの場所に位置しているのかをマッピングしたInteractive mapもそれはそれで面白いのですが、興味深いのはrank history chart。

 

1998年時点のForbes global 500のうち100位以内にランクインしている日本企業は26社ありました。500位以内まで範囲を広げると126社、まさに4社に1社が日本企業だったわけです。それが2017年には、100位以内の企業は8社にまで減少しています(500位以内は51社)。20年の間に、日本企業の存在感が急速になくなっているのがわかります。

 

これをキャリアで考えるとどうなるのか、Forbes Global 500にランクインする企業に働いている日本人は、単純に20年前の半分以下に減ってしまっているわけです。こうなると、キャリアを形成する場所として、魅力がどんどんなくなっているのは事実のようです。

 

もちろん、ランキングが全てということでは限りませんが、失われた20年を可視化するにはもってこいのデータなのかもしれません。

 

では、では

芹澤健介『コンビニ外国人』〜読書リレー(137)〜

新書らしいトピックを扱った非常にバランスのとれた本です。

コンビニ外国人 (新潮新書)

コンビニ外国人 (新潮新書)

 

 

『コンビニ外国人』。これを見ると、大都市圏に住んでいる方はある情景を思い浮かべるのではないでしょうか?夜遅くに都心部のコンビニに入ると、店員は全て外国人。(それも、今までとは異なり、外見からして日本人とは思えないような風貌をしている人が多い。)レジに商品を持っていくと、意外なほど流暢な日本語を操り接客してくれる。そんな状態に違和感を感じつつも、なんとなくまあこんなものかと思ってしまう。そんな情景に対して一石を投じているのがこの本だと思います。

 

この本では、コンビニ外国人を切り口に、最近日本に着実に増えつつある外国人労働者にスポットを当て、彼らがどのようにしてコンビニでの仕事をするに至ったのか、そして社会全体としてどのような制度になっていて、どのような課題があるのかについて詳細に述べられています。テーマとして真剣に扱うのであれば、難民なども含めた国際社会学の範囲になりますが、この本はそんな堅苦しさや難しさを感じさせない、ソフトな構成になっており、非常に読みやすくなっています。

 

近年、外国人というと外国人旅行者にスポットがいきがちです。政府が長年目標としていた1000万人をゆうに超え、年々増加傾向にある外国人旅行客ですが、増えているのは外国人旅行客だけではないようです。外国人居留者もここ数年で2倍のペースで増加しており、日本は今急激な変化の中にいるといえるでしょう。

 

外国人労働者というと、あの憎き「研修制度」がありますが、それとは異なるパターンで、日本に就労する外国人が年々増えているという事実があります。日本がこれから人口減社会に突入していく中で、外国から労働力を取り込むということはいかにコントロールしようとしても抗いがたいトレンドになっているというのが現在の状況です。そうした中で、今の国内の就労状況といかにバランスをとりながら、うまく外国の就労者を取り込んでいくのかが今後の課題といえそうです。

 

 

では、では