いま日本の企業に組織開発が必要な理由

 

組織開発の探究 理論に学び、実践に活かす

組織開発の探究 理論に学び、実践に活かす

 

 

ビジネスにおいて組織が重要であることはいうまでもありませんが、ビジネスを考える上で、組織開発についてはあまり注目されていないのが現状でしょう。ビジネスにおいて、いかにして戦略上優位なポジションを構築できるか、あるいはコストダウンを行うべきかというところにはフォーカスがいく一方で、いかにして良い組織を作り上げるかという点に対しては、比較的優先順位が下がっているのではないでしょうか。

 

私もコンサルタントとして仕事を行っていく中で、よくプロジェクトでコストダウンなどに関わることがありますが、ほとんどのビジネスパーソンはいかにしてアイデアを実現するかというところに注目が行きがちで、その背後にある組織のダイナミズムにあまり注目しないのが現状です。しかし、いざ実行フェーズに進むにあたり、実際にアクションを行う担当レベルの腹落ち感が醸成されていなかったり、そもそも別の組織について改革プロジェクトの理解が得られていなかったりと、組織がボトルネックでプロジェクトがなかなか進まないケースが多く存在します。

 

この本は組織開発についてその哲学的なバックボーンも含め体系的に書かれたものですが、これを読み進めるにあたり、組織開発にかかる喫緊の問題意識について考えざるを得ませんでした。

 

なぜそもそも組織開発なのか?この問題意識を考えるにあたり、おそらく以下2つの視点で考えるべきかと思います。

 

(1)新しい職場のあり方が求められている

皆様ご存知の通り、日本は三種の神器である「年功序列・終身雇用・企業別組合」を機能させ、競争優位を確立してきました。このシステム中で、働く人々は自身の仕事にフォーカスすることができ、良好な労使関係を築いてきたと考えられます。こうした中では、組織開発の重要性は大きくはありませんでした。なぜなら組織はすでに企業によって作り上げられたものであり、そこで働く人は何もそのプラットフォームを疑うこともなく仕事に没頭できていたからです。

 

しかしながら、時代の変遷に伴いそうしたシステムが内側から変化していくにあたり、労使関係が変わっているのではないかと考えます。というと、企業を取り巻く環境の変化に伴い、終身雇用を謳っていても完全に保証はできない状態になっているからです。こうした中でそこで働く人も、自分がその組織で成長の見込みがこれ以上ないと判断すると、会社の外に機会を求めることが自然と多くなってしまうからです。実際に、日本の会社に対する信用度は、グローバルで見ても非常に低いと言われています。*1

 

こうした中で、企業は社員が自主的に生き生きと働いてもらう場として組織を設計しなければならなくなりました。さもなくば、人材の流出が免れないからです。

 

(2)人材の多様化が進んでいる

従来は、日本の組織のマネジメントは非常に容易でした。というのも、上述の通り、終身雇用、年功序列というシステムの中で、会社の中の人材はある程度バックグラウンドが似通っていました。大企業になると、4年制の大学を卒業後、新卒で入社、特に転職することもなく同期と同じような異動等を経ている形になります。そうした金太郎飴的人材が組織の中に集まっていました。私はこれはとても素晴らしいことだと思っています。なぜなら画一的な研修プログラムを通じ、人材の共通化を図ることで社員間のコミュニケーションを円滑にすることができるからです。実際日本企業の組織力が世界的に賞賛された時期には、この制度がうまく機能していたのでしょう。

 

しかしながら、日本社会の変化に伴い、組織の中の人材も多様化が進んでいるのが現状です。例えば、労働市場の流動制増加に伴う、転職組の増加。社外で経験を積んできた人を、画一的な経験で共有されたチームの中でどのように機能させるかという問いは、今までにはほとんどなかったかと思います。

 

また、ライフスタイルの変化も上げなければなりません。働く以外の価値観に対して人々が重要視することになってきており、それぞれの社員がより主体的に働き方を選ぶことができるようになっています。これら動きは、今までの企業文化の中にはありませんでした。

 

つまり、多様な人材をマネージし、最大のアウトプットを生み出すという考え方が、今になって重要性を増してきたと言えるでしょう。組織開発においても、こうした多様な人材をどのように活かしていくかというのが、喫緊の課題になっているのではないかと考えます。

 

この本においても、これらの問題意識が強くにじみ出ています。個人的にも非常に興味があるトピックなので、今のコンサルタントとしての仕事を続ける中で引き続き実践していければと思います。

 

 

 

テレワークは組織の生産性を上げるのか?

新型コロナウイルスにより、多くの企業がテレワークを採用しています。そもそも東京オリンピックの開催期間に予想された都市圏の混雑を踏まえ、テレワークを推奨する動きはもともとありましたが、今回の一連の事態によってこのテレワーク推奨の動きはさらに加速しています。

 

ここで一つ気になる疑問があります。それは、「テレワークは本当に効率的か?」というものです。そもそも日本人のほとんどの方々は、オフィスで仕事をすることに慣れきっていたはずで、家で働きたいという願望はあったものの、なかなか制度が整わないというのが現場だったはずです。それが今回の非常事態も相まって、いきなり準備期間もなしにテレワークをスタートしたのですから、本当に生産性が担保されているのか、疑問に思っても仕方ないのかもしれません。

 

ということで、ここで生産性を考える上でのいくつかの視点から考えていきたいと思います。

 

1.移動時間がなくなる 

オフィスを離れて仕事をすると、確かに余計な移動を省くことができます。これは大きなアドバンテージで、世界的にも通勤時間が長いと言われている日本の社会においても、生産性を上げるということに確実に繋がるでしょう。

 

これはかなりクリティカルで、平成28年度の調査では、全国平均で1.2時間を通勤に費やしているそうです*1。現在ほとんどの方が平日平均で7-8時間(残業除く)働いていることになりますから、移動時間を準備時間と考えると、実に10-12%の時間短縮につながるわけです。これは非常に大きいでしょう。

 

2.コミュニケーション

オフィスを離れて仕事するわけですから、当然周りには誰もいません。チームの内部のコミュニケーションにおいても、基本的には電話もしくはビデオで行うことになります。つまり、コミュニケーションのあり方が変わるわけです。

 

オフィスだと、周りに仲の良い同僚もいるかもしれません。彼らと日常について話をすることもよくあるでしょう。雑談がつい長くなってしまって、気がつけば時間がなくなるということもあるのではないでしょうか。

 

こちらは単純に生産性が上がるか上がらないかという議論ではなく、コミュニケーションの質の問題です。一見するとテレワークの方が効率的に見えるかもしれませんが、実はオフィスで仕事している方が生産性を上げる鍵はありそうです。というのも、上述した雑談の中には、仕事の生産性を上げるようなキーがあるかもしれないからです。

 

例えば、雑談の中で、オフィスの中の隣のブロックで働いているチームの今直面している問題を耳にしたとします。その事例をふむふむと聞いている中で、「あれ待てよ、自分たちのチームにも、将来的にそんな問題が起きる可能性があるんじゃないか?」ということに気づき、早めの対応ができます。こうして、雑談を契機に問題を解決することもあるかもしれないのです。

 

そうなってくると、テレワークのコミュニケーションは、あまりにも最適に選びすぎているために、そうした自分の範疇の外にある重要な情報を逃してしまう危険性があります。これはテレワークの潜在的な問題点と言えるでしょう。

 

3.仕事の場所

最後に場所について。オフィスから家へと仕事の場所が変わることによって、集中の度合いは変わります。これは個人差があるようで、家の方が確実に集中できるという人もいれば、オフィスの方が集中しやすいという人もいます。前者の場合、誰にも邪魔されずに自分のタスクに集中できるという点を上げる人が多くいます。一方で後者は、人とinteractiveにならないと効率が上がらないという点を上げる人が多い印象です。

 

ここの生産性の考え方は、人の性格が大きく影響しているかもしれません。MBTIというパーソナリティ調査によれば、人間は人と交流することでエネルギーを得る外向的なタイプの人間と、自分で考えることによってエネルギーを得る内向的なタイプの人間に分けられることができます。これらによってどのように集中できるかは変わってきますので、こうしたタイプも考慮しながら、どちらが効率が良いかを選択する必要がありそうです。

 

総じて、現時点でテレワークが生産性を確実に上げるということは言えない一方で、一部では確実にオフィスで働くことよりもメリットがあることがわかりました。一番良いのは、タイミングやパーソナリティに応じて、テレワークかオフィスかを選ぶことができる柔軟性を持つことかもしれません。

 

 

 

 

『弱いつながり 検索ワードを探す旅』と外出自粛

 

弱いつながり 検索ワードを探す旅 (幻冬舎文庫)

弱いつながり 検索ワードを探す旅 (幻冬舎文庫)

  • 作者:東 浩紀
  • 発売日: 2016/08/05
  • メディア: 文庫
 

 

 統計的な最適とか考えないで偶然に身を曝せ

 

人間は環境に規定される。私たちが思いつくこと、考えること、欲望することは、たいてい環境によって与えられるという否定したいができない現実がある。インターネットの成熟で、人それぞれのパラメーターに適した商品が的確なタイミングで投入される。人々はただそれを自分が欲したかのように与えられる。気がつけば、グーグルの予測検索で満たされた情報を仕入れ、購買行動はアマゾンのおすすめ商品に満たされる。

 
 

 

環境を意図的に変えることです。環境を変え、考えること、思いつくこと、欲望することそのものが変わる可能性に賭けること。自分が置かれた環境を、自分の意志で壊し、変えていくこと。自分と環境の一致を自ら壊していくこと。グーグルが与えた検索ワードを意図的に裏切ること。  環境が求める自分のすがたに、定期的にノイズを忍び込ませること。

 

 

気がつけば、家にこもってネットで全てが型つく時代になってしまった。検索をかければ、自分が気に入ったものが手に入る。でもそれだけでは、自分が知っている情報でしか動くことができない。最適化も良いが、それだけだと何が何だか分からなくなってしまう。外に出て、偶然に身をまかせること、あたらな発見を経て新しい欲望を生み出すこと、それが大事なんじゃないかというのがこの本のメッセージ。

 

今のご時世きついけど、家にこもるのが続くと何だか滅入ってしまう。多分この本で書いてあることが原因なのかもしれない。

 
 

家族帯同でMBAに行く際に考えるべき視点

現在海外MBAを考えている方から、「家族帯同のメリットデメリットを教えてください」という質問をいただきました。私は海外MBAの期間中、妻と子供を帯同していたこともあり、よくこの手の質問を受けるのですが、よく見落としがちなのは以下の点かと思います。

 

(1)家族の帯同によって得られるベネフィットは、家族が日本にとどまることよりも有益か?

ご家族を帯同される場合には、大きな出費になるかと思います。特に私費になると、自身の学費に加えて、住居や生活費等も頭数増えることになりますので、かなりの出費増となります。さらには、帯同のパートナーが働かれている場合、キャリアに1〜2年の断絶が発生してしまいます。それについて、本当に相手が理解を示してくれるのか、慎重に慎重を重ねる討議が必要でしょう。

 

ただ、家族の帯同によって得られるベネフィットは計り知れません。よくよく考えれば、自分の融通の効く時間が1〜2年与えられるわけですので、大事なパートナーとのゆっくりとかつ充実した時間を過ごすにはとても良いタイミングとも言えます。これは仕事の環境においてはなかなか得られることができないので、学業とは少し異なる話ではありますが非常に重要な要素となってきます。

 

(2)家族を帯同するにあたり、清濁併せ吞むことはできるか?

家族を帯同することはそれなりのリスクおよび労苦が伴います。パートナーが海外生活に不慣れだと、生活の立ち上げに時間を要するかもしれません。また、ご自身が勉学に励んでいる間は、パートナーは実質ひとりぼっちもしくはお子様と孤立した状態にならざるを得ないので、しっかりとしたケアが必要です。駐在生活とは異なり、不慣れな海外の中である程度自活して生活して行くことが求められますので、そのあたりを踏まえて検討する必要はあるでしょう。

 

(3)家族帯同によって留学の目標は果たせるのか?

正直なところ、家族帯同によってデメリットも発生します。それが現地の学生とのネットワーキングの時間が削られてしまうことです。家族のケアや一緒にいる時間を尊重するあまり、クラスメートや課外活動の時間がなくなってしまうということは往往にして起こり得ます。これをどう捉えるかによっては、家族を帯同することについては慎重になる方も一定数いらっしゃいます。

 

総じて、個人的な体験談にもなりますが、家族と一緒に留学をするというのは非常に有意義な時間になると同時に、トレードオフも看過できません。そのあたりも踏まえて検討をする必要がありそうです。

 

海外MBAをキャリアに活かすための3つの視点

遅まきながら、先月末をもって、MBA後に転職した会社で半年が経過しました。半年というのビジネススクール換算ですでに半分をすぎてしまったわけですから、時間の流れの早さを感じます。

 

卒業後しばらくたって実務にも慣れてきて、このタイミングで多くの人からよくMBAに関する相談を受けるようになりました。特に私の場合は、日系企業を経て留学し卒業後は戦略コンサルという、ポストMBAとして典型的なキャリアを歩んでいるため、MBA準備はどのようにすればいいのか、学生生活はどのようか、そして就職活動はどうだったかといったような相談を受けるようになりました。その中でも特に「今振り返ってみて、海外MBAでの経験で何が一番有益な学びだったか」「何がよかったか・悪かったか」という質問をよく聞かれます。この質問、MBAホルダーとして実際にキャリアを積んでいる段階として、少し考え方が固まってきたので、少し整理してシェアしたいと思います。

 

簡単に言えば、以下3つの視点に集約されるのかなと思います。

1.MBAはキャリア・チェンジャーではあるが、キャリアそのものではない

最近感じるこの視点。MBAをとること自体はキャリアではありません。そこでの経験がキャリアとして評価されることはほぼないといえます。

 

これは特に私が所属しているようなコンサルティング業界では特に顕著かと思います。例えば、私の場合、前職がメーカーの営業ですので、主にそこでの知見がアドバンテージとして重宝される傾向にあります。一方で、MBAで何を学んだか、何を行ったかについてはほとんど見られません。というか誰もそんなことは気にせず、過去の職業として何を行ったかに注目がいきます。

 

ただ、私に相談に来る方の中にはこの辺りを混同している人がいて、「キャリアアップのためにMBAを」と考えている人がいますが、MBA自体がキャリアとして評価されることはありません。キャリアとして評価されるのはあくまでも前職の経験であり、何を学んだかではないのというところだけは強調したいと思います。

 

一方、MBAがキャリア・チェンジャーであることには疑いの余地はありません。MBAは良い意味でも悪い意味でもつぶしがききやすく、卒業後の進路を考える際選択の幅が非常に多いというのが特徴的です。今まで何らかの職場の経験によって染められた自分の履歴書を、可能な限りリセットしてくれる、そんな効果があります。そういう意味では、私のようにメーカーからコンサルという転職も可能にしてくれたり、私の知り合いでいたような、マーケティングからファイナンス系のポストへのキャリア・チェンジを可能にしてくれるようなものだと考えた方が良いでしょう。

 

ここで何度も強調しますが、MBAがキャリアそのものに活きるのは、こうした方向転換を行う時のみで、後は実力勝負です。いわばどこかに向かうためのチケットのようなもので、行き先に到着した後は、切符が意味をなさなくなるのと同じように、MBAはキャリアとしては意味を持ち得てないのです。

 

2.MBAは、学ぶコンテンツそのものではなく、学びの途中で生み出される問題意識・イシューに価値がある

これは「MBAの学びで何が一番有意義だったか?」という質問に対する、私の答えです。学ぶものではなく、その中で考えたこと自体に意味があると思います(少なくとも、私はそれを生かそうと思っています)

 

具体的にはどういうことか少し説明したいと思います。例えば私が受けたB2Bマーケティングの授業の話。コンテンツとしては、PricingやBuilding trustといったようなありきたりな話で、日本でも本屋に行けばそれなりのリソースは手に入りそうなトピックが並んでいます(それだけ、日本の書籍が有しているコンテンツ力は目を見張るものがあります)。振り返ると、これらの内容については自分で勉強しようと思えば勉強できるもの、と言えなくもないのです。

 

ただ、その授業で一番印象に残っているのが、そもそもB2Bマーケティングをどのように考えるべきかという問題設定の方でした。以前までは、B2Bマーケティングの意義はそこまで大きくありませんでした。重厚長大産業はほとんど垂直統合で車内で何でも行うという方針だったからです。ただ現代では、垂直統合が徐々に解体しており、バリューチェーンの中で異なるプレーヤーが活躍することが多くなってきました。そうした中で、いかにB2Bマーケティングがあるべきなのか、どのようにして、今まで内部に取り込まれていたvalueを、外部の関係で、より目に見える形で獲得していくか、という問題意識を教授が話していたのが印象的です。この視点は、どのような知識を得るよりも原点でのマインドセットという点ではとても良かったと思っています。

 

この授業に限らず、多くの授業で自分の問題意識を掻き立てるトピックはありましたし、学生との交流を通じて培った考え方というのは、これからも財産になると思っています。

 

3.MBAネットワークを活かせるかはあなた次第

最後にネットワークについて。疑う余地もなく、MBAでは今までにないネットワークを培うことができます。特に欧州のMBAだと、それこそ世界中からバランスよく学生が集まっていますので、その幅は非常に広いです。例えば私の場合、同じコンサルティング会社に就職したクラスメートがおり、世界中のオフィスにネットワークが散りばめられているということができます。私の場合チャットグループを作っていて、その所属は多種多様。全大陸をカバーしています笑

 

ただ、これを活かせるかどうかは、どのようなキャリアを求めているかによって変わってくるかと思います。卒業後も日本に引き続きいるということであれば、このネットワークを活かす機会は限定的になりますし、もっとグローバルな場でキャリアを深めていきたいというのであれば、このネットワークは非常に強みになる武器となり得ます。すなわち、MBAのネットワークは活かすも殺すもあなた次第、ということができそうです。

 

 

 

 

『残酷な進化論:なぜ私たちは「不完全」なのか』から、アンラーンを考えてみる 〜読書リレー〜

 久しぶりに読書リレー更新。今の会社に入ってからも、相変わらず本は読んでいるのだが、書かないと忘れる。ということで忘備録も含め書いていきます。

 

 生物学に関して、特に進化論について様々なトピックで話をまとめた本。内容としては、非常に平易に書かれており、とてもわかりやすい。日常に溢れる様々な健康・生活に関するトピックを生物学と結びつけた時にどのようなことが言えるのかをまとめているので、気軽な気持ちで読むことができる。

 

ただ、個人的にこの本から得た学びは大きい。特に、この本で一貫している考え方として(というか自身も驚いた観点)として、「進化とは向上というものではない」というものがあった。

 

進化というのは、単純にその環境に適応するために変化するということであり、機能を向上させるためのものではない。普段我々が進化というと、何か従来できなかったことができるようになるという観点で語られやすい。しかしよくよく考えてみれば、哺乳類は水中での生活から陸上の生活に切り替える際に、水中での生活に必要な機能を削ぎ落としていっているわけだし、ある観点で見れば必ずしも進化とは単線的な成長というわけではないのである。

 

これを読んだ時、「アンラーニング」も進化ではないか考えるようになった。すなわち、学習棄却というのは、何かを捨てるということだが、必ずしも向上というものではない。すなわち、過去に学習したものから、単数の経路でそれをさらにより良くするということではない。新しい環境に適応し、過去に学習し得たものを取捨選択しながら変化させていく、そういうプロセスではないかと感じるようになった。

 

このように考えると、非常にスッキリする。というのも、向上という観点でアンラーニングを考えた際、過去を否定してしまうという自己矛盾に陥るからだ。具体的にいうと、「今までの考え方を捨てて、この会社でやっていくために必要なスキルを習得してください」という言葉を、「キャリアは単線的で、正しいスキルセット習得のために成長していかなければならない」という考え方で解釈してしまうと、「今までのやり方が間違っているから、新しい考え方に刷新しなければならない」という方向に持っていきがちである。そうなると、前者の「今までのやり方が間違っていた」という点にフォーカスがいきがちであり、結果として過去を否定してしまうことになる。これは精神衛生上良くない。というのも、人間誰しも自分がやったことを誤りだと認めたくないからである笑

 

そういう点で、一度別の分野である生物学の観点で、進化とは向上ではないというところの視点をもらえたのは、アンラーニングを考える上でもかなりの示唆になったと感じている。

 

 

安い国日本は別に停滞していない

日本の皆さん、物価が安いとか経済が悪いとか騒ぎすぎじゃない?そんな悲観的にならなくてもいいんだけど。

 

 

 

日本の停滞を嘆くニュース

と思うようになった今日この頃。今日もそんな気持ちにさせるニュースがまた一つ。日本経済新聞が「価格が映す日本の停滞」というもの。ダイソーやディズニーランドの入場料が、他の国と比べて安いということをベースに、「日本の経済が停滞している」という議論に持っていっている。

 

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53046270W9A201C1SHA000/

(有料記事になるので、非会員の場合は無料閲覧数が減ります)

 

この記事の論旨をまとめると以下のようになる。

①調査の結果、以下製品やサービスの価格が、他の国と比べて日本の方が安いことがわかった。

ダイソー:中国などアジア各国と比べて50%ほど

・ディズニーランド:アメリカと比べて半値近く

アマゾンプライムアメリカと比べて半値以下

・ホテル:ロンドンの一泊二日は東京の一泊二日の二倍以上

②他の国と比べて日本の価格が安い理由として、為替レートは一部だが、全てを説明しきれない

③実質賃金の上昇が、世界のトレンドに比べ低いので、日本の賃金停滞が物価を引き下げていることが理由として挙げられる

 

これらの議論をベースに、この記事が伝えたかったのは「日本は停滞しているのではないか?」というものだ。

 

ただ、ロジカルに考えると、この議論「?」となってしまう。以下にその理由を説明したい。

 

「①調査の結果、以下製品やサービスの価格が、他の国と比べて日本の方が安いことがわかった」の落とし穴

 まず①から見ていこう。記事では製品やサービスが日本で安いことがわかった、というものである。ただこれ、論理的には何も言っていないに等しい議論である。

 

理由は次の二点である。

(1)「価格が安いことがわかった」というのは、数多くある製品・サービスの一部分でしかない

今回の記事では、様々な製品・サービスの比較が紹介されているが、それでもこの世の中には様々な製品がある。それら全てを比較しなければ、「日本の方が物価が安い」ということにはならない。

 

事実、同一の製品で日本の方が高いものはいくらでも存在する。一番わかりやすいものでiphone11 pro。製品としては全く同じものであるが、SIMフリー版で一番安価な64GBモデルの場合、日本だと117,480円(税込)で、アメリカでは999ドル、本日の為替レートである108.59をかけると108,481円で日本の方が高いということになる。はい、これで反証完了。価格が高いものがありました。

 

(2)比較している製品・サービスは本当に同じものか?

今回比較しているものは、ダイソーやディズニーランドといった製品・サービスが含まれる。一見すると、同一のもので比較できるのではないか?と思いがちだが、これが違う。

 

というのも、ダイソーをイメージしてもらいたい。この記事では日本よりもアジアで売られている方が高いとし、日本の物価の安さを憂いているが、果たして安いことが間違っているのか?

 

一つ挙げられることとして、単純に製品にかかるコストが違うことが挙げられよう。すなわち、ダイソーは製品を日本から輸出しているかもしれない。そうしていると、必然的に関税や輸送費などの追加のコストがかかってしまう。また、製品のラベルなどを現地の言葉に変える必要が出てきてしまう。そうした費用が重なってくるので、たとえ製品が同じといえどもかかってくる費用が違うのである。

 

またダイソーの市場におけるポジショニングが関係しているかもしれない。日本においてダイソーは、100円であることに価値が置かれている。100円という他者を寄せ付けない価格戦略をキープしているからこそ、顧客の心をがっちり掴んでいると思う。これが仮に200-300円の製品ばかりになってしまったら、大元のイメージを損なうことになるわけで、顧客離れが起きてしまうかもしれない。

 

しかし同様の認識は、国が変われば異なってくる。海外に出ると、ダイソーは否が応でも日本ブランドとして認知される。そうなると、日本が持つ「品質の良い」ブランドが生きることになる。そうすると、必然的に市場におけるポジションは変わり、もう少し高めの価格設定にしたとしても顧客は寄ってくる。そこにマクロ経済的な、購買力はあまり関係してこないのである。

 

つまり、単純に製品の安い高いだけで、その国の購買力が見れるとは限らないというのがここのポイントだ。

 

「②他の国と比べて日本の価格が安い理由として、為替レートは一部だが、全てを説明しきれない」って本当?

為替レートが原因の一つというのは、確実にいえそうだ。というのも、実際に日本の為替レートはかなり安く設定されている。それは、この記事でも挙げられているビックマック指数を見てもわかる。*1

 

ちなみに余談にはなるが、この為替レートの低さが日本の輸出を増やし、国際市場における競争力を強め、結果的に日本の経済の底支えをしているということにもなる*2。さらには、為替レートが安い分、観光などのインバウンド需要が増えることになる。もちろん為替レートはインバウンド需要増加の理由の一つに過ぎないが、近年の訪日外国人の劇的な増加に影響を及ぼしていることは否定できない*3。となると、為替レートが原因の一つによって引き起こされる物価の安い現象は、別に悪いことでもないように思える。

 

「③実質賃金の上昇が、世界のトレンドに比べ低いので、日本の賃金停滞が物価を引き下げていることが理由として挙げられる」は言い過ぎ

最後に3つめの論点。これは流石に拡大解釈をしすぎている。

 

まず、日本の賃金は上昇している。事実、リーマンショックの2009年以降日本の平均賃金は確実に上むきに増加している。2018年は440.7万円であり、6年連続で上昇しているのだ*4。すなわち、日本の賃金は停滞していない。

 

また、記事の中では大企業のベースアップが渋いことを理由に、賃金がなかなか伸び悩んでいるという箇所があったが、これも大企業だけにフォーカスを当てて日本全てを見ていない。

 

まとめ

以上見てきた通り、物価が安いからといって日本が停滞しているとは必ずしも言い切れない。このように端的に結論に持っていくのも怖いのだが、何よりも怖いのは、色々な情報を見ても、最終的に「日本は停滞している」というネガティブな感情に持って行かれてしまう点にあるのでは。この前の教育の面でもそう感じたが、別にみんなが思っているほど、そんなに悲観的にならなくてもいいんじゃないかなと。

 

 

*1:ビックマック指数については、以下リンクのブログか、wikiを参考にするとわかりやすい。https://blog.mummysgold.com/tag/big-mac-index/

*2:為替と輸出の関係は以下リンクを参照されたいhttps://www.jftc.or.jp/kids/kids_news/japan/tokucho.html

*3:http://www.mlit.go.jp/kankocho/shisaku/kokusai/vjc.html

*4:https://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_eco_company-heikinkyuyo