林 壮一『体験ルポ アメリカ問題児再生教室~殺人未遂、麻薬、性的虐待、崩壊家庭~』〜読書リレー(108)〜

 

 ジャーナリストによる、アメリカに存在する「Opportunity School」いわゆる問題児再生の教室のルポ。緻密なインタビューと再生教室における指導体験をベースに、アメリカ社会の最底辺層における教育状況と、課題について浮き彫りにしています。

 

アメリカにおいては、学校で何らかの問題を起こした生徒を集め、社会に復帰できるように更生していく「Opportunity School」なるものが存在するというのです。詳しくは本書を見ればわかるのですが、中には担任をナイフで殺そうとしたり、拳銃を学校に持ってきたりと、日本から考えるとかなり桁違いの問題児が取り上げられています。

 

一方で、Opportunity Schoolのレポを通じて、そうした問題児が問題行為をすることもしかり、そうした問題児を生み出してしまう社会構造についても思いを馳せざるを得ません。Opportunity School に送られてくる生徒の 98 パーセントは家庭が崩壊しているというのはOpportunity Schoolの教師ですが、家庭崩壊を生み出している社会の現状を見ていかない限り、こうした問題は存在し続けるのではないのか?と考えてしまいます。

 

アメリカにおいては、貧富の差が拡大し、また移民の増加に伴い、基盤となっていたローカルコミュニティが徐々に崩れていく状況にあります。2016年にトランプ大統領が就任したことは記憶に新しいですが、彼はそうした白人貧困層に「アメリカファースト」を唱え、ポピュリズムの手法に訴えることによって支持層を拡大していったわけです。

 

政治学の投票行動における理論においては、人々の社会理解のレベルが高まれば高まるほど、投票の費用対効果を考えて投票率は下がるといいます(政治の他にも、自分の生活を豊かにする手段はいくらでもあるという前提のもと)。これはすなわち、政治に関する関心が薄れていく、ということを表しています。しかしながら、このように大統領選で新しい支持層を獲得して言ったということは、人々が政治に救いの手を求めた、ということになるのであり、他に頼れるようなセーフティネットがないということなのです。ここから、ポピュリズムは、貧困層の訴えの声をあわらしているのであり、そうした貧困層の出現は、すなわちこうした問題児再生教室を生み出す温床になっていると考えられなくもないわけです。

 

今でこそ日本ではそうしたポピュリズムの動きは見られませんが、近い将来貧富の差が拡大するにつれて、そうした動きが出てくる可能性もあるのでは?と見られています。そうすると、巡り巡って、こうした「問題児再生教室」のような状況が生み出される可能性もあるのではないんだろうか、そう考えさせられてしまう本でした。

 

では、では