塚越 寛『リストラなしの「年輪経営」~いい会社は「遠きをはかり」ゆっくり成長~ 』〜読書リレー(122)〜

 非常に特殊な会社の状態であるために、それをまとめたこの本も、非常に特殊なロジックを有しているような気がします。 

 

 

 伊那食品工業株式会社の社長である著者が、自身の経営論についてまとめた本がこれにになります。 伊那食品工業株式会社というと必ずしも知名度は高くないといえますが、寒天食品を中心とした製品を販売するメーカーであり、特筆すべきは、創業以来20数年にわたって増収増益を継続しているという点です。

 

長期的な成功を収めた企業の長であるがために、その経営論も「長期的」視座をふんだんに取り入れたものになっています。二宮尊徳の言葉に「遠きをはかる者は富み 近くをはかる者は貧す」というものがあると引用し、短期的な利益にとらわれず身の丈にあった長期的視座による経営を心掛けよと警鐘を鳴らしています。

 

特に私がこの本の中で共感を抱いたのが、「ブームで得た利益は、一時的な預かりものとこころえよ」という考え方です。事業というのは図らずも好調が続くタイミングというのがきます。その「波」をしっかりと見極めること、すなわち今の好調は自分の実力からきているのか、それとも追い風の中にいるのか、判断をしなければならないということです。「フォローの風に乗った時に、これが自分の力だと思い違いし過大投資をして、後々痛い目に遭うことがあります」といっている通り、この見極めができないと経営にとって大きな痛手になるのです。さらに、「難しいのは、フォローの中にいるのか、自分の力なのか、判然としない場合です。経営者は、そこを良く見極めないといけないと思います。私の経験では、そうした場合、多くはフォローの中にいるもの」だと言います。すなわち、必ずしも自分の実力を過信せず、身の丈にあった経営を目指していくことが大事だということです。

 

この言葉は、電機メーカーを中心とする近年の動きに対して警鐘を鳴らしているのではないか、そんな気がします。思えば電機メーカーのSHARPが液晶への過大投資により経営難に陥ったのも、こうした「フォローの風に乗った時に、これが一体どういう理由なのか」をきちんと見極められなかったことが大きいのではないかと思います。こうした点につき、このようないい日本企業に学ぶべきなのではないのかなと考えてしまいました。

 

では、では